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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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428. 巣穴の探査 6

428. Lair Delve 6


彼は嬉しそうに、そう独白を終えると、緊張が解けて押し寄せた眠気に耐え切れなくなったのか、ほっと息を吐き、それから身体をくるりと丸め、鼻先に丁寧に尾を被せて目を閉じた。


“……。”


一度だけ薄目を開き、うっとりと消えゆく火種を眺めると、すぐに微笑みを湛えた寝顔に戻る。




さあ、Fenrirさん。

Fenrirさんの番です。


そう促されているような気がして、俺は怖気づいてしまう。


彼を直視できず、視線も、尻尾も落としてしまう。

こんなの、幼子以来では、無いだろうか。

名前も知らない子供たちに、遊びに入れてと声をかけるような、決して実らぬ勇気を、試されている。




本音を吐露すれば、まさかお前と、こんな話をすることになるとは、思ってもみなかった。


狼であることについて、ならば、まだ良い。

寧ろ俺は、心から歓迎して、互いを褒め称え合うことに、何ら恥じらいを覚えなかっただろう。


そう思えるだけ、俺はまだましだ。

お前を友達だと言って、なんら躊躇わない。


“俺が…”


いいや、照れくさい。

いざ口を開こうとすれば、決して、面と向かってなど、できる筈も。


…だが、そこは、お互い同じ狼どうし。

少しはあいつより、話しやすいとは思っているのだ。

それだけは、信じてくれ。




“俺が…お前から、何も学ばずにいられたと思うか…?”




“……。”


Skaは、俺に独白の空気を保たせてくれた。

良かった、今は、お前の機知が本当に助かる。



“確かに…俺が本当に味わいたかった瞬間の数々とは。


本当は、

父さんや母さんと一緒に過ごす、

他愛の無い空想の数々だった。そう思う。“



“でもそんなの、できっこない。

幾ら我儘で、聞き分けの無い子供でも、それくらいは分かる。

あいつは、軽々と、きっとできる、などと、真っすぐな瞳と笑顔で、無責任に抜かして見せたけれど。

それを欲するべきでは無いと、諦めるぐらいの成長は、自分一匹でも出来たのだ。“


“だから、代わりに欲しいものを強請ることだって。

俺は良い仔だったから、それもしない。“




“俺は、願ってなどいなかった。”



“お前があいつと強引に押し寄せては見せびらかす、

群れとしての、家族。“


“妻の存在。”


“正直、それらを糞喰らえとさえ思った。”




“お前と、あいつだけで十分だった。

それだけで、俺の傷は癒えた。“




“そ、それどころか…それ以上は…俺がいっぱいいっぱいだったのだ。”


“人間に一人、狼に一匹で、もう限界。”


“…俺には、友達がいなかったから。”



“だから家族との愛を絶やさぬお前と、Freyaに心を砕くあいつに、心を搔き乱されるのが、苛立たしくて堪らなかった。”


“益々、俺はあの森から出まいと決心を固くした。

あいつらの勇気に気圧され、自らが必死に被ってきた皮を剥ぐまい、と。“




“なのに、どうして。

どうして、気付いたら、こんな目に遭わされてしまったのだ。“


“あいつのせいだ。

あいつが、お前の家族など、一緒に連れてくるから。“


“お前のせいだ。

お前のせいで俺は、お前の可愛い仔狼たちの格好の玩具にされる羽目になって。“




“そして、そして俺は…”




“俺はSiriusに、出会ってしまった。”




“俺のせいだ。”


“俺が、あの仔を愛しさえしなければ。

あの仔は、もっと自由に四肢を振るい、雪原を自由に駆け巡ることができたのに。“


“俺のせいだ。

俺が、あいつのことを、我が狼の御影に重ね合わせさえしなければ。

彼はもっと、自分自身を、俺からの期待を被ることなく、自由な狼の青春を謳歌できたのに。“



“お前と暮らす群れ仲間たちに、必死に媚びて、迎え入れられようとしなければ…!!”



“俺が、遠吠えの真似事なんかに耽った記憶を呼び起こし、加わってやろうなどと、馬鹿な考えを起こさなければ!”


“Teusが、ヴェズーヴァを治めるようになってから、不用意に、お前たちの根城に赴き、関係を築こうなどとしなければ!!”


“俺はTeusを止めるべきだった!!”


“大狼の意思を薄めず、繰り返される悲劇さえ超えて、狼たちと共に生きようとするあいつの意思など、あの場で踏み躙ってでも、諦めさせるべきだったのに!!”



“俺のせいだ。

迎えられて良い気になった俺が、俺が自分自身を、群れ仲間が慕う御影に、重ね合わせなどしなければ…!!“



“我が狼はあの時、来なかったかも知れない。”



“俺のせいだ。

俺は、Siriusを超えようと、本気で思ってしまった。“


“あれだけ…あれだけ、我が狼の劣等であり続けることを、悦んでいたのに!!”


“たった一度、人好しなあいつと、それ以上に人を愛した女神に与えられた奇跡で…!!”


“たった一度!

Siriusがあいつと起こしてしまった奇跡で…!!“




“俺は…Fenrirを、退治したんだ。”



“俺は、きちんと、あの方に席を譲り、負けていたはずなんだ。”



“俺が、勝っても、何の意味も無かったのに。”



“弱くなりたかった。”




“どうせ、俺の元を離れる運命ならば。”



“彼女に、真心を抱いたまま、ヴァン川を渡らせてやれば良かった。”


“…俺では、何の代わりにだって、なれやしない。”




“Ska、本当に済まない。

彼女を、あんな目に遭わせたのは、この俺だ。“




お前が正しい。


お前は、俺が目指すべき先生ではなかったよ。




お、俺が…

俺が、必死に認められようとしていたのが…




“お前たち狼だったことが…!!”




“こんなにも間違いだったんだ!!”




“うあ゛ぁっ…うぅっ……ごめんっ……ごめんなぁっ…すかぁっ…”




“俺はぁっ…おれ、わぁっ…あ゛あぁっ…おれは…だ、、めだったんだぁっ……”










“俺は、お前のような狼となるべきではなかったぁ゛ぁ゛っっ!!”










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