表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
491/728

211. ヴァフズルーズニルの歌 4

211. Vafthruthnir’s Sayings 4


「それじゃあ、次の問題だ…。」


「もし君の知恵が役に立ち、知っているなら、まず答えてくれ。」


「さっきから、何なのだ。その冒頭の文言は。」


「知らないよ…だって、そう書いてあるんだもの。」


「そうだろうな。お前の口からは、まず出てこない言い回しだ。」


「うん…喋ってても読みづらいし、噛みそう。」


「ふん、まあ良い…続けろ。」


何のことは無い。先ほどまで噛みつきそうな勢いで食って掛かっていた彼も、

一度、パズルゲームの設問に入ると、忽ち謎解きに没頭してしまった。



宙に静止して、時折思考に合わせてゆっくりと揺れる尻尾が、

彼の機嫌と、集中の度合いを如実に表している。


「じゃあ、行くよ…配置はこうだ…黒のキングがdの4で、クイーンがbの8…」


「ウルフが、cの7…」


「ふむ…」


「白が、キングd2、クイーンg3…ウルフがa4。」


「白が先手番で、詰めまで持って行ってくれ。」


出題されているのは、チェスの問題だ。

今並べ立てたアルファベットと数字は、盤上にある駒とそのポジション。


だが、普通のチェスとは違って、少々変則的なルールを提示されている。


名前がWで始まる駒は、普通のチェスには存在しない。

幾つか、オリジナルの役割を与えられた駒が、盤面に投下されているのだ。

そのうちの一つが、Wolf。

ナイトとルーク、両方の動きが出来るとされている。


もしFenrirがこの類のゲームに知悉していたとしても、少し勝手が変わるだけで、途端にやりづらくなるだろうとの狙いだろうが…。

どうやら、杞憂だったらしい。


俺が盤面を伝え終えるが早いか、彼は即座に口走る。


「Wb6 Qe8, Wd7 Kc4, Qxc7+ Kb4, Qc5+ Kb3, Qc3+ Ka4, Qd4+ Ka3, Wc5 Qb8, Qa1+ Kb4…」



「…で、Wa6で勝ち、か?」


「えっ…待って…ごめんもう1回。」


彼は宙を睨んだまま、ぶつぶつと駒の動きが正しかったかを確かめているようだったが、

そんなことを言われてしまったので、瞳を大きく見開いて耳を立ててしまった。


「もう忘れたぞ…喋った手を幾らでも覚えていられる訳じゃない。」


「ごめん、書く準備が出来てなくて…」


「じゃあ、もう一度盤面を教えろ。考え直すから…」


「申し訳ない...」


「同じ答えが得られている保証はないぞ。」


この設問群に入ってから、何度も直接書いてやろうかと提案されている。

一応俺が代筆するきまりだからと断り続けていたが、そろそろ限界かもしれない。

というか、これじゃあ、俺はFenrirが有利になるよう手引きすることなんて、出来る訳が無い。


「それにしても凄いね。小さい頃に、チェスで遊んだことあるんだ?」


「うむ、俺に部屋に置いてあったと記憶している。」


ルールは、本に書いてあったものを拾い読んだから、不完全であったんだろう。

俺が遊んでいた奴には、狼の駒なんて無かったしな。

が、一応は正しく遊んでいた。


「しかし、まあ当然だが、対戦相手はいなかったのだ。」


自然と、自分自身が相手役も務めて、交代で駒を動かすことになる。


「たった今、与えられた課題と同じことをしていたんだ。」


尤も、頭の中だけで完結させるのは、少々難儀だ。

昼寝の最中に続きを考えることが無かった訳ではないが。

知恵を測るのには確かにちょうど良いということか。

もしお前がもう一度アースガルズに赴くことがあれば、或いは見返りとして貰える物資の中の一つに、今やっているゲームができる実物を寄越して欲しいものだな。


「えっと、そう…だね。俺じゃあ、相手できないと思うけど。」


Fenrirが、こんな才能まで有しているとは思わなかった。

探り当てるきっかけは、そこら中に転がっているのだと思うと、Fenrirをこの舞台に引きずり出したのも、ある意味彼にとって良い機会なのかも知れないな。


そう思いながら、俺は次のページを捲る。



「それで、今のは正解なのか、どうなのだ?」


「え…わからないよ、そんなこと。」


「お前が、答えを知っていないことは百も承知だ。」


俺が双方に対して媒介者としてしか振舞おうとしないことに、初めは憤りこそ感じていたFenrirだったが、今は少し小馬鹿にしたような態度で、この不自然な対話をからかう。


「そこに答えが浮き上がって来るのでは無いのか?」


「うーん、初めは俺もそう思ったんだけど、リアルタイムな会話ができる訳では無さそうだよ。」


「なんだ。意外と不便というか…」


もう、巻末が見えてきている。

一冊の内の、左側のページに、Odinの筆跡と思しき問題が記されていて。

それに対応して、答えを次のページに書き込んでいくという仕組みだ。


それで、多分この本を送り届けて、完了になるんだと思っている。

一方的な問いかけをするのは、正直俺もあの方らしくないとは感じるけれど。



「’臆病'、なんだな。」


「……。」



「あいつらが、此方へやって来る度胸は無いと。」



…そうだね、そう思いたい。

此処までやって来て、俺達の間を引き裂こうとする輩は、Lokiで最後にして欲しいよ。


「…じゃあ、チェスの問題はこれで終わり。」


「なんだ、やっと面白いのが来たと思ったのに。もう終わるのか。」


始まる前は、あんなに嫌がっていたのに…。

好物の前では、目の色も変わるってことかな。


「ええと、次は…」




「私は方々を旅して、色々と試み…そして神々を色々と試してきた。」


そして遂にその問題は来た。


「狩りに長けた君に、質問だ。」



その問題は、14番目。



「太陽を捕まえてみてよ、そう言われたら、Fenrirならどうする?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ