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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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268. 招待制

268. By Invitation Only


親愛なるフェンリル狼殿へ


アスガルドの神々を代表して、先日貴殿の元へ訪問した折に、私の友人たちが見せた無礼な振る舞いについて、深くお詫び申し上げる。


彼らの行為は非礼であっただけでなく、私が掲げる神としての基準や価値観にそぐわないものであったと知るところとなった。この件が其方とご友人にご迷惑と不快感を与えたことを心からお詫び申し上げる次第だ。


誠に遺憾ではあるが、今後とも彼らへの変わらぬ信仰を賜りたく、私からもお願い申し上げる次第だ。其方への詫びと感謝の気持ちを込め、私からささやかなプレゼントを贈らせて貰いたい。其方らの価値観や嗜好を尊重した形で、償いをしたいと考えている。


改めて、このような残念な事態を招いてしまったことを深くお詫び申し上げるとともに、今後このようなことのないよう、二度と其方への無礼が為されぬよう、努めることを約束しよう。賢狼たる其方であれば、きっと理解してくださると思っている。私は其方との関係を大切にし、今後とも慈悲と尊敬に満ちた関係を築いていきたい。


私への理解と辛抱に、誠に感謝申し上げるぞ。今後より良い世界の元で、共に素晴らしい関係を継続できることを楽しみにしている。


オーディン







――――――――――――――――――――――







「……。」


その文字列は極めて挑発的だ。


全て兄弟暗号によって綴られている。


「解読は、完了しているぞ、と。」


なんだか、意外と負けず嫌いと言うか。

それとも、良く出来ましたと、褒めて欲しいのか?


神様も、一介の人間とさして変わらぬと、Teusからは学び得ぬ知見であったようだな。


「まず、ごめん。検閲したのは、俺の方だったと言えば良いか…」


「宛先を見て、中身を確認せずにはいられなかったんだ。」


「立場が逆なら、俺もそうしていたさ。」


そう返しつつも、実際そうしていたかは自信が無い。

俺が郵便受けから微かな臭いを嗅ぎ取っていたとしても、お前とOdinの密談の内容など、怖くて覗けたものではない。夜中に思い出しながらも、何も知らないふりをしていたような気がする。


「しかし…全てに目を通すのは、骨が折れそうだな。」


ざっと見ただけでも、百を優に超えている。

封を一通ずつTeusに開けさせ、俺がそれを読み上げていくとなると、日が暮れるというのも冗談で無くなって来る。

ただでさえ眠気と苛立ちで瞼がぴくついていると言うのに、何故朝っぱらからこんな苦行に付き合わされなくてはならないのだ。


「その必要は、無いと思うよ…」


「……?それは何故だ?」


Teusはその質問に答える代わりに、もう一枚の封筒を無造作に選び取ると、先と同じような所作で封を切り、その中身を開いて見せた。


「……。」


「…もしかして、これ全部同じ内容なのか?」


「だと思う。少なくとも、俺が裏庭で燃やしていた手紙は全部、同じ文章が書かれていた。」


「何、だと…」


開いた口が塞がらないとは、このことだ。

下らぬ嫌がらせに惜しまぬ労力にだけは、感嘆し、目を見張るものがある。


俺に送りつけたいのなら、そもそも手紙を送りつける場所も此処である必要は無かったろうに。

何故Teusを介して俺に読ませる術に固執するのだ?


「迷惑メールって、物理的に送られるとこんなきついと思わなかった…」


そうと悟った時の憤慨が再燃したのか、彼は荒々しく手紙を破り捨てた。


「倍々ゲームで増えて来るんだもん。ほんと質が悪いわ…」


「何だそれ、馬鹿じゃないのか…」


気が付いたのが、昨日で良かった。

明日には、もう郵便受けの方が耐え切れなくなっていただろうな。


それくらい、お前でも予見出来ていただろうに。

燃やして無かったことにしようなどと、下らない解決策に逃避するのは止めてくれ。




「先日のお詫びねえ…」




あんまり怒りに牙を剥いたつもりは無いのだが。それは相手がどう捉えたかによるものだ。

Torに対する俺の歓待を見て、彼方に非があると主神はお考えになさったというだけに過ぎない。

彼が何らかの罰に処されていないことを心から願う次第だが、今はLokiの審問が先決だろう。

仲間内で不信感を強め合っている場合では、きっと無い。

ならばこれは表面的で、Odinが予め用意していた文面と考える方が自然とさえ思えて来る。

やはり彼は、Tor御一行に何も知らせてやりはしなかったらしい。


「ん……?」


“Fenrirさん…これ、何て書いてあるんですか…?”


神妙な面持ちのTeusと俺を見かね、Skaは手紙に鼻を近づけて、か細くぴぃと哭いた。


「良かったな、Ska。俺達へ、特別な贈り物があるんだとよ。」


“本当に、そう書いてあるんですか…?”


「ああ。いつも、あの巨大な金属箱に喰い物を用意してくれている神様からだ。」


「Teus、嘘は何も吐いてないだろ?」


「問題は、そこ何だけれどね…」


「まあ、何を寄越して来るかだよな。俺の趣向に合った償いと言っているが…」


「Fenrir…」


……?


「これ…」




「招待状に…なっているんだ。」




彼は、破かずにいた初めの一通を裏返す。



「……?」



そこには、何と言えば良いだろう。

簡略化された地図が描かれていた。


波線で表した水面と、中央に座した円を鑑みるに、

それは湖に浮かぶ、孤島、だろうか。




Lyngvi(リュングヴィ)……」




陸地には、島の名前と思しき単語が、ルーン綴りによって刻まれている。





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