表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
646/728

315. 死の影 2 

315. 13/13 2


それが、我が狼の見せた姿だった。


間もない夜明けの、静かに吹雪く、心地よい青の世界での一場面である。


竜巻の目だけが、その中心で荒れ狂っていた。

びゅうぅ、ごう、ごうと。


彼女が一歩、正しく迷い無き足取りで、Torへ向かって近づくたびに

周囲の空気が青白く燃えては巻き上がり、狼の毛皮を彩る氷となって張り付く。


Freyaの身体は、吹雪に時折掻き消され、

鼻面に醜く皺を寄せた狼の形相が乱れて混じる。


それが、権現だ。

俺が、Fenrir自身と混ざり合ったように。

我が狼が、Garmに希望を託したように



今や、女神は、死神となった。



「そ…ん、な…」



口元には、その契約の印に、

2匹の怪物を瀕死に追いやった、あの狼殺しの大剣が咥えられている。



それで、何を為さるおつもりですか。





“…平伏セ。”


狼の言葉で、そう唸ると、大狼は天高く四肢を蹴って飛び上がる。


「……!?」


彼は、私に代わっての仕返しであると言わんばかりに、

雷神の御業をその場で披露なさったのだ。


ガキンッ


御神渡りだ。


凍り付いた地面を、半回転して切り付けた刃が切り開くと、

割れた氷塊どうしが隆起し合ってせり上がる。


バキキキキキキンッッ……!!!


それが起点となって、次々に崩壊する亀裂が、まっすぐとは言い難い道を辿り、Torへ向かって進んでいくのだ。


「なっ……!!」


応じてやらんと左手で負傷した右手首を掴み、高々と振り上げたミニョルミルだったが、様子が些かおかしい。

Torの引き攣った表情が、震える瞼が、対抗策を持ち合わせていない手札を晒すように、険しい。


立膝の姿勢から、浮遊により力を溜めるだけの余裕が残されていない。

そして、それ以上に、

構えの姿勢に移行するだけの気概に欠けている。


反撃の眼は、もう無い。


「……。」


戦士であるにも拘わらす、あろうことか、彼は、刺し違えたつもりでいたのだ。

絶望の色が、今までの誰よりも濃い。


全力を振り絞って、ようやく捻じ伏せたかに思えたラスボス。

Tor自身も、身を削っての力の解放であったはずが。


こうも容易く、第2形態に移行されては、戦意を削がれるのも無理はない。


それが喩え、俺が味わった一瞬よりも儚い絶頂であったとしても。

見る者には、あの狼が完全に見える。


もう、彼女より長く、生き永らえる希望を見出せない。



ガガガアガガガガガガアガアアッッッ!!



光の亀裂と、氷棘の猛進が、激突する。


しかし、両者の勢いが止まり、拮抗する様な鍔迫り合いは無かった。


呆気なく、一方が輝きを失い、青白い濁流に呑み込まれていく。


「がぁぅっ……!!」


Torの身体は、氷上を弄ばれる粉雪のように、舞い上がった。



“主ヨ、3度ダ。”



ガキンッ……ミシッ…


ズガガガガガガッ……!!


「うぅっ……!!」



“ソレガ、我ノ力ヲ推シ量ル為ニ、主ニ与エテヤル猶予ダ。”



宣告の唸りが聞こえ、

小枝より脆い左腕をだらりと垂らし、はっと顔を上げる。


「うぅっ……」


Torは、がぶりと自らの焼け焦がれた手首に噛みつくと、従者を嗤って震える鎚を眼前に引き寄せる。


「……。」


それは、振り下ろすと表現するには程遠く、

額を打ち付けて、首を垂れる乞いに等しかった。


「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっーーーーーーーーーーーー!!」




ドチャァッ……


「あ゛あ゛っ……あ゛あ゛ぅぅ……ぐぶっ……」


「げほっ……ぼぇぇっ……ぐっ……」


「はぁっ…あぁっ…うぁぁっ…」



ガチャンッ……


ドゴゴゴゴゴゴゴ……



「……!!」



我が狼は、3発目に、手加減をしなかった。

それが、慈悲を与えることにならないと、知っていたからだ。




仔狼に玩ばれる、リスの死体のように。

ぽーんと宙へ投げ出される。


グチャッ…


彼は実際、叫び声の類を漏らさなかった。


「……。」


晴れぬ雪煙の合間に、

観客席の足元に打ち付けられ、だらりと四肢を伸ばしている姿があった。







“ソノ手ニ、武器ヲ焼キ付ケテクレテ、助カッタ。”


“ソレヲ手放スコトガ無イノダ。”


“主ハ、キット、オ嬢ガ迎エズニ済ム。”



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ