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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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223. 似姿焼き

223. Raze the Effigy


あれから、神々による音信の一切は途絶えている。

音沙汰が無いというだけで、変わらず物資は広場に鎮座する箱の奥から湧いて来ているし、

此方がいつもと違う品物を望めば、特に知らせてくれるわけでもなく、気づけば箱の隅に捨て置かれている。

供給過多に思えるぐらいの量が積まれているなと思った時は、Fenrirがドカ食いをするタイミングであるようで、そういう日は、彼は碌に口も利かずに、日がな一日屍肉を貪っては昼寝を繰り返している。

蓄えられるときに、詰め込んでおかなくてはならないのだそうだ。


気づけば、Fenrirに課せられた試験のほとぼりも醒め、

着々と秋の気配は周囲の狼たちの装いを変えつつある。


安心した。

みんな、モフモフして来ている。


早く、両手で存分に撫でまわして抱きしめたい…




夏場の狼たちは、いつ見ても心配になるぐらい細身で、勝手に自分の至らなさを感じてしまう。

あの仔は栄養が足りていないのではないかと、何度か自分で食料を直接手渡すような試みをしては、不審がられて逃げられる経験をしたし。

特に毛量が少なく、萎れた枝のように頼りない尻尾を垂らした若狼は、きっと病気か何かに違いないとFenrirに確認をお願いしたこともあった。


結局、当の本人はそれと言った自覚も無く、元気溌溂としていて、

Skaを経由しての聞き取り調査の結果、尻尾の被毛が抜けすぎていた所に、遊びで自分のそれを齧る癖が乗じて禿げてしまっていただけとのことで、その話は終わったのだけれど。

調べてみると、感染症や、ラットテールと呼ばれる病気もあるらしい。

文字通り、鼠の尻尾のように、皮膚が剥き出しになるまで抜け毛が進行してしまう症状だ。

年齢によるものが多いと書いてあったけれど、読んだ直後に目にした症状だったので、そう思い込んでしまったのだ。


一応、自分なりに勉強して、異変を察知できる目を養いたいと願った結果だ。

大騒ぎしてすみませんでした、で良かったと思っている。




そうやって群れに目を向ける余裕ができ始めて、数日後のことだ。




「準備が、整ったぞ。」


日没を影の濃淡で感じられる程になった夕刻、Fenrirは邸宅の前に姿を現した。


「はーい、今行くよ…!」


玄関を叩いてくれるのを待ちわびて、ずっと上の空だった俺は、いそいそと外套を身に纏い、すぐさま彼の来訪を出迎える。



胸が高鳴っては、柄でもない読書など進む筈も無い。Fenrirが約束の時刻から遅れるはずが無いのは分かっているけど。まるで催しごとが楽しみで眠れない子供みたいに、部屋をうろうろする始末だったのだ。


「待たせたね…!」


庭へと出ると、輪郭のぼやけていつもより巨大に映るFenrirが、西の方角をじっと眺めていた。


「…ちょうど、日も暮れる頃合いだな。」


「うん、良い感じの時間帯だ。」


「できる限り、お前の要望に応えたつもりだが。思い描いた筋書きと違うと感じたなら、言うが良い。」


「…ごめんね、何から何まで、用意させてしまって。」


「ふん…王様の我が儘とあれば、仕方があるまいよ。」


ここぞとばかりに、Fenrirは真面目な口調で辛辣な皮肉を浴びせかける。


「やめてよ、王様なんて…」


「不当な物言いだと思うか?」


下手な物言いは許されない。

ぎろりと俺を睨みつけ、牙こそ剥かずとも、大変だったんだぞと視線だけで訴える。


「お前は、狼遣いが荒い…。」


「今に始まったことでは無いが。

あんまりこいつらを困らせるような愛で方をするなよ。」


「ごめん…気を付けるよ。」




「それにしても、随分と急な思いつきを実現させられたものだ。」


「えへへ…前から、やってみたいなとは思ってたんだ。」



高揚に息を弾ませ、彼の前脚の毛皮に触れる。


「少しでも、お祭り気分を味わえればと思って。」


「それは、アース神族の間で執り行われていたものであるのか?」


「そう。あっちに居た時ほど、盛大には出来ないけどね…」



「まあ、狼たちが戸惑わないよう配慮されたものなら、それ自体は歓迎だ。」


協力してくれただけあって、彼は乗り気だ。

なんだかんだで、人間の暮らしへの憧れとまでは言わずとも、関心は持ち続けているようだ。


「ヴァナヘイムにも、そういったものはありそうだよな。」


「どうだろう…?調べてみたら、あるのかも。」


「曲がりなりにも、一年は過ごしてきただろう。そういった祭りは目にしなかったのか。」


「生憎、逸れ者として大半を送って来たから…そういうお誘いは受けなかったよ。」


「ふむ。現地民に直接訪ねる方が、早そうだな。」


「けっこう、興味あるんだ?」


「まあな…」


「ひょっとすると、お前が経験した祭りと、意外な類似性を見いだせるやも知れぬ。」


「だね、後で聞いてみるよ。」




「ヴァン川までは、どうする。乗せて行ってやろうか?」


「ううん、歩いて行くよ。」


老いには抗えないとは言え、出来るだけ身体は動かしたいし。

お祭りでどんちゃん騒ぎをするのは嫌いだけど、

こういう空気の中を歩くの、大好きなんだ。


「…ならば、そうするが良い。」


先に行く。完全な日没までには、間に合うようにすることだ。


「皆、お前の到着を待ち詫びているぞ。」





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