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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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205. アズガルド派の調査 

205. Asgardian probe


「まあ、何だかんだ言って、一番この話で損をするのは、Fenrir自身ってことさ。」


他の狼たちは、年齢だけで、大体の体格が割り出せるって話、前にしただろ?

羊の皮を被って、虚偽の申告をすると、割を喰ってしまうよ。


「ごはんもちょびっとしか食べられなくても良いの?」


「う、うう……。」


普通の狼の、しかもシニア世代と看做されては堪らない。

どうして俺だけ、別扱いで、食料を人質に取られなくてはならないのだ。


「君だけは、もうちょっと詳しい情報を提供してやる必要があるってだけ。」


ね?検査は丸1日もあれば終わるから。


「い、一日かかるのか…!?」


やってられない。身長と、体重だけで終わりだろ?


「それがねえ、読んでみたらそうでもないらしいんだよ。」


結構、検査項目が多い。君への興味が意外とおありなようだよ。

TeusはOdinの神託が綴られていると思われる二折り便箋を開いて此方に見せた。


「読む気にもならん…」


そう言葉では退けつつ、視界の端では、ざっと記されている内容を盗み見た。

怪しいことは、書かれてはいないようだ。彼が俺に要求した通りの文言が並べ立てられている。

封筒に収めてあったのは、その1枚だけか?知る由が無いことも無いな。

文頭にはTeusの名があり、末尾には最高神が直々に記したサイン。

こいつの筆跡は、以前蔵書の貸し出し申請で確認済みだ。

鼻を近づけて、嗅ぎなれない臭いを感じることが出来ればベストだが…


一応は、信頼できる。今のところは。


“頑張りましょう?Fenrirさん。僕らも手伝いますから。“


「…お前は良いよな、楽しそうで。」


“はい、とっても楽しいです!”


眼下で尻尾をふりふりするSkaを恨めし気に睨みつけるも、群れ仲間たちは、何やら始まろうとしている遊びの時間に、期待を隠しきれないようだった。


以前、Teusが零していたが、俺の存在は、大の大人狼たちに幼少の記憶を呼び起こさせるらしい。

本心では皆、俺と戯れたがっているとか、俺を招き入れる為の口実ぐらいにしか考えていなかったが。


“Teus様…僕たち総出で、お手伝いいたしますよ!”


「うん、ありがとうね。ほら、Fenrir。さっさと終わらせちゃおう?」


「くそっ……」


狼の群れの統率力を、見くびってはならなかった。

こいつら、あとで覚えていやがれ。




――――――――――――――――――――――




まず初めは、身長・体格測定だった。


「いいか?Ska。ちゃんとロープの端を持ってるんだよ?」


“ウッフ!ウッフ…!!”


「よーし!行ってこい!」


“ワウゥッ!”


絵画のモデルをさせられるとは、光栄なことだと伺っていたが。

それは耐え難い拘束であることを俺は確信した。


「動くな、だと…。」


飼い犬へ冷徹に下す、待てと同じ。いやそれ以上に酷いではないか。


“誰が咥えてるのか知らないけど、お前達も、ロープを口から離すんじゃないぞー?”


“わかってる、大丈夫だよ。パパー!”


背中を蹂躙して踏み歩く、可愛らしい肉球たち。今だけは煩わしく思うぞ。


「Fenrirも、大丈夫?君が口から離したら、皆に迷惑かかるんだからねー?」


「うるさい!…貴様は黙っていろ!」


尻尾の方から聞こえて来るTeusの呑気な呼び声に、迫真の唸り声で返すも、

青筋を立てて牙を剥いた恐ろしい表情は、あいつに見えていないのだ。






「ったく…何故俺がこんな目に…」


目的は、俺の鼻先から、尻尾の付け根までの長さを測定すること。

そして状況を説明しようと思うと…これが少々厄介なのだ。


巻き尺(メジャー)の役割を有するのが、結び目を等間隔に設けたこの麻縄だ。

原始的ではあるが、単位を測定対象に合わせて変えられるので、都合が良いと言えば良い。


まずは、測定したい長さを、地面へ投影する必要がある。

その為には結論、俺は突っ立っているだけで良い。



鼻先の位置を地面に投影するには?

俺が口先の味のしないロープを咥え、垂直に地面へ垂らせば良い。

そして、尻尾の付け根の位置を足元に佇むTeusへ知らせるには?

勇敢な仔狼に崖側で伏せさせ、同じく縄を垂らすだろう。

邪魔にならないよう、尻尾を股の下に挟み込むのは、耐え難い恥辱だったが、この際仕方あるまい。


あとは、二匹の狼が地上でぴんと縄を引っ張り、それらの交点の間にある結び目を数えようという訳らしかった。


暇だ…ぼんやりと、山の端を眺めるぐらいしか、することが無い。

昔は、あの頂上にはSiriusが住んでいて、自分のことを見守ってくれているのだと想像したものだ。

懐かしいな、冬が訪れたら、久しぶりに足を伸ばしてみても良いだろうか。



“Fenrirさーん!お待たせしましたー!!”


そんな感慨に耽っていると、尻尾から鼻先まで、狼脚の林を駆け抜けたSkaの姿が眼下に見えた。


“お前…ロープを咥えて持ってくる仕事はどうした?”


“あれっ…どっかで離しちゃった…?あ゛っ!待ってっ!!そっち持ってかないでっ!!”


ぴんと縄を張ろうと、反対側で誰かが引っ張ったらしい。

らしい、としか言えないのは、俺が背中を伸ばして、まっすぐに前を見据えていなくてはならないからだ。


“ったく…綱引きやってるんじゃないんだぞ…”


足元でぎゃあぎゃあと…身動きできないせいで、余計にイライラする。



続いて、足首の周り、胴の周りに縄を一周させ、幹の太さを丹念に測定する。

此方は幾分簡単に済んだ。

足首はTeusが足元でうろうろしている間に終わったし、

予め伸ばしておいた縄の上に寝転がり、片っぽを咥えたSkaが、胴体の山を登って超えて来るだけだ。

何故か、こいつ以外にも大量の脚が一緒になって登山に勤しんでいるのが納得いかなかったが。

仔狼が親狼の上によじ登りたがるのを見守るつもりで、大目に見てやることにした。



しかし、首回りの長さと、口周りのサイズ測定だけは、文句を言わずにはいられなかった。


「どうしても嫌かい…?気持ちはもちろん、分かるけど…」


「…協力するとは言ったが、これは矜持に関することだぞ。」


何故か、と言われると、はっきりとは説明できないのだが。

遊戯としての狩りではなくとも、生態調査の対象に、人間に生け捕りにされた気分がして、どうしても受け入れられなかったのだ。

麻酔で眠らされ、万一覚醒しても襲われないよう、目隠しをされ、口を開けないよう布袋を被せられる。

その間に、首輪を嵌められ、耳飾りを通され…

あの尊厳の奪い方が、動物記をいつ読み返しても、耐え難い吐き気を催すのだ。


気が引けるが、もっと、言ってやろうか。

横になって身動きとれぬまま、棘付きの鎖で口の動きを押さえ付けられる。

その感覚が、俺に ‘あの時’ のことを思い出させると言っているのだ。


お前なら、わかるな?俺の言っている意味が。


「わ、わかった…ごめんね?辛いこと思い出させてしまって…」


流石に、調子に乗り過ぎたと気が付いてくれたらしい。

Teusは狼狽えた様子で、Skaたちが咥えていた縄を取り上げた。


「もう身体の測定は止めだ。本当にごめん。ちゃんと、彼らにはFenrirが怒ってるぞって伝えておくから…」


「そうしてくれ…」


その後は、尻尾の長さもご所望のようだったが、Teusはそれ以上何も言わなかった。

此方も全力で死守させて貰う予定だったので、助かったとほくそ笑んでいる。





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