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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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428. 巣穴の探査 9

428. Lair Delve 9


お前にとって、あいつとの初めての対話とは、どのようなものだった。


今になって、興味が湧く。

あいつはきっと、笑って自己紹介など、しただろう。


よろしく、俺、Teusって言うんだ。


それだけで、お前はきっと安心させられたはずだ。




しかし俺にとって、それはそれは、耐え難い瞬間だったよ。




殺してもらえると、思っていたのに。


俺を、狼として。


半ば怪物となりかけた俺を、退治して下さる勇者様だとばかり。


それがどうだ。


あいつは、俺のことを、救うなどと。




その時の対話と来たら、思い出すだけで歯の奥が疼くほど酷いものだった。


…俺は時々、何も知らないTeusに対してさえも “俺は狼なのだ” という言葉に頼りなさを覚えて、 “怪物なのだ” と言ってしまったと思う。


不安で堪らなかった。確かめたかった。


俺は、お前に、どう見える?

せめて、悪名高い狼であれ。

もし俺が既に怪物だったとしたら、俺は以前と同じように、狼ですらいられなくなるどころか、手遅れであったということになる。


わかるか?

狼として憎まれるよりも、怪物として憎まれる方が、よっぽど辛いのだ。


もうどれだけ醜くても、狼であることに縋っていたかった!!


そうでないと、もう時間が無いから!!

このまま死んでしまったら、俺は本当に、誰でもないまま、終わってしまう!!


ただ一匹の怪物が死ぬのだ!!




その恐れは、現実となって俺の前に強烈に誘起する。



「なのに…なのにあいつは、何と言ったと思う…!?」


あれは、人間と狼の間を都合よく揺れ動く二面性に甘んじることを良しとしない、俺自身に対する冒涜でもあったのだ。


「あいつは…Teusは…!」




「お前は人の心を持った優しい’狼’だって信じてる、と…!!」




「その言葉は、もう俺を狼でいられなくした!!」


「それほど、ふざけた言葉だったのだ…!!」


「あの時ほど、あいつを憎んだことは、あの後一度も無いっ…!!」





「どうしてかわかるか!? Teusは人だからだ!!」


「誰よりも優しい神様なんだよっ…!!」


「…そして、俺のことを狼であると言った!!」



「そのとき悟ったよ、ああ、やはり俺はどちらでもないのだ、とな。」



「でもあいつは初めて、他の誰にもしてもらえなかったような優しい言い方で、俺が …」


「俺が ‘怪物’ だと言ってくれた!!」


「……。」


「それは今にまで呪いのように続く言葉だった!!」






「でもあいつが言ってくれたことが全てなんだ!!」


「…はじめて俺は、怪物に戻って来れて嬉しいと思った!!」


「やっと、新しい生き方を探せると思ったから…!!」




「…だが、そのままにして…そのままにして、置いて行かれるのだけは、嫌だったのだ!!」


「…。」


「生まれ変わった怪物は、結局また、一匹ぼっち…」


「そんなの、そんなの、あんまりだろ……」



「もう、もう寂しくて耐えられないから…。」




――――――――――――――――――――――




“俺はお前が、人と交わる心を持った、優しい狼だって信じてる!!”




“…Ska、俺はまだ、狼か?”



“俺はお前を、怪物と呼ぼう。”



“対極にある関係だと、お前は甚だ思うまい。”


“…しかし、そうなのだ。考えてみろ。”




“多分…いや、そんな。無垢なふりをする必要も無いか。”


“あいつはな、俺に、人間になって欲しかった。”



“人間に…戻って欲しかったんだよ。”



“引き止められると、あいつは本気で思っていたのかも知れない。だから、笑ってくれた。”


“今思うと、俺はTeusを、最悪の形で、先に裏切ってしまっていたのかも知れないな。”




“俺は、俺が送る言葉が、お前が自身を狼では無い何かとして受け入れることを助けるものだと信じている。”


肯定されて、どれだけ楽になったか、とても言葉では言い表せず、

代わりに俺は、こうして生き永らえていると示そう。


怪物も存外に、悪くない。せいぜい、非凡な己を楽しむとよい。



“俺は、別にお前が、人間へと姿を変えたいなどと思っているとは思わない。”


“だが、狼という居場所を失ったお前が、狼の姿を再び取り戻す日を、心より応援し、願っているぞ。”


“よりきっと、誇り高きお前と出会える日を。”




“だから……”







“頑張ってくれ。”










“ありがとうございます。Fenrirさん。”







“……多分ですけど、僕もそう言って欲しかったんだと思います。”






“本当に、ありがとうございます……”







“ふん……”


俺は、もうこの存在をこれ以上揺らがせず、抱えて歩くだけだ。

お前は、どう生きる?


最後に、また会えるなら、答えを聞きに来てやる。






“さあ、もう行くが良い!”


俺は朗々とした声音で、

晴れ晴れとした抑揚で、友に向かって吠えた。


“此処は、怪物の巣窟。

お前が、潜むべき隠れ家では無い。“



“此処は、大狼がともに眠る住処。

次なる対話の相手が、俺には控えている。“



“……歓迎せねばなるまい。”




“そう、ですね……”




“ありがとうございます。Fenrirさん。”



“ほんとは、眠っている間に、また送って行って欲しかったですけど。”


“Fenrirさんにも、用事が、あるんですもんね。”




“貴方とお話が出来て良かった。”


“出来ることなら、友として。もっと、普通のお話がしたかったです。”


“でも、それは、これから、いつでもできますよね。”




“……だから、今日は、この辺でお暇します。”




“リンゴ、ごちそう様でした。”



“ちょっと、渋いっていうか、苦かったです。”




“もう、果実が実る季節は、終わりですね。”







“…そうだな。”




“次の豊穣を、待つより他あるまい。”





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