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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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212. 予言により 5

212. As Foretold 5 


“はっきり言って、状況は極めて悪い。”

“To be clear, the situation is extremely bad.”


“どういうことかをこれから説明するのには、長文を要する。左眼を逸らすなよ。”

“It will take a long time, do not look away. ”


そうFenrirは続けた。




“まず、お前が次にとるべきだった行動は、正しい。

予定としては、相互的な会話の手段として、Skaを登用する予定だった。

お前とSkaなら、意思の疎通は俺よりもスムーズに進む。

必ずその思考に辿り着くと思った。


しかし、予定を急遽、変更せざるを得なくなった。

これは、予想していなかったが。


…何といえば良いだろう。Teus。”



“その…思ったよりも、お前の身体は使い物になる(・・・・・・)、ということだな。”

“You are more useful than they expected.”


…使い物になる?


どういう意味だろうか?


俺は本棚から視線の先をFenrir自身に切り替えた。

勿体ぶらないで、早く教えてよ。

あまり時間をかけていられないのも、確かなんだ。

問題を解くのにかけられる時間は、無制限だけれど、

俺達の密談の間を持たせる為の空虚な会話の方は、いつまでも続けていられないでしょ?

そう頭の中で念じながら、Fenrirを真似て、ちょっと首を傾げてみる。


“……。”


それを受けてFenrirは、ばつが悪そうに、容易く目を逸らしてしまったのだ。

どうしたんだよ、急に。

そんな、耳を寝かせられたら、こっちまで不安になって来てしまうよ。



“…どうか、ショックを受けないでくれ。”

“Please, calm down and listen.”



“予想以上、だったのだ。”

“Not only are you even wired…”



“…お前、乗っ取られているぞ。”

“…taken over.”



「は…?」



思わず、声に出してしまった。

それこそ、顔に出すだけで十分なのに。



“敢えて酷い言葉を選んでしまって申し訳ない。

だがどうやらそれは、お前の右眼だけではないようなのだ。“

“Sorry for my bitter words, but it does not seem to be only your right eye.”


右眼だけ、じゃない…?


“右半身のすべてが、Odinの駒として、今も生き永らえさせられている。”


「……っ!?」



はっとして、適当にFenrirの言いそうな文言を書き連ねていたペンの動きをピタリと止める。


“もし思い違いであれば謝るが、俺があと何問残っているのだとぼやいた時、

その会話の一部始終を速記者の如く書き記していたのではあるまいな?“


え…?


“やっぱりな…”


“お前、いつから自分が中立であると思い込んでいた?”


ま、まさか…


“ずっと引っかかっていた。

何故お前が、代筆を任される意味があるのか。

初めはそれが、お前が書く動作そのものに意味があるからだと思い込んでいた。“


“そこに書いてある文字。

それはあっちに届いていないんじゃないか?


ただ、俺が開くことを、文字を浮き上がらせる条件としてあるだけで、

少なくとも、その本に、通信機とでも言うべき、対話の機能は備わってなどいない。

それを彼方に送り届けて初めて、採点が為される代物としてお前に託されている筈だ。

違うか?

そう言われて、渡されていなかったか?“


“しかしそれでは、対話を形式上でも成り立たせる呪物になり得ない。

お前のご主人様が得意とする知恵比べの土俵に俺を引きずり出せるのは、お前が居てこそだ。”


“ああ、お前が騙されていたとまでは言わないが、その知恵の書はブラフだ。

直接的な対話には、お前の代筆が不可欠になる。”


“Teus、お前の右腕は、少なくとも主神によって与えられた祝福の内の一つなのだ。”




“…そしてOdinは、俺が必ずその穴を突いて来ることを、見越していた訳だ。”


“お前の記さない言葉にこそ、あいつが試したい情報が埋もれていると知っていた。”



“だからお前の残りの感覚(センス)が…二重に張り巡らせた罠から零れ落ちた獲物を絡めとる。”




“盗視は、案の定俺が睨んだ通りだ。

別に、初めからその嫌いがあった訳じゃないが。


お前の行動を執拗に監視し続けるカラスたちが、俺にそう疑わせるヒントを与えてくれた。

奴らは、視界に頼っている。少なくとも、かなり重きを置いている。


彼らは結局、昨夜の会話を、俺とお前の間だけで交わされたものとしか受け取れていない。

闇夜にカラスの眼は無力だ。何も見えていなかったからだ。

あいつらに、第三者の介入は知覚できない。

Skaの存在だけは、知覚を免れていたのだ。


にも拘わらず、此処まで周到に俺を欺こうとする、この罠の数。


俺達の会話から、不穏な企みを感じ取るところまでは出来たのだろう。

盗聴までも、為されている。

カラスの聴力なら、可能だ。

そしてお前自身によっても、な。“




“そうなると、この暗号の使用期限も、とっくに切れている。”


Fenrirは、突然俺では無く、Skaと直接会話を始めた。



“おいSka、机上に書いてあるそれは、Teusが刻んでいたもので間違いないな?”


“えっと、分んないです。寝てたので…”


“馬鹿っ…よくもまあこんな重要な局面でそんなヘマができるな?”


“ごっ、ごめんなさい、あんまりTeus様のお膝が気持ちよかったから…”


“ったく…それで、どうだ?”


“線の多さから、恐らく2列目かと…”


“ちっ、よりにもよって…”


“これはひょっとすると、勘付かれたか…?”



また直ぐに、対象は俺へ移された。


“Teus、やはり傍聴されてしまった危険性がある。

お前が机の上に記した落書き、中段の本の配列で間違いないな?”


え…?これ?

そうだ、初めに本棚を弄る狼たちの異変に気が付いた時に、傾きのパターンを読み取るのにメモしたのだった。


“そうなると、ルーン文字はもう…使えないな。”


これ、ひょっとして、まずかった?

ほんとに一部分だけ、書いただけなのだけれど。


“復号も、不可能では無いのだ。”


“本棚の内の3段を用いることによって、実現したこの暗号は、中段だけ抜き取ると次のように分類できる。

全部で10通りだ。これを俺は、彼らに記憶させた。

|\ A, B, L U …1

|\/| D, E …2

|/ F, R ,W, TH…3

\/ G, O, NG …4

|_| H …5

| I, P, T, Y…6

\ \ J …7

|/\| M …8

\ N, S …9

\|/ Z…10

上段、下段も似たように分類できる。


LEFT EYE TO SEEは、

1, 2, 3, 6, 2, 6, 2, 6, 4, 9, 2, 2で表現できる。飽くまで、中段の話だぞ。

2のパターンがEと断定するのは、この短文からでさえ容易だ。


アルファベットで、最も頻繁に使われるものがEであることは、周知の事実だ。

何処の暗号を絡めた推理小説でも出て来る。

そうなると9はSとして9,2,2 = SEE

6も一文字ずつ試せば 6,2,6 = EYEまでは簡単に辿りつけるだろう。

それだけで、俺達が、お前の眼を搔い潜ろうとしている。

死角を利用して何かを企んでいたのはばればれだ。“


“そして聴覚は完全に封じられていることは、前述の通りだ。

俺にはOdinが警告として、わざとボロを出したようにしか思えない。“



“…悪いが、この方法でお前の方から暗号を送ることは出来ないんだ。”




“言っておくが、左手で書くとか、そんな甘えた機転を働かせるんじゃないぞ?”


“その籠手は、確かにお前が日常生活を送るのに、必要な機能を備えているのかも知れない。”


“だがな、それの贈り主は誰だ?”


“そいつは果たして、そのルーン文字がお前だけに仕えるよう、祈って刻んだのか?“


“それは本当に、お前の動きを監視し続ける為のセンサーでないと言い切れるのか?”




“こんな言い方をするのは、俺も辛いが。

しかしお前は、四肢を鎖で繋がれた、敗戦の王。

あらゆる尊厳を奪われてしまった一介の捕虜なのだ。“




“それを承知で、俺はお前に救いを求めている。”




“助けてくれだなんて、あの時言えなかった言葉を、

恥ずかしげもなくお前に投げかけているのだ。“





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