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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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277. 厳かな迷子石 2

277.Grim Megalith 2


やることは、至って簡単だ。


“それじゃあ、準備は良いな?Ska。”


“準備も何も、僕、ぶら下がってるだけなんですけど。”


素朴な疑問を、実行に移すことは、最も効果的な糸口の発見に繋がるということだ。


“覚悟は良いかと聞いているのだ。”


実際、本当に何が起こるか分からぬのだぞ。


“だ、大丈夫ですよ。暴れたりなんか、しませんから…”


“よし、では行くぞ…”



そう、単純な話であるのだ。


この隧道(ずいどう)は、まだ開通されているのだろうか?

その検証を、俺達はまだ済ませていない。


俺達は、この暗闇の最奥へ到達できるのか。

将又、反対側へと抜け出てしまうのか。


まだ、持続性を有しているのであれば。

それを、確かめる必要がある。




Teus御一行が、Lyngvi島へと渡航した際、俺が実は未だヴェズーヴァで足止めを喰らっていると考えるなら、まず初めに起こす行動は何だろうか。


ああ。俺に、文句を言いに来るに決まっているよな。


Skaの証言する激昂が、どの程度のものを指しているのかは定かでは無いが、

まあ顔を真っ赤にして、泣くだろうと思う。

あいつが俺に対して、本心から来る怒りを覚えたなら、そうする。


そして、実際にそうしたかったはずだ。


これが、不測の事態ならば。



Skaの判断は、正しかった。

想定外の挙動を示したこの金属箱に、迂闊に近寄ってはならないと考えるのは、全く以て自然な狼の解答だ。

臭いを嗅ぎ、軽く噛んでみることで反応を見るぐらいのことをしても、普通は警戒心を解けば罠に嵌ると心得る。

寧ろこいつが、人工物に囲まれた環境に慣れ親しみ過ぎて、そんな軽率な行動に出るのなら、寧ろそちらを不自然だと俺は捉えただろう。


しかし、Teusは、Skaにそのような判断を、助長させたのではないかと、俺は邪推する。

そうだ。良くないことだと分かっているから、そんな言葉選びで後ろめたさを紛らわせたい。


彼は、得体の知れぬ力を帯びた抜け道に対して、過剰な反応を示したのでは無いだろうか。


俺と逸れたと知るや、金属箱の奥まで走り寄り、重たく閉ざされた城門を叩いて喚くような無力さを示す代わりに。

俺とは、もう自分の意志では、もう二度と逢うことが叶わないという恐怖心を自らに煽った。


言うなれば、この方舟を、怪物に仕立て上げた。


確かに、危険だ。

今度は、誰が、地平の彼方に消え去ってしまうのか。

そう考えたなら、迂闊に足を踏み入れることは出来まい。


自然だ。極めて、合理的だ。




そしてそれは、彼が怒り猛ったという、平静さを保てぬ状況に合致しない。




多分、これはTeusが、別の意味でやりたがらなかったことなのだと思う。

だから、今のうちに済ませておきたい。

もしこれで、TeusとFreyaだけがLyngvi島に取り残されるようなことになれば、今度こそ俺はTeusの逆鱗に触れることになるだろうが。その時は、その時だ。

もう一度ヴェズーヴァから、馳せ参じてやろうじゃないか。いや、二度と口を聞いて貰えないか?


まあ、万に一つも、そんなことは起こるまい。

何故なら、俺の推測が正しければ…



“痛っ…”


数歩も進まぬうちに、答え合わせは終わった。


鼻先がむにゅっと凹み、続いて口元で大人しくぶら下げられていたSkaが小さな叫び声を上げる。


“やはりそうだ。こいつは俺のことを、通してはならない異物と認識している。”


“僕が一緒でも、駄目なんですね…”


爪がかちゃりと金属の床に着地する音と共に、Skaは自由になった身体をぶるぶるっと震わせた。


“うむ。となれば、次にやることは…分かっていような?”


“はい。もうこのまま先に進んでも良いですか?”


“いや、一度俺は外に出る。その方が、確実だろう。”


“えっ、じゃあ僕も一端出ます。”


“何でだ。お前は此処で待っていて良いぞ。”


“い、嫌です…”


“もしかして、怖いとか言うのでは無いだろうな?”


“だって、暗くて何にも見えないんですもん!”


“あのな…、ああ分かったよ。”


嘆息を既の所で飲み込み、彼の張りつめた表情を想像して、それを受け入れる。

彼が感じているのは、闇夜の森に潜む化け物の恐怖ではない。

これから始まろうとしている、前触れ無き転送に対する緊張が、拭いきれずにいるのだ。


“済まないな。お前を一匹で送り出すようなことになってしまって。”


入り口を出ると、少しだけ外の空気を好ましく感じることが出来た。

夏の終わりを思わせる涼しさを、安堵と履き違えたのだ。


直に、すっかり日も登り、どうしてそんなことを考えたのか、不思議に思うことだろう。


“い、いえ。別にそんなこと無いです。”


“僕は…Fenrirさんのこと、信じていますから。”


“どうした。何を急に…”


“僕はTeus様のことも、信じています。”


“……。”



“さっきの話。僕は、聞かなかったことにさせて下さい。”



“……。”


“…ああ、勿論あれは、俺の独り言だ。”


“お前が小耳に挟む筈もあるまい。”




“…ありがとうございます。”


何故、感謝をされなくてはならないのか。


“なあ、Ska。一つだけ、聞いても良いか?”


“……はい、何でしょう?”


“俺は、お前が嘘を吐いていたとしても、きっと分からないだろうと思う。”


“はい……?”


“…何でもない。”


“俺も、お前を信じることしか出来ない、というだけだ。”




“さあ、行ってこい。”




“皆には、俺が済まなかったと言っていると、伝えてくれ。”


“ま、まだ、成功するとは限らないじゃないですか…”


“しかし、今のうちに言っておかなくてはなくては、遅いだろう。”


それに、野生の勘が備わってなくとも、きっと成就するという予感があった。


“F、Fenrirさん…”


“やっぱり、僕、怖いんです。”


“……。そうだな、俺がお前だったら、尻尾を股の下に仕舞い込んで、情けない歩き方になっていたと思う。”




“…お願いがあります。”


“ぼ、僕の足音が、聞こえなくなるまで…”


“貴方の遠吠えを、聞かせて貰えませんか?”



“俺の……?”



“俺から、か……?”



でも、お前は、吠え声を、返してくれないのだろう?



“いいえ。きっと、皆で。”



“皆で、応えますから。”




“……分かった。”







“きっと、届くよな。”




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