266. 受取拒否 2
新年あけましておめでとうございます。
春先までの完結を目指して投稿してまいります、どうか最後までお付き合いください!
266. Refusal to Accept 2
翌日、あっさりと事の真相は突き止められた。
俺が彼の異変に気が付けなかったこと自体は、深く反省しなくてはならないが。
一度注意深く見守ってやれば、何ら周囲の眼を欺くような工作は認められず、不審な行為を俺の前で晒したのだ。
全く、知らなければ良かった面倒ごとに付き合わされた。
狼達が寝覚める薄暮の数刻前が、朝に滅茶苦茶弱い寝坊助を装い、彼にとって唯一動ける時間帯だった訳だ。
王様も、誰の視線も感じることの無い、プライベートの時間が持てずに苦慮されておられるのだな。
しかし感心しないな。
民はお前のそうした振る舞いを、日頃より大層心配しているのだ。
「おはよう、Teus。良い朝だな。」
普段の彼であれば、狼の毛皮の温もり無しでは外出など到底踏み出せないであろう霜の早朝、
邸宅の庭先で、俺は偶然にも彼を見かけた。
「っ…!?Fenrir?」
「突然訪ねてしまって済まない。ひょっとして、取り込み中であったか?」
「いや、そんなこと無いよ。お、おはよう……」
俺は、傍らに佇む柱に据えられている郵便受けに目をやり、明るい口調で興味を示した。
「ほほう。人間と言うのは毎朝、郵便受けをチェックして、急報の便りが無いかを確かめるのだな。」
「えー…うん…」
「狼の俺には、なじみの無い習慣であることだ。」
爪先でポストの留め具を外すと、思ったよりも沢山の封筒が雪崩のように口から零れ出る。
「ふむ…神様も慕われ過ぎると、ファンレターが多くて大変だな。」
「いや…これは…」
一日で、こんなに溜まるものか?
もう殆ど、嫌がらせのようなものでは無いか。
前提で躓いていた。
あの日、偶然Teusが手紙を受け取ったと考えたのが、そもそもの間違いだったのだ。
いつからかは知らないが、こいつは俺に泣きつくより、ずっと前から、あいつらからの伝達手段を、自宅の庭に構えていた。
酷く裏切られた気分だ、恥辱の怒りで牙が震え荒ぶるが…
まあ、Skaの顔に免じて、出来る限り穏便に済ませようでは無いか。
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「全く…」
「何をこそこそと隠しているかと思えば…」
「ご、ごめんなさい…」
現行犯逮捕ということで、もう言い逃れは出来ない。
俺はSkaを呼び寄せると、証拠品の束の前にTeusを正座させ、審問の場を設けてやることにした。
「別に、隠そうと思っていた訳では無いんだ…」
「隠す気が無かった、だと?」
あまりに愚鈍な物言いに、俺は思わず上唇を捲り上げた。
「この期に及んで言い訳がましい…」
「どう見たって、隠滅しようとしていたでは無いか。」
証拠を目の前に突きつけられて尚、白を切るとは、良い度胸だ。
「さっさと吐いた方が、苦しまずに済むと思うがな。」
“Fenrirさん、お願いだからTeus様に拷問なんて…”
“ククク…多少は手荒な真似も、厭わないつもりだ。”
“そ、そんなっ…”
“身構えるな。冗談が通じない。”
尻尾を股の間に隠しおって。Teusと俺の間に割って入るな。
はあ…やっぱり、こいつは呼ばない方が良かったか。
“ほら、何もしないから。”
「F、Fenrir…Skaは…」
こいつもこいつで、互いに庇い合おうとしやがる。
ああ。やり辛いこと、この上ないぞ。
俺は悪役で大変結構だが、お前の偽善も、それはそれで我慢がならん。
「おいTeus!お前のそういう態度が、Skaを傷つけているのだからな!」
“そ、そんなこと無いですよTeus様…?ぼく…”
Skaが嗅ぎつけた、とは言わない約束だったが。到頭堪忍袋の緒が切れた。
「お前を誰よりも心配しているのは、こいつだといつになったら気が付ける!?」
“ひっ…!”
「…ごめん…」
「一人で背負いこんで、それで解決できると思い込んでいるだけならまだしも。」
「お前がやっていることは、単なる現実逃避ではないか、うん?」
「もう分かっただろ。逃げ場なんて、無いんだ。」
「…俺も、お前も。」
「……。」
「本当にごめん。」
「頼むぞ……老いるのは身体だけにしてくれ。」
「……。」
「…ごめんなさい。Fenrir…Ska…」
「……。」
「はぁーっ…」
子供の様に、押し黙られては此方もどうしようも無いぞ。
「それで、これは検閲しても良いものなのか?」
「えっ…?」
「俺が見て不味い内容なら、話はこれきりで終わりだ。」
「……。」
彼は一瞬だけ、躊躇う素振りを見せたが、即座に態度を改めた。
「良いよ。読んで。」
「……。」
意外な潔い決断に面喰らったが、彼なりの誠意と受け取れば良いだろうか。
それとも、隠してももう無駄だと、観念したのか。
彼は、無造作に一通の手紙を選び取ると、
自ら封の蝋付けを切り、嗅ぎ覚えのある便箋を取り出した。
綴りが放つ、僅かに血の混ざったインクの臭い。
古めかしい紙の臭いとSkaは評したが、まあ、及第点だ。
解決の糸口には、十分すぎる。
「…君には、読む権利があるからね。」
何…?
「それは、どういう意味だ、Teus。」
見て取れるようにと開かれ、差し出された文面を一瞥して、俺は思わず眉を顰める。
「ほう……」
「これ全部、Fenrir…君に向けて宛ててあるんだ。」




