2.
夜が迫っていた。
森の中。ひとり。夜。
急に、とてつもない不安に襲われる。
意識して深く呼吸をする。吸って、吐いて。
自慢じゃないけれど、生まれてから21年、アウトドアとは縁遠い暮らしだった。
休日は基本、家で過ごす。お家大好き。
でもまぁ、誘われたらできるだけ断らない主義。
友人に海に誘われ行ってみたら、肌が真っ赤に腫れ上がって終わった。
キャンプに誘われ行ってみたら、虫に刺されまくって酷い目にあった。
軽くハイキングに行けば捻挫をし、川釣りでは釣果ゼロの上、全身びしょ濡れになって幕を閉じた。
そう。自然と戯れるための知識もスキルも皆無なのが、この私。
その私が、この森の中で一夜を過ごすのか...。
この際、なぜ家の近所から森の中に移動してしまったのかは置いておく。置いておきたくないけれど、置いておく。
現状、暗くなり始めた森の中で人間がするべき行動とは一体...?
ふと足元を見る。履きなれたスニーカーと動きやすいパンツ。ヒールとかスカートじゃなかったのが、せめてもの救いかな。
私が勤めているのは小さな運送会社。事務員だけれど、荷物に関わることもあるので動きやすい格好が推奨されている。
今日も適当にジーンズとパーカーを着て、背中にはリュック。
思い立って、リュックを下ろして中身を確認する。
スマホ、財布、家の鍵、ティッシュ、ハンカチ、マグボトル(水入り)、食べかけのチョコレート。
スマホの画面は...圏外。嘘だと言ってくれ。
他に役立ちそうなものは少ないけど、水とチョコはありがたい。
あの、神様、
ここって肉食獣とか、いないですよね...?