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Interlude 4

161.0 Sleep Paralysis


これは閑話です。

物語とは全く関係ありませんので、読み飛ばすことを勧めます。


いつもFenrirのお話に付き合って下さり、ありがとうございます。


大変ご無沙汰しております、灰皮です。

前話のあとがきにてお話しました通り、新型コロナウィルスに感染しました。

体調は、概ね回復しており、現在隔離施設にて、出所の時をのんびりと待っている状態でございます。


それで、文章を書くリハビリとして、そして投稿が滞ってしまったお詫びも兼ねて、幾つか狼に関するトピックを提供させて頂こうと思い、筆を執った次第です。


今回のテーマは、”人間が狼とその群れに与える影響” です。

いずれも最近の論文で、私が面白そうと思って引っ張ってきました。


どうか、そういう研究があるのかー、ぐらいの気持ちで。

気になったものだけでも読んでみては如何でしょうか。


「狼って、犬と同じように眠るの?」

「死因が人間に依るものである場合の狼の群れの持続性」



それでもし興味が湧いて来たなら、原文を一読されることを強く勧めます。

引用元は初めに示します。


---------------------------------------------------


「狼って、犬と同じように眠るの?」


Reicher, Vivien, et al. "Non-invasive sleep EEG measurement in hand raised wolves." Scientific Reports 12.1 (2022): 9792.


とっても素朴な疑問ですよね。

部屋で野生を忘れたように腹を晒して眠る愛犬と、

思い思いの寝床を作り、何匹かで丸くなって眠る狼たちで、眠りにどのような差が生まれるのでしょうか?


この論文では、狼が人間の伴侶として生きるようになった、即ち飼われるようになったことで、睡眠そのものに変化が生まれている可能性について探っています。

犬は、犬であるが故に(番犬には、彼らなりの責務があるので、その限りでは無いのだと思いますが)、外敵の存在を気にすることなく、また狩りの獲物を見逃すことなく、好きなように眠ることができます。

野生の狼は、そういう訳には行きません。いくらか浅い眠りを強要されている可能性があると想像できます。


どのようにその差について調べるか、ですが、EEG(Electroncephalography)と呼ばれる脳波計測装置を使います。脳から生じる電気活動を頭に電極をつけて調べるあれです。

この手法は頭皮上で信号計測を行い、賦活部位を逆問題推定するために、空間分解能が低いという課題もありますが、非侵襲的な測定方法であるため、狼好きにはとっても嬉しいですね。


被検体となった犬と狼それぞれの睡眠段階として

覚醒状態から入眠、NREM、REM睡眠の脳波状態を測定することが出来たそうです。


で、結果について解説する前に

この時点で次のような疑問が浮かんだ方はいらっしゃいませんか?


どうやって狼に電極つけた状態で寝落ちさせたの?と。


実は此処で実験に参加している狼、完全に人間慣れしておりまして。

実験の間、常に飼育係さんが一緒にいて、とってもリラックスさせられていた状態で眠っていたのだそうな。

尻尾振ってお腹撫でて貰っている様子は、もう人間を群れの一員として認めてしまっているようで、ウルフドッグと何ら変わりはありません。

それって、違いが生じる原因として想像したような、野生として人間からの警戒を怠らない狼とはかけはなれていませんか…?

普段は区域内で狼達で過ごしているようなので、広い庭で放し飼いの犬、ぐらいのイメージですかね。


環境要因が睡眠にはもの凄く効いてきそうな気は物凄くしますが、どうなんでしょう。


間違ってるとは思いません、人間を特別に、狼の群れの仲間の一員として認めているだけ。

人間と常に一緒に過ごしているのでは無い、と考えれば、それで済むからです。


彼らも生物として、DNAは狼であり、犬との比較は行えるはずです。

というか野生の狼に対して同じ実験はそもそも行うことが出来ません。やりたければ、遠隔から、同じだけの時間分解能で脳波を測定できる装置を開発しないといけない。


しかし、狼を囲いの中に入れて観察した結果として、α-wolf という誤った概念が生まれてしまったことは余りにも有名ですから、狼がどのような環境下で過ごしてきたかを明らかにすることは、とても重要な話であるのです。


話を戻します。


結果はあっさりとしていて笑、

狼の方がREM睡眠を長く犬よりも有している。

その傾向は被検体が年を取っているほど顕著である。

ことが分かったそうです。


REM睡眠の方が浅い眠りなので、やはり狼は野生としての警戒心が強いのかなあ、という一応は納得の行く結果が得られたようです。今後の報告に期待という所ですかね。


しかし、先の疑問でも述べたように、とても温厚な狼さんに協力して貰っているようなので、人間との干渉を本気で良しとしない野生の狼に対しては、また違った結果が得られるかも知れませんし、それを確かめる術は、今のところありません。

家畜化された動物と、野生動物の違いを探る際の大きなジレンマの良い例として面白かったので、取り上げて見ました。



---------------------------------------------------


「死因が人間に依るものである場合の狼の群れの持続性」


Cassidy, Kira A., et al. "Human‐caused mortality triggers pack instability in gray wolves." Frontiers in Ecology and the Environment (2023).


此方は結構強烈な論文。

狼の死因を「人為的なもの」と「人為的でないもの」の二つに分けて見た時に、

群れの持続性と生産性に「人為的な狼の死」は悪影響を及ぼしている可能性がある。

というものです。


この論文では、人為的な狼の死の原因を次の5つに大分しています。

Harvest (捕獲)

Lethal control (害獣の個体数減)

Poaching (密猟)

Vehicle (車両事故)

Capture-related (capture drug なるものが存在するようです…。drugは薬では無く麻薬で、

それを摂取してしまった為にバイソンやほかの狼に殺されてしまうことを指すようです。)


そして米国の有する5つの国立公園及び保護区域:

デナイ国立公園

グランドティトン国立公園

ヴォエジャーズ国立公園

イエローストーン国立公園

ユーコン=チャーリー・リバース国立保護区

において、早いところでは1986年から最近までの狼の死因に関するデータを解析しました。


どう判断して良いのか分かりませんが、

「人為的でない狼の死」と「人為的な狼の死」の割合は、4:6から 7:3 とけっこうまちまちなようです。

しかし人為的な死因はHarvestがぶっちぎりで一位でした。

また、狼たちが管理区域外に出てしまう(縄張りという意味では無く)時間が長いほど、人為的な死を遂げやすい。

ということが示されています。


そして本題に入りたいのですが、

こうした死が、狼の群れという単位にどのような影響を及ぼすのか?

について、次の二つの視点から論じています。

Persistence (持続性) とReproduction (生産性)です。

簡単に言い換えるならば、群れの誰かが亡くなっても存続できるか?と仔狼を設けて育てられるか?

に着目した訳です。

狼を群れ単位で観察することが出来れば、確かに分かりますね。


結果は、人為的な死を遂げた狼が一匹もいない群れの方が、そのような狼がいた群れよりも、

生き残りやすく、また仔狼を産みやすい、ということが、全ての保護区域において示されたのです。

結構な差でして、酷いと20%ぐらい存続する割合が減っている。

とりわけ、パックのリーダーが亡くなった場合のダメージは甚大で、存続可能性と出生率がガクンと下がってしまいます。


狼を襲う死が人為的である場合、それが雌狼の妊娠時期であったり、集団的に殺されてしまう場合が多いため、このような結末を齎すと著者は推測しています。

自然がもたらす死は、彼らを群れ事絶やそうとはしないってことですね。



この論文の新規性とは、やはりパック単位での死因に着目していることでしょうか。

人間起因の死が群れの壊滅を齎している。この結論は、狼の頭数というマクロな視点での研究では見えてこなかったことですよね。

先も述べた通り「人為的な死」と「人為的でない死」の割合自体からは、何も言えないからです。



とにかく、当然欲しかった結果として、人間の活動は、保護区で生きる野生動物の営みに悪影響を及ぼしているのですね。

この論文結果が、Lethal control やPoaching を規制する根拠となってくれれば、とても嬉しいですね。




---------------------------------------------------




以上、ちょっと駆け足で、文章がふわついていますが笑、人間が狼に及ぼす影響についての論文を二つほど、解説してみました。


どちらも面白い内容でしたが、やはり狼のこれからに警鐘を鳴らす論文の方が書きやすいのかなという印象を最近は受けます。

それって狼が分かりやすいぐらい虐げられてきているという意味なのですから、悲しい話です。


今後、こうした話題を提供することはあまり無いかと思いますが、

暇潰しに、そして狼について思いを馳せるきっかけになって下されば嬉しいです。



ようやく指がキーボードをちゃんと叩けるようになってきました。



また明日よりウルフハウンドの投稿を再開いたします。

お待たせいたしまして、申し訳ございませんでした。


第161話「Back-Tracking」の続きから、お楽しみください。

それでは、これからも何卒。


2023.02.03 灰皮





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