110. LP01
110. Llop
「ィウ……」
「ティ…ウ…」
「Teus……」
朦朧とする意識の中、譫言のように、それだけを呟く。
時間を、稼がなくてはならない。
やっと与えられた責務を全うするのに、迷いは無かった。
敗走の路を、敷かなくてはならない。
彼が窮地から脱し、逃げ果せるのに、何秒必要だろうか。
10秒か、20秒か?
それだけの時間を、力の限り暴れ尽くし、出来るだけ周囲の敵を巻き込むんだ。
取り除くべき脅威は、こちらの方。そいつは、一瞥もくれてやる余裕はない。
手負いの獣として、往生際を足掻けるか?
1分、だと…?
いや、もっと必要になるよな。
こいつは、脚が信じ難い程遅い。
ひょっとすると、数十分、小一時間は必要か。
だとすると、ちょっと…きついな。
「たの…む…」
「逃…げ……」
「る……ん…だ…。」
ああ。
俺はまた、やっとできた友達を悲しませてしまったのだな。
そうはさせまいと、持ち堪えたかったのだがなあ。
こんな風に弱々しく寝転がっているところを、お前に見守られるのは、いつぶりだ?
懐かしさに、泣かされてしまいそうだよ。
「……。」
どうして、泣く。
そうか。今は、今だけは。
同じに、なれたのだな。
嬉しいぞ。
そう伝えようとしたのに。
動けない。
息が、出来ない。
「T……e…」
やられたよ。数枚も、彼方のほうが上手だったらしい。
あの大狼に、喉を破かれてしまったようだ。
古傷を見抜く鋭さ、お前と言い、素晴らしい狩りの才を持っているな。
痛みとかは感じなくて、代わりに身体が沼の中に薄まっていくような感覚に包まれる。
すーっと、筋肉が緩んで、固まった。
心臓ばかりが、懸命に生きようと早鐘を打ち続ける。
枯れかけた身体の隅々まで、輸血を行き渡らせているのだろうか。
まだだ、まだ動ける筈だ、と。
何も知らないんだな。
こうして開いた傷口から、止め処なく涙が溢れ出て、もう戻っては来ないことも。
そのせいで、俺はまた、大事な人と、会えなくなってしまうことも。
「…u……。」
何も、知らなかったんだ。
やっぱり。
“……?”
でもな。
あの時とは、違うとも思っているのだ。
だから。
だから、少しだけ。
こんな狼も、お前のお陰で変わったのだと伝えるために。
俺は笑って見せた。
「……。」
ああ、良かった。
そうしたら。Teusも、笑い返してくれたんだ。




