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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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213. どうなっても

「……。」


俺は背もたれにどさりと身を倒し、力なく四肢を投げ出して首を垂れた。

右手に握りしめていた羽ペンが滑り落ち、床の上を転がって見えなくなる。


垂れ下がったフードの裾が心地よかった。

Fenrirのことを呆然と見つめずに済む。



涙がぼろぼろと零れ落ちるのも、きっと悟られずに済む。

酷いものだ、瞼に熱を感じないから、干からびた頬を伝うまで気付けない。


歳をとると、何でもないことに感涙するのって、こんな感じなのかな。

指で拭ってみて、大泣きしているんだって気が付いた。



“Teus…様…?”


負けた。

そう思った瞬間に、

もう、どんな最悪の妄想だってしてしまえた。


産まれた時からずっとそうだ。

俺は、神様の手足でしかなくて。

眼。耳でしかなかった。

全ては主神へ捧ぐ命運。

その栄えに追い風を吹かせる為だけに戦場を駆ける軍神。


俺は晴れて人間へと至れたのだとばかり思っていたのに。

けれど、人間ってのは、所詮神様の仔でしかなかったんだ。


全部、全部初めから、仕組まれていた。

俺の頭の中だって、もしかしたら、父なるOdinによって制御された鴉と代わらないのかも知れない。

父が一つ命を授けたなら、俺は今までのどんな誓いだって忘れて、再び忠義を振り翳すんだ。


きっと、死ぬまで抜け出せない。


俺のあらゆる行動が、自分の意志によって起こされていると考えられなくなった。

少なくとも右半身のすべては、感覚を共有させられているんだ。そう思わない方が、不自然だろう?

全部、彼による決定論だ。


もし、そうだとしたら。


そうだと、したら。俺は…


俺は……




「Teus…」




「ごめんっ……!!」




俺は目の前の狼のことを視界にすら入れようとせず、机に突っ伏して、到頭咽び声を上げてしまった。



「Teus…」


君を見つめる自分の眼すら、奥では冷ややかであるような気がして。


「おねっがい…喋らないでっ…」

君の声に傾ける自分の耳すら、獣の唸り声だと聞き流しているような気がして。


「む、無理だぁ…無理だよぉっ……」


「まだ諦めるには…」


「ごめんっ、ごめんね、ふぇんりるぅ……」


「……。」




もう君に触れない。

震えてるんじゃないかって、

突然撥ね退けるようなことしでかすんじゃないかって。

もう怖い。怖いよ。




俺は、ずっと君のこと、騙していたんだ。

知らなかったの?俺は?

知っていたんだろう?


「うあぁっ…あ゛あ゛っ…あ゛あ゛あ゛っ…うあぁぁぁぁ……」







「……。」


彼は言われた通りに、口を噤んだ。


黙って、尻尾を垂らし、同じように俯いて。






けれども、

本棚の綴り手は、働き続けた。



必死に想いを、綴ってた。



“ごめんな、Teus。”

“Sorry, Teus.”


“俺も本音を吐露すると、どうすれば良いか、途方に暮れてしまいそうなんだ。”

“To be honest, I’m at a loss as to what to do as well.”


“他でもない。お前を惑わす様な言葉を謳い続けたのは俺だから。”

“I'm the one who said the words that deceive you.”


“狼はお前が森に迷うように、声をかけるだろう。

聞き入れてはならない。“

“Do not listen. The wolves will call to you as you wander in the woods.”


“Teus、俺は狼だ。

お前が認めてくれたんだ、間違いないさ。“

“I am a wolf, right? You gave me your blessing, I'm sure of it.”



“そして俺のせいでお前は、自分の中に響く声さえ、信じることが出来なくなっているのだな。”

“And because of me, you can't even believe the voice that echoes inside you anymore.”






“だったら、そんな時は、頼れば良い。”

“You’d better count on… ”




“俺なんかじゃない。”

“…other than me.”



“お前には、もっと大事な人がいる。”

“You have someone more precious.”



“自分よりも、大切に思う相手だ。”

“…more precious than yourself.”




「Teus、思い出せ…!」




「……?」




「お前には、いるはずだ。」




「しっかりと、どうか前を見据えろ。」




Fenrirは優しくそう微笑むと、

席を立ち、脇へと退いた。







「…まだ諦めるには、少し早い。」




彼は、古森の案内をするが如く、舞台の中央を恭しく明け渡す。




「……諦めさせたくは無いのだ。」




その最奥では。







彼女が、




淑やかに座って此方を見つめていたのだ。





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