96. 低き唸り
いつもFenrirの話に付き合って下さり、ありがとうございます。
この話は、北欧神話において事実です。
Teusのお嫁さんは実はどんな方なのか、その子供は生まれているのか。
知る限りでは、出典がありません。
フレイヤという女神は実在しますけどね。テュールと結ばれることにしたのは私です。
しかし、こうしたことがあった、
それは、この物語だけの裏設定ではないのです。
胸糞が悪いですが、そう受け入れざるを得ません。
興味があれば、是非とも北欧神話について、お調べになってみてください。
次回から、いよいよ答え合わせです。
2022.04.26 灰皮
96. Low Roar
二人の大いなる神よ。
どちらも、どこまで、気が付いておられるのだ。
ひょっとすると、すべて分った上で、この土地を選んだ、と?
そう思うと元凶と呼ぶに相応しい怪物は、唯々いたたまれない。
海岸線沿いはどこまでも殺風景に伸び、俺に好きなだけ物思いに耽る時間を与えた。
「…受胎、か。」
こんなにも気分が躍る知らせを、どうしてこのような面持ちで受け取らなくてはならないのか。
おめでとう。そんな言葉さえもが、力を失うだなんて。
こんな最悪の結末が、あってよいはずがない。
あってはならないのだ。
あの男の悪戯のせいで、こんなにも幸せであるべき瞬間を、奪われてよいものか。
すべて、俺のせいだ。
もし本当に、その知らせが彼によるものであったとしたら。
二人は何事も起きなかったかのように、静かで満ち足りた日々を送るだろう。
互いを偽ることも、きっと躊躇わない。
“はあ……。”
ただの、思い過ごしであってくれ。
それ故に、無粋な真似はしないつもりだ。
俺は、Teusに神話の事実を伝えるつもりはない。
俺にできることは、白雉のふりをすることだけ。
これ以上、考えるのはやめよう。
もうすぐ、引き返したほうが良いだろうか。
日は暮れ、脚を洗ってはうねる波打ち際の境界も曖昧となりつつあった。
あの夫婦とSkaは一緒になって眠ることだろうから。
俺は浜辺で、居心地の良い寝床を見つけなくてはならない。
明日には、輝かしい海岸の景色にはしゃぐSkaが、俺たちの憂さを晴らしてくれることだろう。きっと。
「……。」
ゆっくりと振り返り、足跡を奪われた砂浜をうつろに眺めた。
耳を澄ませば、遠くで静かな会話が聞こえてくる。
「…。」
ああ、そうだ。
それで良い。
お前たちは、幸せであるべきだ。
それなのに。
それなのに、絶滅の契機は、
海の底、それよりもさらに深くで、根を伸ばし、実ったのだ。
海岸線には、先ほどまでは見当たらなかった漂着物が転がっている。
打ち上げられたのは、夥しい数の海の住人。
あいつが好んで食べた大魚も、見いだせた。
泳ぎでも忘れたのだろうか、小舟ぐらいの獲物まで横たわっているが、その名前を俺は知らない。
ただ、そのどれもが、黒ずんでいたのだ。
陽の入りが、そう見せたからではない。
二人の影のように、色を失ったからでもない。
それらは、腐らされていた。
己を、変色させられていたのだ。
“……。”
潮の匂いに、甘い腐敗が混じる。
空と海の混じる果て。
俺は今一度、浮かぶ世界の造形を目にする。
“もうすぐ、やってくるわ。”
その声の通り、辿り着いたのだ。
その前兆を。
俺は断腸の思いで、我が友に報告しなければならない。