表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

魔王様は暇過ぎる 第一話 『魔王様は暇過ぎる』

 魔王――――それは、恐怖の象徴。

 魔王――――それは、絶対の強者。

 魔王――――それは、魔を統べる支配者。


 魔王城の最奥、魔王の間に、世界の全てを支配する絶対の王は居ると言う。

 彼の王はただ一人。

 何人たりとも触れること叶わず、その無限の魔力で全てを滅ぼす。

 故にその姿を知る者はなく、世界は今日も、果て無き闇に満ちている――――


















 「あー、暇だ」


 薄暗い部屋で、俺はただ一人つぶやく。

 その声を聞く者はなく、その言葉には、退屈を紛らわす以上の意味はない。


 俺の名はアルヴォス・ジェイ・デメシアム・ラークライツ。

 数年に一度、俺の様子を見に来る者は、俺を『魔王』と呼ぶ。

 それが何を意味するのかは分からないが、どうやらその『魔王』という存在は、この部屋から出てはいけない決まりのようで、俺は生まれてから500年以上の時を、この部屋で過ごしている。

 食事や本は、一部を除けば頼めば持ってきてくれるし、不自由はない。

 だが、本はあまり種類が多くないらしく、ほとんどの本は読み尽くしてしまった。

 魔法の研究や、筋トレなどもしてみたが、魔法はあらかた開発しきってしまったし、筋トレはどうやら俺に体には不要らしい。

 そんな感じで他にも色々やってはみたが、流石は500年と言うべきか、ついにやることが思いつかなくなってしまったのだ。


 「暇過ぎる~。何かやることをくれ~」


 元々俺は、何もせず、何も考えずにぼーっとするというのが耐えられないタイプだ。

 故に、やることが無いという今の状況は、筆舌に尽くしがたいほど苦痛なのである。

 

 ……そういえば、俺の配下を名乗る者が言うには、俺の仕事は『勇者』なる者を倒すことらしい。

 その『勇者』とやらが来てくれれば、この退屈も、少しは紛れてくれるのではないだろうか。


 「あ~、勇者来ないかな~。来て欲しいな~。もう誰でもいいから来ないかな~」


 広い部屋の中央に鎮座するデカい椅子に座り、足をぶらぶらさせる俺。

 やることが思いつかなくなってから約1年。俺の毎日はだいたいこんな感じだ。

 あぁ……何か……俺の退屈を紛らわす何かが欲しい!!


 「新しい刺激が、欲しぃぃぃいいいぃぃいぃいいい!!!!」





 ~~~~~~~~~~ 





 「ついに辿り着いたぞ。ここが、魔王城か……」


 私は魔法使い。メリスティア王国の第三王女にして、勇者パーティーの一員である魔法使いだ。

 世界を脅かす闇の支配者、魔王を討伐するため、何年も修行し、技を磨き、ついにここまでやってきた。

 仲間であった弓使いのウェンバー、獣戦士のガック、そして勇者のクレイツは魔界での戦闘の中で、皆死んだ。

 そうして大切な仲間の死を乗り越え、私は今、こうしてここまでたどり着くことができた。


 「皆の死は無駄にはしない。私が必ず、魔王を討ち滅ぼし、世界に光を取り戻して見せる!!」





 ~~~~~~~~~~





 「ん? 初めての気配。これは……城の外か?」


 俺が暇過ぎて、石の床の上を無意味にゴロゴロしていると、ふと外に命の気配を感じる。

 今まで城の中に感じていた者達とは明らかに違う気配。別種族の気配。これはまさか――――


 「勇者、という奴なのではないか!?」


 これほど嬉しいことがあるだろうか!

 俺の退屈を紛らわす、最高の存在が現れたかもしれないのだ!!

 よし、さっそくここに招こうではないか。


 俺は配下の者に繋がる魔導具を起動すると、すぐさま命令を出す。


 「今しがた、城の外に異種族の気配を感じた。恐らく勇者とかいう存在だろう。そいつをここまで案内しろ。いいな」


 それだけ言って、俺は魔導具を停止させる。

 向こうで何か言いかけていたが、どうせ大したことではないだろう。

 それよりも勇者だ! はよ! 勇者、はよ!!


 こうしてはおれぬ。急いで部屋を掃除しなくては!

 仮にも客人を招くのだ。埃っぽくてはいかんだろう。

 なにせ誰かがこの部屋に入るのは初めてのこと。

 俺の配下とやらも皆、物を渡すときは、転送魔法陣を使って送り届けてくるだけだし、数年に一度の奴も、ドアの前で話すだけ。

 つまりこの部屋は、ドアが開くのすら初めてのことなのだ!

 あ~、まだかな~まだかな~


 俺がオリジナルの浄化魔法で部屋の掃除を念入りにしていると、外からいくつもの魔力の波動と、死の気配を感じる。

 死んでいるのは……元々この城にいた者達か。

 勇者をこの部屋に通せと指示を出したのに、一体何をしているのだ?

 気配からして、その勇者らしき者の魔法で、皆殺されているようだが……もしかして、ヤバいやつなのだろうか。

 いや、こんなにも多くの命を平気で奪うような奴なのだ。絶対ヤバいだろう。

 あ~せっかく退屈しのぎができると思ったのに、まさかの狂人とか。がっかりだな~。

 まあでも、一応それでも初めての客人なのだ。もてなす準備はしておこう。


 俺は本棚に使われていた木材を魔法で加工し、テーブルを作り、ベッドを加工し、二人分の椅子を作る。

 俺には一応玉座もあるが、あれはデカいしちょっと高くなった床に固定されているから、テーブルと一緒には使いにくい。

 部屋の壁は結界魔術で保護されているし、配下も壊しちゃダメっていってたからいじれないので仕方がない。

 最後に光魔法で部屋を明るくし、時空間魔法で封印してあったアツアツの紅茶とクッキーを出せば完璧だ。

 一応来るまでどのくらいかかるかわからないので、テーブルの上に並べた紅茶には、保護の結界をかけておく。

 さあ、これで準備は完璧だ! いつでも来てくれ、勇者よ!!


 ――――あ、でも勇者だったら戦わなきゃいけないんだっけ。

 まあでも、お茶してからでも別にいいよね。

 それに、もし断られたらしまっちゃえばいいんだし。

 さて、まだ時間もありそうだし、もう一回部屋の汚れをチェックしておこうっと。

つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ