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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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280. 辻褄の不一致

280. It doesn’t add up


「あ、お帰りー、Fenrir!ちゃんと時間通りに、帰って来てくれたんだね。」


Teusはまるで、子供が言いつけた門限を守ったかのような物言いで俺を出迎えた。


「此処を寝床と定めたつもりは無いが…、まるで意外だとでも言いたげでは無いか。」


「ううん、でも遠出してると思っていたからさ。」


彼は手招きをして、此方においでと仕草で示す。

やはりと言うべきか、二人は海原…違った、湖面を拝める邸宅の前の庭で、じっくりと濃密な時間を過ごしていた。

良い涼風が流れていた。夕焼けがちょうど姿を覆い隠し、その場に残された僅かな薄明を愉しむのにお誂え向きという気がする。


Teusに気づかれずに、そっと後ろから見守ってやりたかったぐらいだが。

彼女は目ざとく俺の帰還を夫に知らせていたらしい。


「日没は優に過ぎるんじゃないかと思っていたんだ。」


「俺は、昼寝をしに広場へ向かうと言ったはずだが。」


言葉尻を捕らえるようだが、彼の一言一句に不自然さを覚えてしまって良くない。


「でも昼過ぎには、耐えられ無くなったんじゃない?あそこ、日中は日陰になる所、少ないでしょ?」


図星だ。実際、あまりの気怠さに動けていなければ、洞穴へ退避していた。


「全く…どうにかならないものか…?」


「そう。だから最初から、洞穴に向かわないの、変だなと思っていたよ。」


「……。」


「何か、探しているのかなって。」


「いや、別に…」


俺はぶっきらぼうにそうとだけ答えると、それで穿鑿は終わりだと言わんばかりに

二人が見守る焚火へ、顔を並べるようにして座り込んだ。


「ただ…」


お前達の喰い残しさえ、残っていないでは無いか。

食事は、そこの通りでバイキング形式か?

だったら、一度腰を降ろすのは失敗だったな。

まあ、好きな時に喰えるのなら構わないのだが。


しかし。臭いを嗅いだ途端に強まる空腹に負け惜しみを言いながら、乾いた鼻先を丹念に舐め、


「あの場所、本当に球技大会だけが行われていたとは思えんな。」


何の気なしに零した失言が、彼の意表を突いたので、それでは終わらなかった。



「げほっ…え゛へっ…!?」


「テュールさん…?」


俺とFreyaは、殆ど同時に、目を大きく見開く。


「ごべん、変なとこ入った…」


彼は乱暴にコップを地面へ捨て置き、酷く慌てた様子で口元を拭う。


「別に、何かをあそこで嗅ぎまわっていた訳では断じてない。しかし、特別な場所であることは、言うまでもあるまいが。」


「そ、そう…?」


「本当にだ。ただ、どう見てもあの土は、球技をするのに向いていないと思ったぐらいだな。」


俺が爪を喰い込ませても、ちっともグリップが効かない。

あれでは、ボールを投げる動作も、フェイントをかける駆け引きも、あったものでは無い。


「……。」


「…まあ、球技だけでは、無かったかも。ごめん、騙すつもりとか、全然無かったんだけれど…」


「何の話だ?俺の方も、別に鎌をかけようとするつもりは無かったのだが。」


「…いや、俺の方こそ…」


「お前にとって、あの場所は、あまり好きでは無いと言ったな。」


「うん…。」





「差し詰め、’決闘’ と言った所か?」


「…でも、だいぶ昔の話だよ?」


「ああ、血吸石の臭いは、俺の鼻でも嗅ぎ取れなかった。」


「…そうなの?」


「言っただろう。こそこそと嗅ぎまわるつもりは、これっぽっちも無かったと。」


俺は少し声を荒げかけ、代わりに腰を上げて首を緩く振った。


彼女を挟んで、Teusと口論じみたやり取りをするのが耐えられ無かったのだ。

Skaを間に挟むと、それは会話の潤滑油として驚く程機能するが。

Freyaは嬉しそうに微笑んで耳を傾けるだけで、どうにも調子が狂う。


Teusの隣で顔を前腕に埋めるのも癪だが、背に腹は代えられない。


「見世物として、コロシアムのように使われていた時代が、ちょっとだけあったんだよ…。」


「ふん、血気盛んであることだ。」


「勿論、御前試合だから。死人が出ることなんて、無かったと聞いているし…」


「もう良い。自分から急にべらべら喋るな。」


「俺は別にそういうの…」


「心からどうでも良いことだ!」


「……。」


俺は到頭、唸り声を上げ、上唇を捲り上げてしまった。


「ごめん、Fenrir。」


「今の話は、聞かなかったことにしてくれる…?」


「ったく。そう思えるなら、初めから口に出すな。」


「うん…でも…本当に苦手な場所でね。」


「だったら、猶更、この話は終わりに…」


「夢に偶に、見ちゃうんだよ…」


夢……?


「っっぐしょっん…!!」


「っ?どしたの…?」


今度は俺が、くしゃみで二人の注目を集める番だった。


「失敬……気温の変化で夏風邪を引いた。」


「うん…別に、何か怖いことが起こるとかじゃないんだけどね。」


「一人で真夜中に、ふらふらあそこまで歩いて行く夢。それが何とも言えない怖さがあってさあ…」


「いっつも途中で目が醒めて何事も無いんだけど。大抵は汗びっちょりで。」


「ただ、一番怖いのが、最後まで辿り着いたら、どうなっちゃうんだろうって、想像してしまうことだよね。」


「何か、そういう夢さ、Fenrirは見たこと無い?」


「……いや。そういう思い出を孕んだ場所は、持ち合わせていない。」


「しかし……」


「ん、何?」


「いや……Teus、お前まさかその夢、ついさっきまで見ていたというのではあるまいな?」


「……?いや、ずっとFreyaと話してたけど?…ね、Freya?」


「ああ、なら良いんだ。」




「そんなことより、俺が確かめておきたかったのは…」




…互いに腹の裏を探り合うような真似をするのは、良く無いな。








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