1.
困った時にだけ神様を頼るのは、私の悪い癖だ。
でもこれは、さすがにこれは、頼りたくもなる。
いつもの家路だった。
定時に退社して、寄り道もせず家に帰る。
待ってる人のいない家。
だけど温かい想い出がたくさん詰まった家。
祖父が1年前に病気で亡くなり、後を追うみたいに祖母も半年前に他界した。
仲のいい夫婦だったから、あちらで再会を喜んでいることだろう。
両親は、いない。
父は顔も名前も知らない。
母は、私が小さな頃に事故で亡くなったらしい。薄情だけれど、幼すぎてよく覚えていない。
育ててくれた祖父母には感謝してる。
それはもう、可愛がってくれた。愛してもらった。
だから、ひとりの家は、他人の家みたいだ。
その時、軽くつまずいた。
あ、と思った。
危ない。危ない。転ぶのは絶対に嫌。
懸命に体勢を保つ最中、ほんの少し立ちくらみのような目眩がした。
反射的に目を閉じて、開けたら、
――景色が一変していた。
転ぶことはなかった。ただ、そこはもう、見慣れたいつもの路地ではなかった。
「...」
はて。
薄暗い視界に広がるのは、舗装されていない地面。土...?
いやいやいや。
そんなはず、ない。
もう5分も歩けば、家だった。
住宅街を歩いていたはずだ。
こんなにも緑の匂いが濃いはずがない。
ゆっくりと周囲を見渡す。
見慣れた家々はなく、背の高い木々に囲まれている。目を凝らしても終わりは見えない。
パニックになることはなかったけれど、1歩も動けなかった。
そして私は、いつもの癖で、信じてもいない神様に話しかける。
ここは、どこですか?
答えは、もらえなかった。