3.
一体全体どういうわけなんですかね。
今日は家に帰ったら、とっておきのアイスを食べようと思ってたんですよ。
明日も仕事なんですけど、どうしましょう。
あー、お腹が空きました。
ねぇ、神様。
神様はお忙しいのだろう。
信仰心の欠片もない者の非常事態に駆けつけてくれるほど、暇じゃない。わかってる。
知らんぷりされ続けても話しかけてしまうのは、もちろん現実から目を逸らすために決まってる。
少しだけ落ち着いた私は、とりあえず動かないことに決めた。
遭難したら、焦らず動かない。
そんなようなことを聞いたことがある、ような気がしないでもないからだ。
比較的大きな木の根元に腰掛けて、空を見上げる。木々の間から見える夜空には星が見える。月も出ている。
星座には詳しくない。そこから方角や地域を見出すなどの高度なことは、私にはできない。
ただ、途方に暮れて見上げただけだ。
祖父母だったら、こんな状況すら楽しんでしまいそうだなと、ふと思う。
大抵の事は笑って済ませてしまう。苦難すら楽しんで乗り越える。おおらかでアグレッシブな人達だった。
それにしても、誰もいない。
人も、獣も、鳥も。
とにかく生き物の気配がしない。
風も吹かないから音もしない。
自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえる。
不気味なはずなのに、不思議と恐怖を感じない。
危険なことはない、大丈夫だと、漠然とそう思う。変なの。
さっき、チョコを少しだけ齧った。
空腹を満たすことはなかったけど、広がる甘さに肩の力が抜けた気がした。
少しすると、心地よい眠気に包まれる。
私、こんなに図太かったんだ。
幸い、寒さは感じない。フードをかぶって、目を閉じる。
あの人たちの血を引いてる実感がわいて、こんな時なのに少しだけ嬉しくなった。