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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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261. 革の戒め 4 

261. The Loejingr 4


同胞の老化を目の当たりにした時、

旧友はその神様に、どんな言葉をかけるのだろう。


役目を終えた、ただその幕引きに労いの言葉を?

或いは人間から必要とされなくなった落ちぶれに、軽蔑的な視線を?


彼らが築き上げた社会は、狼のそれとは大きく異なるだろう。

群れから離れ、それでいて生き残ることも儘ならぬ半端者が、

どんな風に扱われるだろうか。

それは純粋に興味があることだった。


しかし喩えどんな誹りを受けようとも、Teusの心に響くまい。

それだけは確かだった。


「ショックだったかい。」


「君も何れそうなる。その時にこうやって周囲の人たちを…戸惑わせないことだ。」


「……。」



Torは、暫く口を開かなかった。

それだけで、Teusが神の座を退く決断を下したことを、信じられずにいることが伝わって来る。

使命とは、誇りのようなもので、それ故かなぐり捨てるなど、あり得なかったのだ。


その間にも、従者たちの間で囁かれる、彼の醜い半面に対する驚駭の言葉の数々。


息を押し殺して蹲る俺には、彼らに黙れと怒鳴りつける資格はない。

俺もまた、彼の姿を見て、狼狽えるような素振りを見せた、愚か者の一匹であるのだから。



「父上は、このことをご存じなのか…?」


「勿論、彼の眼には…この左手が今も、映っているはずだ。」




「寧ろ、君を此方に寄越すのに、聞かされていなかったというのは意外だった。」


「自分の眼で確かめさせると言うのも、中々酷なことをなさる。」




「あの噂は、本当だったのか…」




「恐るべき姉弟たちが、この世を歩いたと…」



……。



「Lokiは審問への招集に応じた。…今頃、Odin様がその申し開きの真偽を下している頃であろう。」


「…ちゃんと咎められると良いけど。…父上、義兄弟に甘々だから。」


「それには、我々もつくづく困らされている…しかし、もう逃げられまい。」


「何度も、そう言って来たんじゃないの?」


「……。」


「まあ、俺にはもう関係のないことだね。そうだと願いたい。」


Teus……。




「……。何と言うことだ…」




「ええ。しかし…無論、称えられるべき勲章であろうとも。テュール殿。」


彼の言葉には、未だ受け入れがたい動揺が震えとなって残っていたが。

それでも送るべき言葉は一貫して、同胞に対する賛辞であったようだ。


それが俺には、とても不自然なことであるように思えた。

交互に現れる、改まった余所行きの口調と、友に語らいかける豪胆な本質。


こいつ、Teusのことを心から慕っていたのだな。


「彼女を退ける為に払った…犠牲であるのなら。」


「とても悲しい。ですが臆することなく、立派に、戦い抜いたのだ。」


「…同じ戦士として、誇りに思う。」


そのように言わされているかのように、決して薄っぺらいものでは無かったのだが。

Torもまた、監視の為に遣わされた鴉の一羽であるという諦念を、俺は新たにした。




「ふふっ…」


……?




「……それは違う。Tor。」


「……?」







「俺はただ、大事な友達に、生きていて欲しかっただけだよ。」







「それだけさ。」




「…悔いは、これっぽっちも無い。」




「……。」


「そう、でしたか。」







「ですが…我々は、貴方を見捨てるつもりは無い。」


「喩えテュール、お前が神と呼ばれるに値しない存在であったとしてもだ。」




「……それは、ありがたい。…有難いことだ。」


「俺には、まだ面倒を見てあげなくちゃならない家族がいる。」


「だから…そうだね。ありがとう。父なる神よ。」




「……。」




「済まない、少し、取り乱してしまった。」


「とんでもない。…久しぶりに君の顔を見れて、良かった。」


「父なる神が私を遣わせたことに、感謝しなくてはならない。」


「全くだ。」







「…本題に、入らせて貰おう。」


ようやくと言った所か、

Torは自分達をOdinが遣わせた目的について、朗々と語り始めた。


「我々は既に、この異常事態の根源となった、真因の目星がついている。」


「それの力を、弱める必要があると考え…テュール殿。其方の元へ、参上仕った。」


そうだったのか。

これは頼もしい。


やはり、閉じた世界に籠っている本の虫が持ち合わせた知識よりも、

外の世界に助けを求めるべきだというTeusの意見は正しかったようだ。

彼らは、異世界への転送に関して、幾らか俺には無い知見を持ち合わせている。


此処に至るまでの口論こそが、俺やTeusが億劫に感じていた部分であって、そこさえ過ぎてしまえば、案外あっさりと事態は収束に向かうらしい。






良かった。取り越し苦労であったみたいで。

その気配を感じ取った俺は、これ以上小さく出来ないぐらいに縮まった身体を縛っていた縄を、僅かに緩めた。


その、刹那だった。


Torの声音が、一段と強くなったのだ。


「そこに控えているのは、分かっている。」




……?




「姿を現せ。」




……!?




「隠れる必要もあるまい。」




「此処は、お前の縄張りであるのだろう?」


「狼の仔よ。」







「……!?」




その台詞、聞き覚えがある。




もし、かして…




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