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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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209. 惨めな食事

209. Withered Banquet 


「お、ようやく戻って来た…」


昼時はだいぶ過ぎ、日差しを毛皮に受けさせて眠るには、少々暑い時間帯だ。

狼たちは出来るだけ快適な惰眠を貪ろうと、思い思いの家屋や日陰に籠っている。


そんな中、変わらず枯れた噴水の縁石で妻との歓談を愉しんでいたらしいTeusは、俺が建物の間を縫って広場に姿を現したのを見ると、嬉しそうに手を振って叫んだ。


「今度こそお帰りー!」


「びっくりしちゃったよ。まさかSiriusを置いてきちゃうなんてね…」


「……。」


「安心して、ちゃーんと、君たちの分は残ってる。」


君らを待っている間、取り分確保して置くの大変だったよ。

全く…食べ物の話になった途端、Skaにさえ、反抗するんだから。

貪欲と言ったら怒られるかも知れないけれど、本当に有れば有るだけ食べようとする。

おかわり、まだあるんだろ?もっと寄越せって、匂いの源に群がっちゃってさ。


「でもそれって、よっぽど今回の出来栄えが良かったってことにならないかな?」


驚いちゃった。皆、凄い勢いで吸い込むように平らげちゃうんだもの。

Fenrirも、これには驚くと思うよ。真冬にヴァナヘイムから持ち込んだ煮込み料理には敵わないだろうけれど。

それでも俺の成長っぷりには、目を見張ると自負する出来栄えだ。


「…これもFreyaのお陰だよ、ありがとうね。」


君の代わりに、これからは俺が皆に振舞えるようになるから。

ずっと夢だった。こんな風に君と、それから狼と一緒に暮らすのが。


Teusは優しく語り掛けるように、そんなことまで、彼女に打ち明けるようになっていた。

きっと、残りの時間を意識した途端に、出来る限り伝えなくてはと、急き立てられたに違いない。


「待ってて、もう一度火にかけてあげるよ…」


楽しそうにランチタイムの出来事を報告するTeusの前にSiriusを降ろすと、

俺は黙って彼の尻を鼻で突いて、褒賞を受け取るよう促した。


“良いんですか?なんだか緊張するなあ…僕、初めて人間が作った料理食べるんです。”


Siriusは控えめに尻尾を振って俺の方を一瞥すると、笑顔で帰還を迎えるTeusの元へ走って行った。




「Fenrirの分は、大釜で煮込んであるから。温めなおすのに時間かかるかも…」




「って、あれ?Fenrir―?どこ行くんだよ?」


「…いらない。」


「いらないって…食べないの?」


「喰わない。俺の分は群れの仲間に喰わせておけ。」


「何だよ、急にどうしたのさ?」


味なら、他の狼たちが保証するよ?

臭いだけでも、不味くはないって分かるだろう?


Fenrirってば…




「試験は、中止だ。そう伝えておけ。」


「そ、そんなっ…!言っただろう?まだ、午後の検査項目が終わっていない!」


「やってられるか…もううんざりだ。」


「困るよ…最後まで付き合ってくれなきゃ、交換条件として物資を提供して貰う約束はどうなるんだい?」


ほら、始まった。

そうやって、仲間の食糧難を出しにして、俺から大切なものを奪う隙を伺う算段だったとはな。

大した狡猾さだ。堂々と立ち向かう勇猛さに欠ける点を除けば、狼に通ずる周到さがあるだろう。


「知るか…あいつらに聞きたいのはこっちだ。」


「な、なんのことだよ…?どうしちゃったのさ、Fenrir…」


「ふん……」


会話もそれきりにして、俺は仏頂面のまま、その場を立ち去ろうとする。





「そんなに、Siriusを見つけられなかったのが気に入らないのかい!?」


「……。」


「彼はFenrirの眼を欺くぐらい、隠れん坊を上手くやってのけた。それで良いじゃないか…」


「Siriusの成長を素直に喜べないって言うのは、流石に後見人としてどうかと思うよ?」



…そう、まさにそれが、問題なのだ。



これは、アクシデントだ。彼自身の素質によって為された、想定外の勝利であると、片付けられなくも無い。

誰もが、俺を含めて、そのように捉えるのが、最も平和的な結論になる。

Sirius自身も、気持ちよい木漏れ日に唆され、無自覚に気配を殺すことができたからだと、考えていることだろう。

しかし、自分は他のどの狼よりも長く、見つからずにいられた。

ちょっぴり誇らしい戦績をあげることができて、

しかも周りに褒めて貰える。

これは神様の齎した幸運なのかな、そんな風に考え、不思議な挿入話(エピソード)の一つとして、腑に落とすに違いない。


違和感を拭いされないのは、ただ俺だけ。

この危機感を訴えようと藻掻く程、信頼は遠のいていく。




ああ、駄目だ。

頭に血が上って、相談する気にもならない。


Siriusを乗せて帰る道中は必死に冷静になろうと我慢していたが、

このまま口を開くと、もう狂った唸り声しか漏れてはくれなさそうだ。


「はぁ……。」


最も信頼のおける存在であるはずのお前にすら、話しても無駄だと思うようでは。

俺は神々の思う壺、この事件について、孤立無援とさせられてしまったのだな。


俺は負けず嫌いで、仔狼に敗北を喫して、その才能に嫉妬している。


そう捉えてくれて、けっこうだ。それで良い。

兎に角、俺は帰るぞ。


“Fenrirさん…”


どんな反応も、お前を傷つけてしまいそうで、

俺は彼の視線を冷たく受け流すことを選んでしまう。




“グルルル……”




ご覧の通り、気が立っているんだ。

乱暴に石畳を踏み鳴らし、そのように態度で示す。



俺の根城に足を踏み入れるような奴は、


喩えお前達であろうと、容赦しないからな。





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