211. ヴァフズルーズニルの歌 7
いつもFenrirの話に付き合って下さり、ありがとうございます。
今回のお話ですが、PCからお読みになることをお勧めいたします。
理由は読み進めていくとお分かりいただけるかと思いますが、
スマートフォン版の一行に表示される文字数が、PC版と異なることに起因します。
読者の皆様には、大変申し訳ございませんが、挿絵を参照しつつ、上手く行間を読んでくださいますと幸いです。
211. Vafthruthnir’s Sayings 7
予言。
その言葉が肌に張り付く。
確かに、Fenrirが導き出した解答は、鳥肌の立つような切り口だった。
「…念のため断っておくが、狼の直感に、そのような力の類は含まれていないことを強調しておこう。」
だが、今はそれどころではない。
彼の言葉以上に俺の度肝を抜いたのは、狼たちが徐に書物の間に鼻を突っ込み、本棚を弄り始めたことだった。
前兆は無かった。
にも拘らず、明らかに何らかの意図を持って、動いている。
彼らは統合された意思の構成員である。
そんな天啓を得たのは、目に留まった一匹の所作が不自然に映ったからだ。
本棚の本を一度咥えてから、尻尾をゆっさゆっさと揺らしての小考があった後、
また元の位置に戻している。
だがその戻された本は、’何か’ が先までと変わっていた。
俺が吹き込んだように、背表紙が棚の奥に隠されている訳では無い。
几帳面なことに、上下が逆さになっている訳でも無い。
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こんな感じだ。
隣の本に、寄りかかるようにして、傾いているだけ。
それは、取るに足らない変化。
些細で神経質な図書委員が、溜め息を吐く程度の無礼。
しかしそれが、酷く俺の興味を惹きつけた。
目の前の状況を整理するために、メモを取る必要がある。
このノートには記せない。Odinに読み取られる。
行儀が悪いが、テーブルの上に印すしかない。
垂直に立てられた本、それに寄りかかって、斜めになっている本。
左、右…縦、縦、右…
僅かな指の動きだけで、悟られぬように、本の傾きを記録していく。
そうして得られた、開架下の羅列は、このようなものだった。
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なんだ、これ…?
意味が分からない。
「Ska……?」
マントの中に頭を突っ込み、膝枕を享受していたSkaに助け舟を求めるも、眠ってしまったのか、反応を示さない。
すうすうと寝息と共に膨らんで萎む毛皮を撫でながら、もう一度の模様背表紙が織り成す模様を眺める。
彼が司令塔だとばかり思っていたのだけど。
考え過ぎか…?
書き記している間に高鳴っていた心臓も、すぐに平静を取り戻していく。
「…然るに、月の軌道が単に太陽の光を遮るだけでは、皆既日食とはならない。」
Fenrirは何やら得意げに、皆既日食が起きる原理を説明しているらしかったが、もうついて行けそうにない。
元来、俺に速記なんて無理だったのだ。
普通に聞き取った内容を書き記すだけでも精一杯なのに、訳の分からない単語を並べ立てられては、理解できないまま、耳を素通りしてしまう。
気付けば、徐に行動を起こした狼達も、再び床に身体を広げて物憂げに寛いでいる。
狼達からの、何かのメッセージでは無いかと思ったのだけれど。
ただの気のせいだったのかな。
そう頭の中では片付けつつも、フードで遮られた画面の端から目を離せない。
何か、何か惹きつけられる。
「視直径と呼ばれるものだな。この世界から見た月と太陽の大きさは、常に変化している。前者が後者を越えた時に初めて、日食は完全なものとなるのだ。」
「そのためには、幾つかの幸運が重なる必要がある。」
「Teus、視野を広げろ。」
「お前が皆既日食だと恍惚な表情で見上げているのは、月なのだ。分かるか?」
「月…?」
Fenrir…ひょっとして、俺が狼達のメッセージに視線を向けていたことに、気が付いていた?
てっきり、自分の論証に酔って、一度喋り始めたら止まらないのかと思っていた。
「そうだ。その全てが、関わっていると心得よ。」
彼は、俺に狼の言葉を解する助言を与えてくれている。
そして、そのことを悟られてはならない様子だった。
「アースガルズ…月、太陽。」
そう呟きながら、もう一度、先まで眺めていた段と、その上下の本棚に目をやる。
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もう、メモを取る必要はなかった。
「↑」
‘T’、
その一文字を識字できた途端に、全ての文字が浮き上がって来たのだ。
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L E F T E Y E T O S E E