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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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428. 巣穴の探査

428, Lair Delve


よくよく考えれば、ある種、当然の風景の(Scape)変容( Shift)と言うべきなのかも知れません。



もし、リシャーダが、Teus様の望んだ理想郷であるとするならば。


喩え、この島に冬は来なくとも。

狼の故郷とは、Fenrirさんが愛した景色であるべきです。


温暖な南の島が、唯一媚びることで貴方に寄り添うことがあったとすれば。


“わあ……”


そう、灰に埋もれた山腹は、僕らに、貴方の毛皮が白銀に輝く季節を彷彿とさせたんだ。


この静けさ、胸が躍る。

リシャーダでは、全然そんな感じはしなかったのに。

Fenrirさんの住む場所だけが、様変わりしてしまっている。


足元から覗かせるのは、枯れてしまった大木の枝先でしょうか。

きっとこれは、大嵐に耐えかねた大木が折れてしまって、僕の足元に転がっているだけですが。

そんなに、高くまで積もってしまったんですか。信じられません。


実際、僕が目にした灰の濁流は、今は大人しい、やや濁った小川に戻ってしまっています。

これなら、安心して、上流へ向かって行けそうですね。


足元も、全然泥濘んでいません。

寧ろ、僕の脚の裏で支えている感触は、凍った雪面そのものです。

ちょっと、蹴り心地が悪くて、冷たくないのが、変な感じがするくらい。


変な感じと言えば、戦ぐ風も、あんまり心地よく無くて、毛皮が喜んでいない感じがします。

雪原よりも、やや鈍い光の反射は、きっと天気が悪いせいなのでしょうけど。

でもやっぱり一番は、雪の臭いが、全くしないことですね。

絶対に、もう舌で舐めたりなんかしません。


“粉っぽくて…くしゃみ出そう。”


そしてそれは、Siriusさんによれば、この森が、死に絶えたことを意味します。

これは、雪では無いから。覆い被さった植物たちを、窒息させてしまうんだって。


つまり、春は来ません。

それでも、Fenrirさん、貴方は嬉しいですか?

ずっと、冬であったなら良いのに。春が近づくと、頻りにそう零していたっけ。


雪でべしょべしょになった泥溜まりを歩くのが嫌いだ。

幾らでも走れた身体に、熱が籠るのが鬱陶しい。

青の世界が、理想の空が、色味を失っていく。

それから、それから…


何で僕が、Fenrirさんの小言を、覚えちゃっているんだろう。

Teus様は、もっと言えるんでしょうね。Fenrirさんの、そう言う回りくどい言い回しの数々を。


冬は大好きです。飢えを凌ぐことのできるTeus様の膝元で暮らせるのなら、それも良いものかも知れませんけど。でもやっぱり僕としては、少し寂しい気がしますね。






ともかく、これで、道は開けました。


茂みも無く、くすんだ雑木林を抜けるのは、容易いこと。

霧が濃くなる前に、予定通り、Fenrirさんに、逢いに行けそうです。


業火の勢いも耐え、硫黄の臭いも、幾分か落ち着いていることでしょう。




――――――――――――――――――――――




「…しかし、先約がおったようだの。」


「何故、初めからそう言わぬのだ。我が気を悪くするとでも、思ったのか?」


「いえ、決して、そう言う訳では…」




「やれやれ、我が返してやった意味が…とんだ無駄足であった。」


「申し訳ございません、我が狼…」


「もう、送り狼は御免だ。主が、あるじの元へ返してやれよ。」


「貴方のお手間は取らせません。…しかし、彼はもう、一匹で帰れるでしょう。」


「鈍いことを抜かすな。結局は、お前が故郷へ帰してやる必要があろう。」


「…その点は、ご心配には及びません。」


「彼も、転送には慣れておりますから。」


「ふん、それは結構なことだ。」




「はぁー…」


「全く、どういうことだ。この我が、巣穴を追い出されてしまったようだよ。」


「二度も、明け渡す屈辱を、あろうことか主に。」


「そ、そんなつもりじゃ…」



「さーて、何処で、暇を潰すとしようかのう。」



「あの街は…」


「快晴の、街で、お待ちいただけないでしょうか。」


「死んでも御免だ。」


「そ、そんな…」



「主は我に、あの老い耄れと、また退屈な時間を過ごせと言うのか?」


「お嫌、でしたか…?」


「主には、ほとほと失望させられるよ。」


「も、申し訳ございません…」




「一体あの男の何処に、主は…」


「……お話させて、頂けますか?」


「二度、死んでも御免だよ。」




「やれやれ、忙しそうで何よりだ。我が居残るまでも、無かったようだの。」


「お願いです。私は、貴方と、もっとお話がしたい。」




「…少なくとも、今はその時ではない。」


「それとも主は、友との約束を、反古とするような群れの一匹であったかね。」


「それは…おっしゃる通りです、我が狼。」




「どうやら、そういう筋書きでありました。」


「お時間が出来ましたら、お呼びいたしますとも。」


「その時は…応えてください。」




「ふうむ。下手なようであれば、無視でもしてやろうか。」




「そうしたら、泣きながら貴方のこと、走って探し回ります。」


「勘弁してくれ。主の泣きごとなど、生前にもう散々に聞き飽きた。」


「…そんな、泣いてないです。」




「どうとでも、するが良い。」


「慕われておる主の対話を、邪魔などしてやるものか。」




「…ありがとうございます。我が狼。」


「主も、暇で苦しい時間を長く過ごし過ぎた。せいぜい、その報いを受けるが良いさ。」



「……幸せなことです。」




「さあて、散歩には手狭な島であるが…」





「オ嬢の土産の一つでも手に入るよう、狼らしく闊歩してやろうでは無いか。」




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