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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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212. 予言により 3

212. As Foretold 3


“くあぁぁぁ……”


“はっ…いけないいけない…”


Fenrirの痛い視線を感じ、寝起きのほんわかとした表情をきりりと引き締めようと努めるも、Skaはどうやら欠伸が止まらないらしい。

かぱりと開かれた大口から垂れる舌の長さに、いつもちょっとびっくりするのだが、

狼の鼻の長さを鑑み、そして口元から舌先がはみ出ている様子を思い浮かべては納得しようとしている。


「全く、気分がぶち壊しだ。」


とても、世界の終わりについて思いを巡らせる雰囲気じゃないな。


“す、すみませんでした…”


「別に、寝かせてあげてちゃ駄目だったのかい…?」


「ああ、こいつは必要だ。…少なくとも、今のお前にはな。」


さっきまで顔色が、頗る良く無かったが、だいぶましになった。

幾らか緊張が解けたのなら、それで良いとしてやろう。


こんな陰鬱な話を乗り切るのに、伴侶は不可欠であるということさ。


「そういうもの、かな…」


口では納得していないように見せつつも、内心では彼が敢えて会話の脇道に逸れたことにとても感謝していた。

まだ、動悸が収まっていないけれど、Skaが毛皮を撫でたことに対して反応を示してくれるだけで、自分でも驚くぐらい気分が落ち着いた。


状況が状況で無かったら、ぎゅっと胴を抱きしめ、涙が滲まなくなるまで彼の鼓動を感じていたいぐらいだった。



そんな現実逃避への誘惑に駆られる程、

俺は目の前の難問から、目を逸らしたくて堪らなかったのだ。




「世界が滅びる時、


それは誰によって、何が原因である為か?


神々が滅びるとき、


その時は、我らが主神でさえも、いずれ命尽きるだろう。


彼に最期を齎す者は、誰だと考えるか?」





「時にTeusよ…お前は、悪い夢を見るか?」


「ゆ、夢…?」


まだ、与太話は続く。そんな気はもうしなかった。

いいや、俺が知らないだけで、初めからずっと、本題に深く切り込んでいたのだ。

彼が寄り道をするのは、森の散歩を楽しむ時以外に考えられない。


「眠れないのとは違う。悪夢に苛まれることがあるか聞きたい。」


「ま、まあ見るかな?たまにだけど…」


「怖いか?」


「そりゃあ、夢だと気づくまでは…」


「もし良ければ、それがどんなものか、教えて貰えないだろうか?」


「あんまりはっきりとは覚えていないよ?脈絡のない展開だし…」


「それは、自分が死んでしまう夢か?」


「い、いや…」


「それでは、過去にあったトラウマの追体験を?」


「う、ん……」


「そうか…済まない。そんなに深く聞き入るつもりは無い。ありがとう。」


Fenrirは瞳の色を少しも変えずに微笑むと、同じ話題を狼に対しても投げかける。


「Skaは、どうだ?お前がついさっきまで見ていた夢は、心地よいものだったか?」


“はい…あんまり覚えていませんが、良い夢見ていた気がします。”


そうだろうな。


「怖い夢は?」


“うーん……”


「思い出したくないよな、きっと。」


“えっと…”



「ふふっ…お前もTeusも、優しいのだな。」


“…すみません。お役に立てず…”


「無理に聞いて悪かった。言いたくないことであれば、それでけっこうだ。」


Fenrirは目を瞑って、恐らく自分にも、同じ問いを立てて、同じ答えに行き着いていた。


「…俺は、お前達が考えている悪夢がどのようなものか、窺い知りたかっただけだ。」



「だが、それで良いよなと思う。」




「口に出せないようなだけで。お前たちの恐怖は、はっきりとしている。」


「それが如何に強大であろうと、その輪郭が見えているのなら、立ち向かえると思うのだ。」



「換言すれば、得体の知れない何か、では、どうしようもない。」


「それでは、死と、同じでは無いか。」



お前達が恐れているそれは、

破滅を齎すものとは、何だ?



不老不死では無いことを、今更ながらに自覚し、

姿かたちを捉えられぬ、死のような、緩やかで唐突な滅びに怯え、絶望しているのか?



違う筈だ。

もっと、具体的な形容が叶う。

お前達の頭の中には、それを名付ける術を知らずとも。

“怪物”が蠢いている。違うか?



「だから、それを俺は言い当てることに、集中しよう。」



Fenrirは、自分の右前脚を机の下から見せると、爪を此方へ突き刺すように伸ばす。



「俺はお前達の、頭の中を覗きたい…。」



まるで、それが出来るとでも言うように。







「でも、どうやって…?」


彼がこの問題に対して見据えた目標は明確だった。


しかし、幾ら稀代の賢狼と言えども、流石に相手の心の内を読み取ることは出来まい。

いつも、俺の考えていることはお見通しであるような気はするけれど。

それでも、俺の一番奥深くに渦巻いている、自分でも分からないような本性には、敢えて立ち入ろうとはして来なかったはずだ。



「なに…簡単なことさ。」



だが彼は、もう一つの言葉で、俺にこう伝えて来たのだ。

俺の左眼の端で、文字が傾いていく。


“Teus…”


“Please, tell me the answer.”

俺に、答を教えてくれ。


真実が知りたいのではない。

“I do not mean I want to know the truth.”


俺はこの問いに、どう答えれば、

俺はお前達を、悲しませずに済む?

“How should I answer this question without causing you grief?”


俺は、お前に委ねたい。

答えを教えてくれとは言わない。

“Gonna leave it to you.”


しかしお前が、俺と一緒にいたいと思っていてくれるのなら。

“If you want me to be with you…”



俺が今此処で、その書物に記すべき言葉を教えてくれ。

“Here and now, tell me the words I should inscribe in that book.”


俺は、そのまま、お前が指示した通りに、その言葉を口にしよう。

“I'll just say the words as you directed me to say them.”







Fenrirは破顔して、前脚を机の上に降ろすと。

まるで本棚に書かれた言葉が自分の意志によるものでは無いかのように、

上機嫌かつ無邪気に尻尾を振るのだった。




「…なんて、大口に相応しい台詞を叩ければ、苦労はしないのだがな。」





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