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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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207. ヤルンヴィドの猟神 3

207. Járnvid’s Huntmaster 3


「結局、視力検査は無駄足であったようだな。」


「そんなことないよ。ただ、百点満点では測ることが出来なかったってだけで。」


しかしそれも初めから、分り切っていたことだ。

1時間前の自分なら、そう続けていたことだろう。


だが、Skaとの会話を通じて、徐々にこの体力測定の全貌が垣間見えて来た。


「鷹のような目をしているんだね、Fenrirって。1kmは離れたと思うんだけど…まだまだ余裕あった?」


「まあな…」


これ以上距離を取ろうと思うと、開けた草原にでも出向かなくてはならないが、流石のTeusもそこまで突き詰める気はないらしい。


木目の模様はまではっきりと見えた。そう言おうと思ったが、余計な口を聞くのはよしておこう。


「とりあえずお疲れ様。体重の計量と同じだね。‘測定不能’、っと…」


こいつ自身も気が付いているのかは定かでは無いが、彼らは敢えてこういった項目を織り交ぜ、鎌をかけて来ている節がある。

検査が成立している時点で、もう普通ではない。

それどころか本来であれば、初めの段階で、見えませんと申告されるべきものだったのだ。


ボロを出してしまったものはしょうがない。

徐々に睡魔の影も薄れて来た。次からは、もっと慎重に己の能力を誇示しなくては。


「それじゃあ、そろそろ眼も醒めて来たでしょ?次、行ってみようか。」


出来るだけ楽しんで付き合ってやるつもりではあるが、正直もうどんな検査に対しても、疑心暗鬼を生じざるを得ない。


「まあ、予想が付くとは思うけど、視力検査の次は…」


「聴力検査…そして、嗅覚検査、だな?」


「流石!話が早いね!」


今度は、此方が仕掛ける番だ。



「そしてそれは、‘狼狩り’を、模したつもりか?」


「………。」


Teusは両目を見開いてSkaの方を向く。

度肝を抜かれたその表情には、一抹の疑いの余地があった。


“T、Teus様っ…!僕はFenrirさんには何もっ…一言もっ…!!”


「Skaを疑うのはやめろ。…それとも、俺に見抜けないとでも、思ったのか?」


「……。」



Teusの視線を逃さぬよう、睨みつけて逃さない。

背後で糸を引いている神々が、この会話を聞いているのだとしたら。

何らかの動揺を、Teusを通して示す筈。




彼だけがこの会話に参加しているなら、いつもながらに驚嘆の声を上げて済む話だ。

こいつとは嘗て、俺の縄張りに脚を踏み入れた時点で、侵入を察知されていたのだと会話した記憶がある。

今まで何度も、彼には信じて貰えるに相応しい体験をさせてきたつもりだ。


さあ、どうだ……?


「まいったね、完敗だよ。Fenrir!」


「……。」


いつもと変わりない笑顔。

嫌になるな、どうして俺が、こんな風にお前を見つめなくちゃならない。



「実は察しの通りで、この視力検査をやっている間で、別動隊に動いて貰っていたんだ。」


Teusは此処からは見えない、ヴァン川の方角を指さした。

そう、さっきから対岸で何やら、秘密裏の動きがある。


合計で5匹。

それぞれが全く別々に動き、ある地点で皆、ぴたりと動くのを止めて息を潜めた。


「ふむ、お前の差し金だったのか…全く気が付かなかったな。」


「あれ、ほんと…?そこまで気が付いているなら、もうやる意味ないかと思っちゃった。」


「検査と聞いて、ぴんと来たのは確かだが、流石にあいつらの動きの目的までは把握できていない。ただこそこそと対岸へ向かうものだから、退屈だから遊びにでも抜け出したのかなと思っただけだ。」



「それに寝起きでは五感も鈍る…もうちょっと眠気が醒めてからにして欲しかったかもな。」


「そう?…ま、まあ良いや、検査に支障が無いなら…」


Teusは少々面喰らった様子を見せたが、気にせず説明を続けた。


「彼らの捜索が、今回の君の任務になる。君の聴力を駆使して、彼らの臭いと息遣いを頼りに探し当てて欲しい。」


足跡なんかには、細心の注意を払っているだろう、手掛かりは残されていても、ごくわずかだ。

全員が不屈の追跡者(tracker)であるとともに、逃走者(fugitive)でもある。

俺が狼狩りと揶揄してやったのは、そういう意味だ。


「なるほどな。これは骨が折れそうだ…全部で何匹が、森で迷子になっている?」


「それも伏せさせて貰おうと思う。きちんと全員探し出したと、自分の中で結論づけて欲しい。」


「ただ、俺たちが視力検査を始める数分前に出発している。

狼が休みなく走って辿りつける範囲内で、探してくれれば良いと思うよ。」


「ふうん…」


Skaの家族はその中に一匹もいない。

俺があまり関わりの無い狼たちを派遣することで、嗅覚に対する信頼度を薄れさせたい狙いがあるようだな。

だが、途中で小便をしている奴がいるようだぞ。

これは群れのどの狼でも嗅ぎ分けられるような失態だが。まあそいつの名誉の為に口を噤んでおいてやるとしようか。



「どう?Fenrirなら、簡単にやってくれるかなと思って、考えてみたんだけれど…」


本当に、お前が考案者か?

あいつらの指示で、このような試験を設けさせたと考えるなら、何か裏がありそうだな。


「ふむ。お安い御用と言いたいところだが…生憎風向きが味方をしてくれていないな。」


大体の位置は、耳でなんとなく追いかけていたので把握できている。

それに、一度嗅いだ臭いを、しかも仲間の狼のそれを忘れることなど、はっきり言って有り得無い。

じっと息を潜め、どれだけ上手く隠れようと、尻尾の付け根が放つ香水は強烈な導となるのだから。


「早くても、2時間…いや、もっとだろうか。下手をすると、日が傾く。」


30分かそこらで、全員回収できそうだが。

多く見積もって、Skaならそれぐらいでやり遂げるだろう。

先の発言と矛盾するようだが、なるべく、自分をありふれた狼として演じなくてはならないのだ。

今度はボロを出さぬよう、乗り切ってみせるさ。


「お昼作って待ってるから。皆を連れて帰って来てね。」


「まあ、頑張ってみよう…」



後ろ脚に体重を預けて伸びをすると、全身の毛皮をぶるぶるっと震わせて尻尾の先まで伝える。




「鱈腹、用意しておくのだぞ。」




さて…昼休憩まで、もう少しだ。


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