表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
560/728

271. 避寒 2

271. Winter Retreat 2


彼の心中は、相当に揺らいでいたと見える。


俺達が、いつもより贅沢に朝食を終え、転寝を初めてやろうかとして尚、姿を現そうとしなかった。


“昨晩は、何があったのでしょう…?”


“別に。昨晩の嵐で、図書館の一部が損壊したと騒いでいただけだ。”


一階の窓ガラスが、軒並み割れてしまっている。

余りの風通しの良さに、我慢ならずに俺達を呼んだということらしい。


“屋内に立ち入るのは、やめておけ。そこら中にガラス片が飛び散っていて、うっかり踏むと怪我をする。”


“えっ、本当ですか。それは、まずいですね…Teus様とFreyaさんが安心して過ごせる唯一のお家だったのに。”


“修理の目途は、まだ立っていないが、これからの季節を考えると、ヴェズーヴァのあばら家に二人で住ませるのは、あまりにも不用心だ。”


“仰るとおりです。僕がベッドで一緒に眠るとかすれば…”


“そういう訳で、一時的に、TeusとFreyaを、退避させることにした。”


Skaは驚いた表情で、群れの周辺で異常を察知したように首を擡げる。


“…どちらへ、でしょう?”


“お前、覚えているか。二人が春先に訪れた、海岸沿いの、あの景色を。”


“はい、勿論。覚えています。”


“ちょうど良い機会だ。あの滞在の続きを、Teusは所望している。”


“な、なるほど。それは、良いかもですね…”




“…今度は、ゆっくり、できると良いなあ。Teus様。”


がつがつと飲み込む肉塊のようには行かず、ゆっくりとその言葉を飲み込もうと、難しそうな顔をして俯く。




“…随分、急に決まったんですね。”


“前々から、あの塔は広すぎて寒々としているとぼやいていたからな。今回の件で、もう耐えられ無くなったのだろう。”


“Fenrirさんが、温めてあげれば良いのに…”


“御免だな。俺はお前と違って、あいつと眠るのが好きではない。”


“えー…もったいないですよ。とっても良い夢が見れるのを、Fenrirさんは知らないんですか?”


“まあ確かに、悪い夢は、見なかったな。”


“あ、やっぱりそうですよね!僕だけじゃ無かったんだ…”


Skaはそう言って、嬉しそうに耳を弾く。

羨ましいことだ。目を瞑るだけで、お前はいつだって、あの人に会いに行けるのだな。

のろまな俺は終ぞ、一晩だって、一緒に走ることを許されなかったがなあ。


“そうだとしても、俺は夜中に散歩に出掛けられないベッドの役割は御免被るのだ!”


“それに、この提案は、俺が持ち掛けたものでは無いこと、此処で強調しておくぞ。”


“…ってことは、やっぱりこの前のお手紙の…”


“…まあ、そういうことだ。”


嘘は吐いていない。

しかし、言葉を濁していたことが、却って彼の不信感を煽ったと後悔した。


“俺たちは、あの送り主の言葉に、甘えようと思う。”


“そう、ですか。”


“Teus様、あんなに嫌がっていたのに…”


“背に腹は、代えられないということだろうさ。”


どれくらいの期間になるか、はっきりとしたことは言えないが。

何も、ずっと帰ってこないという訳では無い。

その間、お前たちの元気な姿を見る為に、頻繁に此方に帰らせることを約束するとも。

尤も、その為に苦労させられるのは、俺になりそうだがな。


“そうじゃなくて、Teus様は…”


“いずれは、こうなっていた。きっかけが、何であっても。だから…”




“……悔しく、無いのですか?”


“……。”


“分かってます。僕じゃ何も出来ないって。”




“僕はあの時、Teus様の言う通りにしか、出来なかったから……”


“僕を追放する(すてる)ことでしかっ…僕のことを、救えないTeus様に…”


“僕はぁっ…僕は…何も出来なくて…貴方の ’束縛’ に頼りましたっ…!”





“僕はっ……僕はまた、何も出来ないんでしょうか?”


“僕はっ…また、また同じように、何かを犠牲にしなくては、なりませんかっ??”


“僕はっ……僕はぁっ……”




やめろ。やめてくれ。

お願いだから。




“Ska…”




“…ずっと、とは言わない。”




“…あいつと一緒に、来てやってくれないか?”




“っ……?”




“当り前じゃないですかっ!!”


彼は、微塵の恐れも抱かず、物凄い剣幕で唸った。

上位の狼に対する畏れなどでは無く、本気で牙を剥いたのだ。


“ぼっ…僕のことっ…置いていくつもりだったのですかっ!?”



“あんまり、僕のこと、馬鹿にしないでくださいっ!!”



“す、済まない…そんなつもりでは…”


“行きますっ!行くに決まってる!地獄の底まで、僕はついて行きますからっ!!”


“わ、分かった…分かったから…”


地獄の底、という言葉に、どきっとした。

何処で覚えて来たのだ、そんな縁起でもない言い回し。

俺しか、吸収の機会は無かったか、だとしたら、口はとんでもない禍の元だ。


“僕のこと置いて行ったら、群れの皆で、この世界を何処まででも、探しに行きますからねっ!!”


“あ、安心しろ…そんなことはさせない…約束する。”



“だ、だから…”




“Ska、どうかその泣き顔を、Teusに見せないでやってくれ。”


“………。”


“お前のそんな顔を見たら、あいつは頑として此処に残ると言って聞かなくなってしまう。”


俺は恐る恐る、Skaの顔面を舌で拭って、彼には到底分からぬであろうが、畏れのあまり、媚びるように耳を寝かせたりなどする。


“Fenrirさん…?”


そんなことをTeusにしたら、卒倒してしまうだろうなという気が、ふとした。







“ほら、主人がお呼びだ。”



“いつものように、お迎えに、伺ってやれ。”




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ