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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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266. 受取拒否

266. Refusal to Accept


それから1週間ほどして、新たな進展があった。

正確に言えば、そいつに気が付いたのが、今朝の散歩の最中での出来事だったのだ。


「くぁぁぁ……」


結局、ヴェズーヴァは憑りつかれたままだ。

俺たちは未だに英霊たちの存在を、五感を超えて傍に感じながらの生活を余儀なくされている。


慣れてくれば、どうと言うことは無いとか、そういう問題では無い。

結局のところ、同族以外に対する警戒心を削ぎ落す点で、群れ仲間にとっては不健全なのだ。

それに、一度は完璧な防衛戦を披露して見せたものの、またいつ神々の遣いがこの土地を訪れるか分からない。

本拠地は、やはり此処とすべきではないという結論で群れの長とは合意した。


Teusとしても、当初は此処を、ヴァン族の長老が山麓に敷いた庭と同じように使って欲しかったらしいから。

実際には、ヴァン川の西岸を拠点として、お前に逢いにやって来る狼たちの憩いの場であるとするのが賢明なところだろう。


ああいう風に、Teusには説明したものの。実際の所、どうすればこの現状を打破できるのか、自分でも明確な答えは導き出せてはいない。

ただ、普段であれば諫められぬようなTeusの気まぐれな行動が、俺と一緒になってしまうと、どちらに転ぶにしろ、大きくことを荒立ててしまう。それだけは確証できた。


彼の穏やかな隠遁生活に付き合うのは、Skaだけで良いと思っていたが、

なるべく、自分もTeusの傍らにいる時は、大人しくしていなくてはと思っている。


“おはようございます。Fenrirさん。”


“うむ…”


そう、彼だけは本当に足繁く、此方に来て、Teusの傍らで過ごす時間を出来るだけ沢山作ろうと努めている。

幾らすぐ目と鼻の先であるとは言っても、それは、あんまり褒められる行為じゃないのだが。

とりわけお前の様に、群れを率いる立場の者なら、尚さらだ。


それも、自分に出来ることが何かを一生懸命に考えてのことなのだろうから、何も言うつもりは無い。

俺とTeusが何か隠しているのも、きっと勘付いているのだろう。

しかし、敢えてこそこそと嗅ぎまわることをしない代わりに、こいつは、Teusにとって最愛の狼であり続けることで、彼の力になろうとしているのだ。


“……おはよう。”


そんなんだから、

俺はいつまでたっても、お前に頭が上がらない。


“ちょっと、相談に乗ってくれませんか?”


“どうした、Teusに何か…?”


彼はそうですと頷き、尾を垂らして謝罪の意を示す。


“すみません、見張っていた訳じゃ無いんです。偶々、目に入ってしまって…”


“だろうな。あいつ、また何か怪しいことを?”


“それが、先ほどお庭にお邪魔したら…”







TeusがFreyaと住んでいる邸宅は、俺が一匹座り込むのに少し手狭であるぐらいの広さの庭を備えていた。

昨日も訪ねたばかりだったが、特段気になるような異変は認められなかったと記憶している。


そこが、盲点だったらしい。


近隣の家屋に挟まれ、日の当たらぬ裏庭があったことを失念していた。

とても俺が入り込もうと思える広さでは無かったので、全く気にしていなかったのだ。


“こんな所で何を…”


屋敷の壁に毛皮を擦り付けるようにして裏手に回ると、確かにそれらしい現場があった。

窓からの景色を楽しむ住人がそれに気が付いたなら、巨大な怪物が蠢いていると騒ぎ立てるところだ。

Teusが目を覚ます前に、彼の報告を聞き終えるとしよう。


“ほう……?”


確かに、そこにはSkaが訝しむのに十分な証拠が残されていた。


“最初、Teus様が焚火でもするのかなって思って、挨拶も兼ねて此方に来たんですが。

僕のこと見るなり酷く慌てた様子で、もみ消してしまわれたんです。“


“なるほどな…”


“焼却による何らかの隠滅を図った、と。”


“疑いたくはありませんが、恐らく…”


合点が行かぬな。

俺から隠したいものがあるのならば、絶対に俺の捜索が行き届かない自室に留めておけば良いものを。

よっぽど残しておきたく無かったと伺える。


“どう思う?Ska。”


“えっと、僕は…?”


“目星が付いているのなら、聞かせてくれるか。”


“途方に暮れていたのなら、相談に乗って欲しい、とは言わない筈だ。”


“……。”


その嗅覚、ことTeusの微妙な機微に対しては、俺より遥かに勝っている。

今まで、俺たちと神々のいざこざに対して、過度な干渉を控えようとはしてきたけれど。

もうこれ以上黙って見ていられない。

そんな訴えであるように、俺には受け取れた。


“どれ、一瞬だけなら、復元してやれる。”


躊躇わずとも良い。

そうは言っても酷なようだから、今回は知恵を貸す代わりに、彼の背中を押してやることにする。


“少し、退くが良い。”


俺は頭を屈め、黒く焦げた焼け跡に鼻先を近づけると、

強く息を吹きかけた。


ブワッ…!


“っ…!?”


一瞬だけではあったが、その場で再燃が起こり、燃え滓の灰が舞い上がる。


“…どうだ。”


その臭い、刹那の内に捉えることができたか?

彼が、秘密裏に燃やそうとしたものの正体を。


“……。”


彼はじっと俯き、嗅いだことのある匂いの正体を探ろうと記憶の辞書を探る。



“もう、丸焦げになってしまっているので、確証はありません。”




“でもこれ、図書館の…本を開いた時の香りに、似ていると思いませんか?”




“…古い、紙の臭いだ。”




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