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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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263. 嵐の乗り切り

263. Weather the Storm


「やった…!やったぞ、Teusっ!!」


「俺でも出来たっ…あいつらを、追い返せたんだ……!!」



Fenrirは腹ばいになり、大きな両目をいっぱいに潤わせて、尻尾をぶんぶんと振って笑った。


まるで、頭を滅茶苦茶に撫でて貰いたいと強請る愛犬のよう。


鼻水をずるずると垂らし、瞬きの度に、ぼろぼろと涙が黒淵の端から零れ落ちる。


「怖かったぁ…、怖かったんだぁぁ……」



そんな彼の鼻の付け根の毛皮に抱き着き、うん、うんと頷き返す。


「もう良い…、もう良いから…」


正直なところ、褒めてあげて良いのかさえ、良く分からなかったけれど。


ただ、俺達はやったんだ。

いや、Fenrirはやってくれたんだ。


生き延びた。

神々の意志から、逃れられた。


その感覚だけで、俺達は笑い合えたのだと思う。


「本当に、良く頑張ったね……」


「ありがとう、ありがとうっ……」



狼にまんまと騙されていたことにようやく気が付いたTorたちは、尻尾を巻いて逃げ帰ってしまった。

かなり急いでいる様子だったが、神様は人間が思っているよりも結構忙しい。

引き留めるのもあれだったし、Fenrirの意向もあって、そのまま逃がしてやった。

あいつら今頃、馬鹿な真似を考えたことを、激しく後悔しているだろうな。




どうするのが正解だったのか、落ち着いて考えても答えが出せる気がしない。

しかし、彼が選んだ行動は、Fenrirにとって、今までで一番勇気の要るそれだったのに違いない。


まさか、まさかFenrirが。あんなに堂々とした立ち振る舞いを見せてくれるだなんて。夢にも思わなかった。


彼は、神々の意志に逆らうことを、最後までしなかった。

俺達の為に、レージングによる拘束を、拒否する選択肢を取らなったのだ。


それでいて、彼は、誇り高き狼の存在を貫いたのだ。

逃げなかった。

それどころか、易々と乗り越えて見せた。




Fenrirの行いを、Torとその従者たちは包み隠さずOdinに報告することだろう。

彼が覗き見た俺の視点と合わせ、きっと公正な判断を下される。


どのように転ぶか、皆目見当もつかない。

彼らは益々、Fenrirに対する興味を強めるだろう。


表面上だけでも、金輪際関わってはならないと判断し、供給を除く一切の音沙汰を消し去るのか。

将又(はたまた)、次の段階へと進み、新たな刺客を送ることを検討するのか。


それが、Fenrirにとって、乗り越え難いはずは無いと信じつつも。

眼前まで迫る冬の寒さよりも、不安で堪らない。



「……?どうしたのだ、Teusよ?」


「うん……」


しかしもう、そんなことは、もうどうだって良いんだ。




Fenrirが無事で良かった。

濡れ衣を着せられることなく、連れ去られずに、済んだんだ。


じゃあ、もうそれで良いじゃないか。


そうだよね?Fenrir。


忘れよう、あいつらのことなんて。

束の間を、怯えることに費やすのは惜しいよ。




「ううん、何でもない。」




「ありがとう、Fenrir。」







陽もとっぷりと暮れ、Freyaを連れてSkaの群れが戻るまで、ずっと。


俺とFenrirは二人で抱き合ったまま、まるで成す術を失った無力な仔狼のように、わんわんと互いに泣き叫んでいたのだった。




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