183. 狼狽
183. Two Great Wolves
“ナ、何ダ……?”
腹から胸の辺りにかけてじわりと込みあげる、この熱い感覚は。
一度感じてしまうと、それは穏やかな温もりとなって体内に溶けて、広がっていく。
“ウ、ウゥ…?”
恐ろしくなってしまうほどには、看過できない異変だった。
それでいて、激しい苦痛でもなければ、
全てが終わった春の景色を眺めるような心地よさも無かったのだ。
それが、俺にとって理解し得ぬ感情の作用であるとも、思えずにいた。
別に、俺だって冷徹漢な訳じゃない。
狼が冷酷な獣であると思うのならば、また違った話になるだろうが。
俺は群れの仲間を失った絶望を未だに受け入れられずにいるし。
早く、オ嬢や彼女に会いたいと思っている。
分らなかった。
一番慣れた感覚であるばかりに。
“Fenrirさん!!”
“……!!”
俺は、その正体を見破れずにいたのだ。
全身の毛皮を繋ぎ止めていた ‘百足たち’ が疼く。
鳥肌が立った。
まさか。
まさか、そんなことが。
“ア、ア……?”
確かめるのが怖くて、下を向けない。
今、ピクリと動いたのは?
Sirius、お前が幻覚との抱擁を試みただけか?
そうであるのだな?
恐る恐る、大狼の亡骸を抱えていた、前脚を離してみる。
“ウ、嘘ダ…”
宙で、分離しない。
離れたいのに、離れてくれない。
それどころか、もう。
縫い合わされてしまった。
“……Garm。”
俺の中で、彼が目覚めたのだ。




