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【続編連載中】Wolfhound(ウルフハウンド) ー神話に殺された狼のやりなおし  作者: 灰皮 (Haigawa Lobo)
第1章 ー 大狼の目覚め編
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19.伝書

19.A Messenger


旅立ちの数日前、招いた覚えのない来客があった。

霧のまだ残る早朝、一人の女性がその霞の奥から姿を現したのだった。


洞穴から這い出て、Teusでないことは直感的にわかった。彼はいつもこんな時間に来ないから。

足音一つ聞こえず、目が覚めるとそこで待っていたのだった。

まだ少し寒いだろうに、白いワンピースを身に着けただけで、病弱そうな薄い肌を隠さない。

茶色の長髪の間から覗かせる目には、見覚えがあった。無論、気のせいだろう。

後ろに手を組んだまま、離れた場所からこちらを見つめてくるだけだったから、俺も黙って彼女を睨み返す。

目を合わせたら、ゆっくりと逸らした。

敵意はないようだ、そう思ったら、彼女は徐に口を開いた。


透き通るような声だ、風で髪が靡き、顔を見せる。

「あなたが、Fenrirですか…?」

どうしてこう、どいつもこいつも名前も知らない奴が俺の名を知っているのだろう。

そんなに悪名高いのか、一匹歩きも良いところだ。


「…どこかで会ったか?」

そうだ、と認めてしまっているようなものだが、気の利いた返事も思い浮かばなかった。

「…覚えていませんか?」

なに…?

怪訝そうな顔こそしなかったものの、穏やかではないその言葉に身構えずにはいられなかった。

俺は、彼女を知っていると言いうのか?

手繰り寄せる記憶としては、あちらにいた頃のそれで十分だった。

或いは、時折こちらへ冒険しにやってくる、命知らずの子供に、こんなのがいただろうか。

それとも…そういうことだろうか。

いや、違うだろう。


「お前は、Fenrirという狼を探していると言ったな。」

ゆっくり歩きだし、彼女に尋ねる。

返事はない。それでも良い。


「…人違いだ。お前の探している狼は、此処にはいない。」

人、ではないが。心の中で付け加える。

「用が済んだのなら、帰って貰おう。」


こちらが動きを見せたせいか、彼女はそれに応じた。

「…そうですか。」

声に落胆の類の感情はとれなかった。


「わかりました。」

小さくお辞儀をしたので、一度瞬きをすると、

彼女はまだ雨と霧で緑の濃い森の中で鳴く、

アオカケスのうちの一羽となって消えた。


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