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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第6章 ー古き神々への拘束編
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202. 認識のはかり 2

202. Noetic Scale 2


耳元で、そんなに大声で喚かれては堪らない。

眼は醒めていたことを幸運に思うが良い。

びっくりして飛び起きるようなことになれば、何匹の狼が巻き添えになったか分からない。

俺は大袈裟に唸り声を上げて慎重に寝返りを打ち、腹ばいになって視界に入ったTeusを横目で睨みつける。

睡魔に襲われている被害者に、こんなに辛辣に当たる人間が嘗て存在したかと黙して訴えた。


「お前も鱈腹、胃袋に詰め込んで、一緒になって昼寝を愉しむべきだとは思わないのか…」


「良いよ、別に後で食べるから。俺は残り物で構わない。」


「ふん。狼を、もう少し貪欲な生き物と捉えるべきだぞ。」


こんなもの、一日とは言わないが、あと2,3日で消し飛んでしまう。

次はいつ、獲物にありつけるか分からないからな。野生の狼は、あればあるだけ口にして、溜め込んでしまう。

それでも余裕がある時は、死骸を地中に埋めて保存だってするのだ。

兎に角、喰い物が此処に放って置かれる事態になるとは思うな。


「へえ…それは勉強になるね。そこら中の廃屋で、宝探しが出来るってわけだ。」


「ああ。ベッドの下には、くれぐれも気を付けるが良い。」


Teusはぎょっとした表情を見せ、幽霊よりも恐ろしい事態に怯えなくてはならないことを悟ったようだ。

初めは朧げだった生肉の臭いが、段々とはっきりとしてくる。

俺だって、後から食べるとしても、隣に他人の死骸を置いて眠りたいとは思わない。


「…流石にSkaにやめてって言っとくわ。」


“別に僕、そんないたずらしませんよ?”


“やってやれ、Ska。お前の主人は、期待して裏返しの言葉を口にしているのだ。それぐらい察しろ。”


“なるほど…流石はFenrirさん。”


お前も、まだまだだな。

よし、今宵は俺が、一肌毛皮を脱いでやるとしよう。


「Fenrirっ!!今Skaに何か吹き込んだだろっ!!」


「別に何も言ってないだr…」


「いいや言った!良い仔ですみたいな顔一瞬したもん。騙されないからなっ!!」


「ああっ…分かったから、そんな大きい声を耳元で出すな。頭が割れる…」








「はぁ…なんか、急に疲れが…」


羊飼いって、どうやって羊の数を数えているんだろう。

牧羊犬の力があっても動き回る動物の数を数えるなんて無理だよ。

まあ、狼は、もっと素早く動き回るから、難しいのだろうけれどね。


「相手が悪かったな。羊の皮を被る気もあるまい。」


「そうね。こんなことしてたら、冗談抜きで日が暮れちゃう。」


Teusは腰をその場に降ろし、空を見上げて手の平を差し伸べ、曇り空の具合を見る素振りを見せた。


その一連の所作の自然さには、目を見張るものがあった。

左手を先に着いてから、咄嗟に外套の裾を払って、尻を地面に乗せたのだ。

これも、籠手によって骨格を支えられているお陰なのだろうか。

先までは、しんどそうな唸り声を上げて、身を屈めていたのに、まるでその苦しさがない。


多少、無理をしている嫌いはあるが、

それでも心配で居ても立っても居られない程ではなさそうだ。



翻って、俺の方はと言うと。

まん丸になるぐらいに喰らってしまったので、球体に四肢が生えたような気分でいる。

全然、身を起こす気になれない。お前の為に、頭を擡げてやりたい気持ちがまるで湧いてこない。


しかし、起き抜けの気怠さが抜けただけで、身体はみるみるうちに活力を取り戻していると分かった。

余りにも体調が良いので、却って低燃費で過ごしたくなってしまう。

完快には程遠いが、俺も彼を最早心配させることにはなるまい。




ああ、ほっとするような心地よさを覚えて。

すぐに、身に覚えがある感覚に行き当たる。


俺は、お前を救う側になれなくて、実に残念だ。





「…しかし、そんなに眠れなかったのか?」


俺は綻ぶ口元をきつく結ぶと、ご機嫌斜めなふりをして、ぶっきらぼうに口を開いた。


「眠れないって、何の話さ…?」


「人間は眠れないとき、農場に溢れる羊を数えて過ごすと書いてあった。」


「別に、それは、頭の中に思い浮かべているだけであってだね…」


「だがお前は目の前に、狼が群れていたから、代わりに数えることにしたのだろう?」


「違うよ、数を数えなきゃならなかったのは事実だけど…」




では、何の為に?


「その……」


協力を要請しておきながら、目的を共有しない訳にも行くまい。

前屈みになって、右手の平を握りしめるのは、彼が大事な話をしようとするいつものサインだった。





「ヴェズーヴァの ’個体数(polulation)’を報告したかったんだ…。」



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