212. 予言により
212. As Foretold
遂にその時が来た。
牙を剥き、本性を現した。
「世界が滅びる時、
それは誰によって、何が原因である為か?
神々が滅びるとき、
その時は、我らが主神でさえも、いずれ命尽きるだろう。
彼に最期を齎す者は、誰だと考えるか?」
決して動揺の自覚が無くとも現れる、
俺の僅かな表情の変化、
お前の眼には、
お前の眼の奥には、
どう映っている?
「ふーっ……」
読書の合間に、お茶でも飲んでみたいものだ。
緊迫した物語の展開を途切れさせること無く、ほっと息を吐き出したい。
人間の様に、熱い飲み物を啜るようなことは出来なくても。
冬のお前が震えを抑えようと求める所作は心地よさそうで、
ちょっと羨ましかったのを覚えている。
「‘世界’ が滅びる時、か…」
酷い怯えようだった。
目を瞑って、瞼の裏で表情を思い返す。
第15問を読み上げた時の、あの声の震え方。
俺が喰い殺してやるぞと脅してやった時でさえ、あんな風に口籠ることは無かった。
「……。」
だから、Teusは知っていたことになる。
この問題が訪れるのを恐れていたのだ。
どうにかして俺と対峙させまいと、奔走してくれていたのだろうな。
けれど、そうやってずるずると引き延ばすのも、もう限界に近かったのだ。
主神の意向には、抗うことが出来ない。
俺みたいな奴は誰しも、最終的には彼の目の前で、審問にかけられなくてはならない。
これが脅威査察であることなど、火を見るよりも明らかだった。
俺が、どれほど怪物的成長を遂げたのか。
あいつらはTeusという使者の視点を通して、それを見定めようとしてきた。
結果として、現在の俺が彼らにどう映っているのか、そんなことは知る由も無い。
相手の心なんて読めない。増してや、彼の奥底に隠れて舞台上に現れようとしない、あんたのことなんて。
だが、恐らく、それなりに良い仔に映っていたのではないだろうか。
少なくとも、Teusの命を奪うような素振りは、一度も見せなかった。
こいつによれば、俺は全くの無害な巨獣として報告されている筈なのだ。
しかしそれは、飽くまでTeusの視点からの印象に過ぎない。
言ってしまえば、俺はTeusを友達だと思っているから、害を及ぼそうとしないだけで。
尻尾を振るとまでは言わずとも、友好的な態度を示しているのは、その仲間内に限っている。
自分にとって敵であると認知した相手に対しては、羊の皮を被らず、本性を現す可能性はあるのだ。
だから、Lokiの証言を鵜呑みにはせずとも…知っておく必要があると判断したのだ。
もう一人の、確かな別視点から、俺を見定めようとしたとき。
やはり俺は、彼らにとって害獣足り得た。
それで、この群れの食料の継続的供給を条件に、俺をつぶさに調べ上げる機会を設けさせた。
俺は断れない。
何も知らないふりをして、結果を提出しなくては、仲間たちが喰いっぱぐれることにもなりかねないからだ。
どう晒すか?
何処まで自身を偽って、
己の無害さを証明する?
決して不意打ちになどさせない。
用意は周到に済ませて来たつもりだ。
それはお前達とて同じなのであろうが。
果たしてそれは、地の利を凌駕できる自信があってのことなのか。
試されているのは、お互い様ってことさ。
そう思っていたが。
どうやら、そんな駆け引きの段階は、とうに過ぎ去ってしまったらしい。
踏み込んで、間合いを一気に詰めて来た。
彼は…あいつらは、聞きたがっている。
俺の意志を。
「世界の滅び…」
「それは必ずしも、主神の死を意味することだろうか?」
「…あんた、王様みたいなものなんだろう?」
「跡継ぎは?いないのか?」
お前だって、誰かからその地位を譲り受けたはずだ。
自らの力が薄れるのを感じて、それが滅びに抗えぬものであるのなら。
世代の交代に目を向けるべきなんじゃないのか。
俺には、何を危惧しているのか分からないな。
まるで、お前の代で、滅亡すると予感しているかのような物言いだと言っているのだ。
確かにお前達に繁栄を齎した全知全能の神様が陰に籠ってしまわれるのは、ある種この世の終わりみたいなものなのだろう。
だが、それでも否応なしに生は続く。
どれだけ価値観の揺らぐような出来事が起きようと。
お前や、お前の大切な誰かの、世界との別離に関わらず、お前の生は歩みを止めないのでは無いのか。
神様相手に、そんな問答をしても仕方が無いか。
百も承知だ。お前たちは、それを頭では少なくと理解しているのだと思う。
だから、主神の命の果てを齎すものは、
世界の終わりを齎すものとは別であると俺は考える。
ただ、それが前置きとして、まず俺の言いたいことだ。
だが、それらが同値と捉えられるほど、
お前たちは主神の存在を掛け替えのないものとして捉えているのか?
感心しないな。
余りにも、各々が崇高な意思の元に人間を導く存在からかけ離れているとは思わないか。
そして、そうでないのなら。
…これは、やはり終末思想であると言わざるを得ない。
お前達は、半ば絶望している。
その時が、近いのでは無いかと。
それを齎す者の到来を、お前たちは探っているのだ。
「…お前達は、怯えている。」
誰を、とは言わない。
しかし、違うか?