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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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211. ヴァフズルーズニルの歌 8

211. Vafthruthnir’s Sayings 8 


Left eye to see


確かに、そのように読めた。


本棚の連続した3段を用いて、1つの文字を再現する。

ルーン文字の直線のみからなる形状的な特性を見事に活かした暗号だった。

これは、人間の言葉の一切を解さない狼にとって、個々の文字の上、中、下段について、単純なパターン形成に帰着される点において、非常に再現性が高い。

一つ一つの文字の意味や、文章全体の意味が分からずとも良いのだ。

それは個々の構成員に責任を与えさせない点で、優れた媒介者の設定であると言うことが出来たのだ。


左眼で見ろ…?


だが狼達が力を合わせて編み出した暗号を、遂に読み取ることが出来たと息を呑んだのも束の間。

そうして解読されたメッセージとは、俺をますます当惑させる内容のものだった。


左眼…?

何のことだ?


思い当たる節があるとすれば、そのメッセージを見ているのは、俺の左眼からの視界からのみであることだった。

Fenrirにフードの先を爪で触れられた際に、頭から垂れ下がった布が偏ってしまったせいだったのだが、まさか。


「どうだろう、Teusよ。飲み込んでもらえたかな?」


つまり、このままで良い、ということなのか?

このまま顔を右へ傾けることなく、フードの縁から、彼らが織り成すメッセージの続きを待て、と…?


「ああ…なるほどね。分かったよ、一応は。」


だが、何故だ?

どうして俺は、このような内通を持ち掛けられている?


いや…何故、そう ’迫られている’?




「流石だ。と言いたいところだが…」


Fenrirは、一応は意思の疎通が叶ったことを確認すると、皮肉めいた微笑みを見せた。


「本題へ入る前に、まだお前には事前知識として伝えておかねばならぬことがあるようだな。」


「……!?」



…動いた!?



再び、狼達が瞳を開いて頭を擡げる。

それはまるで、一匹の遠吠えによって眠りから醒まされ、次々と呼応して重なって行くように、一つの目的を共有していた。


だが、妙だ。Skaだけは、俺の膝元でぬくぬくと眠って動かない。


彼がFenrirから受け取った人間の言葉に基づき、それを狼の言葉を使って、飽くまで再現すべき図形の伝達として、本棚の根元に張り付いた狼たちに指令を出すという構図が真っ先に浮かんだが、どうやらそうではないらしい。


落ち着け、落ち着くんだ。

決して、そちらの方へ、意識を向けてはならない。

恐らく、というか、もう殆ど確信に近かったが。


俺はFenrirとの会話に徹しなくてはならないのだ。


「じゃあ、Fenrirは、ある程度計算によって、皆既日食が起きる日にちを割り出せると考えている訳だ…」


「凡そでしか無いがな。しかし、全くの的はずれになるとも思っていない。」


「困ったね…解答に至るまでの論拠を記さなくてはならない此方の身にも、なって欲しいよ。」


「できるだけ、完結に話してやるとしよう。この試験に設けられた制限時間は知らされていないが、何か問題がありそうか?」


「いや、無いと思う…寧ろ、Fenrirが真摯に付き合ってくれて、助かってるよ。」


「ふん、暇潰しにならぬようであれば、俺もこんなのはお断りだ。」




そう吐き捨てると、Fenrirの視線が俺からゆっくりと逸らされた。

本棚の並び替えが、完了したのだ。


…次は、何だ?

彼らの仕事が丁寧なお陰で、また平易に努めようとするお陰で、次のメッセージは、すっと理解できた。

字面として、だけだったが。


“You are wired.”


盗聴…されている?


誰から?なんて流石に愚問だった。

Odin達は、今この会話を聞いているって言いたいのか?


“While the ordeal was done outside, ravens were watching us.”


「カラス…?」


声に出さずに、口の動きだけでそう呟く。

何かの隠喩か?それとも、本当にヴェズーヴァに住み着いたカラスの内の何匹かに、Odinの遣い鴉が紛れ込んでいたと?

というかいつの間に、そこまで突き止めていた?

そして、それを何故、彼らに察知されぬよう、俺に伝えようとする?


「……。」


あり得ない話では無い。

神様は、天の上から、人々を見守っているものだ。

…目的が何であれ。


もどかしい。

俺から、Fenrirに向けても、メッセージを伝えられたら良いのに。

俺の眼や表情、仕草を通じて、狼の機微が如く、意思の疎通が出来たりはしないだろうか。


そんな奇跡を願って、頭の中でテレパシーを送って見ても、どうにもならない。



ただFenrir、君には少し申し訳ないけれど…

それは薄々、感付いていたことなんじゃないかなと思うんだ。


少なくとも、俺はそんな気がしていた。

Fenrirを死の淵から救い出す使命を担って送り出された身としては、喩えそんな勇敢な行いができる神様が他にいなかったからだとしても、単独任務というのはあまりにも不自然だったから。


君がこんなに優しい狼じゃなかったら、初めて森でFenrirと逢った時に恐れを為して逃げ出し、Odinに与えられた使命を反故にすることは全然有り得ただろうし。

増してや、俺が喰い殺されたことにも気付けないようじゃあ、送り出す意味が無いだろう?


確かに、君が突き止めた事実は証拠を伴っているらしい点で、極めて重要だ。

でも今更、驚くようなことでは無いと思うよ。


俺は、所詮は捨て駒だから……



「話を戻しても、良いだろうか?」



Fenrirは、俺のことを暫くじっと見つめていたが、やがて視線を逸らして、表面上成立していた会話を続けることを提案した。


それが合図となっているのだろうか。

狼たちは再び、与えられた本棚に鼻先を近づける。


「う、うん…」


「皆既日食が起きる条件。思うにそれは、次の4つの軌跡が重なった時だ。」


Fenrirは無表情に、口を動かし続ける。


「今から説明する原理は、この皆既日食が、長いスパンで見れば、周期的に起きる現象であることを示唆している。」


そして本棚は、彼方から読まれるのを待つ書物の特性に反して、無言に語り掛けて来るのだ。



“And now, they are not able to watch inside this library through their eyes.”




“But this must be expected for them.”


“They have one more eye to watch us.”


“One eye still remains.”




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