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お前も既にラブコメディ

作者: 愛猫

 「雨、強いなあ……台風来てたっけ?」


 家賃がそこそこ高い高層マンションに住み窓を閉め切っているにも関わらず、

かまいたちの如く勢いで吹き荒れる風と窓ガラスに打ち付ける雨粒の音。


 「これじゃあ集中も出来ない……明日の入学式、中止にならなきゃいいけど」


 自然の音を排除することは叶わないが、気を取り直してモニターと向かい合う。

ダブルモニターの片方ではアニメを垂れ流し、もう片方では小説を書いていく。

今書いているのは「学園ラブコメ」だ。


 ───……ドン。


 中学でラノベ、特に学園ラブコメに染まりきってしまった俺は、

それ以降色んなラブコメ展開を妄想するようになり、こうして時々文字に起こしている。


 ───……ドンドン。


 それにしてもこの雨風、本当に朝まで続きそうだ。

止むどころか、勢いが強まっている。

聞こえてくる音がそれを示している。


 ───ドンドンドン!!


 「はぁ……」


 そして聞こえていたもう1つの”音”を迎えに自室を抜け、玄関の扉を開ける。


 「うるさいぞ。今何時だと思っ……ちょ、まって」


 「うわあああああああん!! ひろたか助けてええええ!!」


 泣き叫びながら転がり込んできたのは一人の少女だった。

俺の手はドアノブにかかったままで、もう片方の手は壁に付け体重を前に預けている。

突進してくる少女を避けるのは容易い……なんてことはなく。


 「水瀬……落ち着け……とりあえずどいてくれ……」


 「うぅ……無理ぃ……台風怖いぃ……寝れないよぉ……」


 俺の体の上に倒れ込む彼女の名前は”水瀬 薫”。

年は俺より上で、幼い頃から何かと俺の面倒をよく見てくれた隣に住む幼馴染。

だが今ではこんな状態なわけで、あの頃の年上の威厳は一体どこへいったのやら。


 「ったく……上がってくか?」


 「ひろたかぁぁ……ありがとぉぉぉ……」


 まぁ、このまま放っておくわけにもいかないしな。


 「あ、勿論ベッドは私が使うからね。私床で寝れないし。抱き枕は必須!! ひ、ひろたかは一緒に寝るの禁止だから!! あとは寝る前にハチミツ入りのホットミルクは欠かせないから……」


 「こ、こいつ……」


 前言撤回とはよく言うものだな。

声に出してないけど。


 「夜這いも禁止だぞっ」


 「うん、少し黙れ」




──────────────────────────────────────────────────────




 「お、小説書いてんねー。アニメは今人気のラブコメ……彼女欲しかったの?」


 「お前まじで黙れよ?」


 「あはは、ごめんごめんってー。ひろたかが色恋沙汰に興味がないのはちゃんと知ってるからね」


 そう、俺は色恋沙汰に興味はない。

正確には、”リアル”の恋愛に興味が沸かない。

俺が焦がれる恋とは、”空想上での恋”ただ一つのみ。

数多のヒロインと踊り踊る日々、深め合う絆、時に笑いあり、時に哀しさあり。

王道から読者の予想を裏切る波乱の全て。

ラノベやライト文庫でしか表現できない、あの”物語”が大好きでたまらない。


 「でもさー。ひろたかももう少し恋愛経験踏まないと、読者にそれを伝えるのは難しんじゃない?いよいよ明日からなんだし、

彼女の1人や2人作ってみなさいよ。」


 む、これは痛いところを突かれた。

俺には恋愛経験がない。

これを決して恥だとは思わない。


 しかし、恋愛経験がない影響か、いくら奇想天外なネタを思いついたところで、一番肝心なシーン。

物語の核に一番触れるであろう部分を、上手く言葉に言い表すことができない。


 ──いいか、ひろたか。作者ってのはな、表現者だ。自分が思いに思い描いたことを表現する創造者なんだ。だがな、それだけじゃ駄目なんだ。

それだけではその物語は完成には至らない。じゃあ何が必要かってか? はっはっは!! それはお前がもう少し大きくなったら教えてやんよ!!


 「……結局、父さんに聞くことは叶わなかったな」


 「ん?なにか言ったー?」


 聞こえないよう小声にしたのだが、どこで会得したんだ、その地獄耳。

マスターされたら厄介だな。


 「いや、なんでもないよ。ほら、もう寝るぞ。いつの間にか雨風も弱まってるし、これなら寝れるだろ」


 「わぁーほんとだー。やっぱひろたかは凄いや!! ひろたかといると安心するね!! 」


 ほんと、元気すぎるがそれが水瀬のいいとこでもあり、水瀬の凄いところだよ。




 そして夜が明け雨風が止み、この春”霧澄 ひろたか”は桜峰高校への入学を果たす。

これからの高校生活で描かれていく物語を、この時のひろたかは知らない。

それに気付くのはもう少し先か、はたまた鈍感に終わるかもしれない。

それが”ラブコメ主人公”の背負う運命の業。

物語が完成するのは、まだ先の話である。

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