311. おおきなしっぽの、ちいさなぼうけん 6
311. A big tail's little adventure 6
霜晴れが今日は嫌に骨に染みる。
人間がどれだけ気取って重たく毛皮の外套を纏おうとも、
疲労に立ち止まれば、忽ち内側から凍えてしまった。
子気味良く割れる土の音、耳慣れる歩調に、既に彼らは気が付いているだろうか。
春はあれから、一度遠ざかってしまったかに見えたが。
この街も、ようやく静かに、凍えるような朝を静かに迎える平和を享受できるようになったのだ。
爪痕の残る傷は癒えない。
だが、少しずつ、着実に。
ヴァン神族は、狼の襲撃から立ち直りつつあった。
「おはよう!みんな…!」
此処は、ヴァナヘイム北域に聳える裏山の麓。
奇跡的に追放を免れ、ルインフィールド邸の元領主が有する裏庭の敷地を、未だ膝元に据えたままだ。
「ごめんね。元気にしているか、やっぱり気になってしまって…」
「様子を、見に来ちゃったよ。」
「分かっているんだよ…?君たちも十分大きくなったから、いつまでもお部屋の中で過ごさせる訳には行かないって。」
「それでは、愛玩犬と、何ら変わらないものね。でも君たちは、そうじゃない。」
「でも、寂しくなかったかい?それとも、俺が過剰に心配してるだけ…?」
「やあ、Buster、それから…Nymeria…!」
「皆は、どうしたの?すぐ近くにいる?」
「ああ、2階にいるんだね。」
「おーい!Aro、Direーっ、おいで!」
「…気に入って貰って良かったよ。此処は、君たちが巣立つまで、好きに使って良いからね。」
階段に腰かけ、マントに隠れた腰元から麻袋を取り出し中身を振る。
「おいでよ。おやつ、持ってきたから…」
「うん、どうしたの…?」
「あれ、今日は、随分喰いつきが悪いな…」
「君たちのお気に入りを沢山持ってきてあげたつもりなんだ。この干し肉、大好物なんだろ?」
「どれだけ遊びに夢中でも、すぐ飛びついてくるのに。」
「それとも上に、何か面白いものでもあったのかい…?」
「俺には、その臭い、全然分からないんだけれどね。」
「あんまり、入りたくないんだよなあ…古いし、床を踏み抜きそうじゃないか。」
「お邪魔するよー…」
「……っ!?」
「うわあ゛っ…!!だっ…誰…!?」
「びっくりした…どうして、子供がこんな所に…?」
「駄目じゃないか!此処は、いたずらで遊びに来て良い場所じゃないんだ。」
「お父さんやお母さんに、言いつけられなかった?この街の外へ出歩いてはならないって。」
「見ない顔だな…何処の家の子だろう?」
「どうしよう。家の者に探させると、それはそれで、面倒なことになりそうだし…」
「お嬢さん。お名前、言えるかな?」
「…お家まで、連れて行ってあげるから。ね?」
「……。」
「え…?」
「なん、て…?」
「まさか…そんな馬鹿な事…!」
「あり得ない、あり得ないよ...」
「……。」
「そんな、嘘…だよね?」
「兄さん……?」




