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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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204. 難題の予見者 2

204. Thought-Knot Seer 2


「それで…今日は、一族全員を招集して…何の用だ?」


俺は朝食の残骸をバリバリと奥歯で噛み砕きたい欲求と、口をがぱっと開いて大欠伸と共に眠気を吐き出したい誘惑のどちらにも抗えず、なんとも滑舌の悪い口火を切った。


「ヴェズーヴァを束ねる長から直々に、それも緊急に触れ回りたいことでも、あると言うのか…?」


久しぶりにぐっすりと眠れたので、起き抜けの身体がだるくて動けない。

Teusを護らんと奔走し続け、ずっと昂って張りつめていた神経が、ようやく休んで良いのだと理解してくれたのだ。

全身の筋肉が弛緩して、文字通り俺は(たる)んでしまっている。


流石にGarmと喧嘩したら疲れた。当たり前だ、あんなに元気な遊び相手は当面ごめん被る。

暫くは、此処での生活に慣れつつ、骨休めだな。

Teusだって、身体の変化に順応するのに、それなりに時間がかかるだろう。


「今日、皆に集まって貰ったのは、他でもない…」


長老様のありがたいお話が終わったら、もうひと眠りさせて貰うとしようか。

だから、長々と離すなよ。でないと、この場で転寝するからな。


そう思って、前脚の間に頭を埋め、いつでも目を閉じられる体勢になったと言うのに。


「Fenrirの ’身体測定’ に、協力して貰いたいんだ。」



「……。」


ぱたん、


瞬時に俺は、目を閉じて尻尾を地面に横たえた。

今のは…そうだな。聞こえなかったことにしておこう。


というか、本当に聞き漏らしてしまった。

久方ぶりに垣間見た心地よい朝日が眩しくて、思わず目を瞑ってしまって。

そうしたら、抗い難い睡魔に襲われ、そのまま微睡の深みへと引きずり込まれていく。


「…何してんのFenrir。」


“寝たふりしてますね。俄かには信じたいですが。”


「嘘でしょ、馬鹿じゃないの?」


彼らが必死に叫ぶ声も、俺の耳には残念ながら届かない。


仕方あるまい、彼は疲れているんだ。今日は諦めて、このまま寝かせておいてあげよう。


きっと見逃される、大丈夫。

俺のことはそっとしておこうと、直に皆広場を去って行く……




なんてことには、ならなかった。


「Ska。今すぐ例のチームを結成し、Fenrirの寝床で、作戦(プロジェクト)Sを実行するんだ。」


“かしこまりました。Teus様。”


待て待て。勝手に共謀するな。

何だ、作戦Sって。ちょっと気になる風に名付けるな。


まさか、Skaは嫌がらせとして、神立図書館に何かよからぬものを持ち込もうとしているのではあるまいか。

保存食として死骸をTeusのベッドの下に隠してやれと、Skaに冗談交じりで唆したのが裏目に…?

だがそれなら全部喰らってやるまでだ。

俺に対して嫌がらせとなるどころか、敵に塩を送っているようなものじゃないか。

全くもって、俺が動じるような脅しとは思えないが…。


“本の背表紙(Spine)を全部裏返して、Fenrirさんがタイトルを見つけづらくすれば良いんですよね。”


“ばっ…馬鹿な真似は止めろっ…!!”


なんて陰湿な嫌がらせをしやがるのだ。絶対に許さんぞ、そんな迷惑行為。

そもそも図書館というのは、公共の施設であってだな…


あ、それだと、その場所を占有している俺も悪いことになるのか?




“良かった、Fenrirさん起きましたね。”


「……。」


憤慨して、思わず頭を擡げてしまった。

眼を瞬かせて、しまったと舌をしまい込むも、もう手遅れらしい。


「ほら、無駄な抵抗は止めて。ちゃんと話聞いててよ。大事なことなんだ、Fenrir。」


「く、くそ……。」


新入りは、いつだっていびられるもの。

それは狼の群れであっても、同じことであるのだ。




――――――――――――――――――――――




「前にも話したかも知れないけれど…」


そして、その話とは、不愉快極まるもので、やはり耳にすべきでは無かった。

和気藹々とした今までのやり取りが、この為のお膳立てであったのかと、勘ぐってしまう程。


「君の個人情報(データ)を、彼らは欲しがっている。」




ぴたりと動きを止め、俺が両耳を鋭く立てて彼の方へと向けたのを確認すると、Teusは続けた。


「俺達への継続的支援を行う…そのための交換条件だそうだ。」


「そして俺は、Fenrirにそれを飲んで欲しいと思っている。」


「……。」


データ、だと…?


じわり、と毛皮を誰かの手が撫でる感触が走った。


「……。」


「何故だ、どうして今更……」



どうして今になって、アースガルズの神々が、俺に興味を示すことがある。

俺にはもう、用なんて無いはず。


俺を、父さんと母さんから引き離して、

アース神族の住まう神域より追放し、

そして二度と戻って来ることが無いよう、この森を、新たな縄張りとして与えた。


その主神たる、Odinが。


どうして。


鉄箱の縁からじっと俺を見降ろしていた鴉の、慧眼とでも言うべきあの眼差し。

まさか……。





ふわりと(そよ)ぐ悲しみに引き込まれ、

表情を固めたまま、反応できずにいると、


「Fenrir…?どうしたの。具合、悪い?」


Teusが心配そうに顔を覗き込んでいたことに気が付かなかった。


「…別に…」




こんな風に思うのは、お門違いだが。

Teusなら、彼らの要請を断ってくれると思っていた。


そうでないからと、腹を立てるのは間違いだと分かっている。


しかし俺がアースガルズの神々の干渉を受けぬよう、身を挺して護ってくれるなどと、勝手に期待してしまった。


Fenrirは、もうお前たちのことは完全に忘れて、幸せな日々を送っている。

余計なお世話は、一切しないで貰いたい、と。


彼が、まだ神様だったなら。そう言ってくれたのかもしれない。




決して、弱くなったのではないと知っている。

けれど、Teusはもう、天空神でも、軍神でも無いのだ。



余生を、闘い以外のことに使うと決めた。

俺が看取るべき友達。




「……具体的には、何だ。」


何が、望みだ。


俺の、何が狙いだ。


そうとまでは、尋ね無かった。




彼を責めるべきではないと、何度も冷静になれと言い聞かせつつも。


ただ、少しぐらいは、俺のことを別の意味で心配してくれても良かったのに。


そう裏切られたような感覚が拭えなかったからだ。




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