15.
あれ、なんでみんな見てるだけなの?
あの、一緒に戦いませんか?
こいつけっこう頑丈だし、強いんだよね。
牛に似た獣。
でも牛と違って、牙があるし前脚の爪は厄介。
見上げる位置に頭がある。
森で相手してたのより、なんかでかい。
少しでも気を抜いたら、一瞬で殺されそう。
狙うのは後ろ足だ。
ものすごいジャンプ力だから、それをまず潰す。
跳べなくすれば、勝機がある。
邪魔をされて怒ったのか、そいつが吠えた。
肌が粟立つ。体の奥が熱い。
分かるよ。イラつくよね。
でもね、私だって怒ってるんだ。
小さな子どもを狙うとは...許すまじ。
拝借した剣を、振りかぶる。
思いきり投げると同時に、身を低くして駆けた。
狙うは一点、後ろ足。腱を狙う。
――焦るな。
非力な私は、一度では致命傷を与えられない。
急所を狙うのは、一番最後でいい。
***
「おにいちゃん、ありがとう」
ぷっくりほっぺの可愛い子が言う。
大きな目がこぼれ落ちそう。
その笑った顔が、思った以上に胸に染みた。
涙ぐむ。
荒んだ生活してたから、ここ数日。
そんな無垢な笑顔を見せてくれて、こちらこそありがとう。
「...怪我がなくて、よかった」
しゃがんで視線を合わせる。
笑ったつもりだけど、顔の筋肉が強ばってぎこちない。
ああ、笑うのも久しぶりなんだ。
両手で顔を挟んで、頬の筋肉をグリグリとほぐす。
それを見ていた子どもが真似をして、二人向かい合って変顔で見つめ合う。
「...ぷはっ」
同時に吹き出した。
今度は、自然に笑えたと思う。
「...おにいちゃん、きれー」
うっとりと言われ、首をかしげた。
きれー...?きれい?
自分の姿を見下ろす。
服は所々破けているし、ちょっと血もついてるし、全体的に薄汚れてみっともない。
「かっこいい」
今度ははっきりとほめられ、戸惑う。
きらきらした純粋な眼差し。
あれかな、ピンチを救ったヒーロー的なフィルターがこの子にはかかっているんだな。
そりゃそうだよね。あんな化け物みたいなのを目の前にしたんだから。
「...えと、その、ありがとう」
ほめてもらったので、とりあえずお礼を言う。照れる。女の子は、満足そうに頷いた。
ささくれだった心が浄化される。ああ、子どもって素晴らしい。
きれいも、かっこいいも、人生で一度だって言われたことがない。フィルターってすごいな。小さな子に貰った言葉だからこそ、嬉しい。宝物にしよう。
それに、感謝された。
心の奥底に沈んでいた罪悪感が、そっと拭われた。
たくさんの命を奪ってしまったけど、この子を助けられたことは、きっと一生、誇りに思う。




