261. 革の戒め 6
261. The Loejingr 6
「……。」
「…本当に、本当にFenrirの無実が証明されたのなら、お前たちは直ちに立ち退くんだろうな?」
「彼や、この土地を一切辱められることは、無いのだな?」
「彼らを…俺は護れたことになるのかっ?」
「聞いているのだぞっ!!Torっ!!」
「……そうだろうとも。わが友よ…」
「ふざけるなぁっ!!」
「っ……。」
「俺の意志を尊重?」
「Fenrirの意志はどうした?あ゛あ゛っ!?」
「この狼は、どうして神々に赦されなくては、どうしても生き永らえないか!?」
「仮にFenrirの潔白が晴れたって、お前たちは、あいつに頭の一つだって下げやしないだろうがっ!!」
「それが悔しくて堪らないっつってんだっ!!」
「こんな姿に成り下がってしまった俺には、もう何も出来ないと思ってるんだろう?」
「ちょっとでも、Fenrirに対して無礼な真似をしてみろっ!!」
「…喩えお前に対してだって、俺はもう……容赦しないぞ…!!」
“ぐるるるぅ……?”
Teusの怒号に被せるようにして、
僅かに放たれた、獣の媚びた唸り声。
その場に居合わせた全員が、はっとして口を噤んだ。
一枚の扉を盾にして、様々な視線が突き刺さったのが分かる。
恐怖や、怒り、そんなに悲しそうな視線を投げかけるのは、お前しかいないよな。
それぞれの外套の裏から、初めは携えていなかった武器が取り出されるのが聞こえる。
Teusと同じだ。彼らも、そういう類のことが何でもないこととして扱える、神様の徒。
そんな中、俺は喉から絞り出すような声で、囁いた。
“て、てぃうぅ…”
もう良い。
もう良いよ。
お願いだから。
超えて来た日々が揺らぐ。
もう、お前の怒鳴り声。
俺に対して向けられているようにしか、聞こえなくなってしまっているんだ。
ずっとTeusは一人で、そうやって虚栄を張って闘い、
目の前の神様たちを俺に寄せ付けまいとしていたんだ。
俺の見えない所で、ずっと。
行くよ、俺。
Teusの隣に。
傍に居ても、良いよね?
「……。」
乾いた唇も動かぬほどの小声で、Teusが呟く。
「Fenrir…?」
「……。」
「…分かった。」
「……。」
「Este în regulă, nu-ți fie teamă.」
「Niciodată, niciodată nu te-aș lăsa să fii rănită.」
「…Lângă mine.」
きつく目を瞑ると、目の端から涙がぽろりと零れて毛皮を伝う。
震えて殆ど言うことを聞かない四肢を突っ張ると、鼻先が壁の縁ぎりぎりのところで、深呼吸する。
舞台の袖に隠れる、間もない登場を待つ脇役と言った所か。
何て酷い戯曲だ。
「Haide, Fenrir.」
さあ、跳び出さなくちゃ。
俺が台詞を吐く時間が、やって来たのだ。




