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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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307. 翼はためくままに 2 

307. Wing It 2


けれどもどうやら、違ったみたいだね。


今回は、僕の出番じゃないみたい。


“ああ…”


“お前だったのか。”


目を瞑ってさえいれば、その奇跡を享受できると信じて、

ほんの数秒の味わいだったつもりだったけれど。

ひょっとすると、随分と長い時間を、凍てつく吹雪に晒されていたのかも知れない。


その幕間を、埋めるように現れた、

首を傾いだ同胞に、気が付かなかったから。



“……。”



僕は首下へと差し込まれる鼻先を受け入れ、

それから頬から首元まで毛皮を寄せ合い、熱い抱擁を交わす。


それが、凄く安心できたのは、この世界に佇む狼が僕一匹だけなんじゃないかって。

あの狼が耐え抜いてきた日常に、一瞬で負けそうになっていたからなんだ。


“駄目じゃないか……”


冬は勝手に、一匹でこっち側へ来ちゃいけないって。

あれ程、Fenrirさんに、心配されていただろう?


でもFenrirさんは、そう言いつつも笑ってたっけ。

どうせ、言うことを聞かずに、冒険をしたがるものだって。


それを留めようとするのは、余りにも無粋。

群れを離れて、新天地を求めようとする一匹狼を引き留める者はいないよね。


喩えそれが、僕の血を引いた、そして自らの翼を宿した息子であったとしても。




“…行ってあげて下さい。”




“聞こえるでしょ?”


“皆、パパのことを呼んでる。”



“…僕が、代わりに向かうよ。”


……?



“やっと、会えるんでしょ?Fenrirさんに。”



“ずっと待ってた。”



“皆のこと、羨ましいと思いながら。

僕は、この日の為に、お留守番をしていた。そうだよね?“



“ね?今なら、行って良いでしょ?”



“大丈夫、僕なら。”


“僕なら、飛べる。”




“……そう言ってるんだ。”




“ああ……。”




“分かった、行っておいで。”




僕は、今度は自分の方から、恭しく額を彼の毛皮の下へと滑り込ませると、

口先の雪屑を舌で舐めとる。




行くなら、今だ。

風が止んだ。







“あの方の世界を、変えて来ておくれ。”





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