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それでも世界は美しい(仮) 0話

異世界ものなのに異世界行くまで書いてないからただの学園もので草

 遥か昔、無窮に長く思えるような、永遠かと紛う程の、時の彼方で交わした約束。

 私にとって、最初で最後の友であった汝の、たった一つの、最後の願い。


 幾星霜の時を経て、数多の器を渡り歩きし、愛しき我が友の魂。

 実り、熟れ、今まさに地に堕ちんとするその魂を、私が拾い上げよう。

 己を律し、己を戒した、種無き汝の魂に、私が再び息吹をもたらそう。

 それを、汝が望むのであれば。


 さあ、目を覚ましなさい。

 そして見るのです。

 汝が愛し、汝が守った、この小さくも美しき世界を――――



















 「……はぁ」


 放課後の校舎の屋上。

 そんな場所で一人、部活に励む者たちの声を聞きながら、俺は一人ため息を漏らす。



 ギィ――――


 しばらくそうしてグラウンドを眺めていると、背後で、屋上の扉が開く音がした。

 出入りが少ないせいか、ろくに整備もされずにさび付いているのでわかりやすい。

 誰か来たのだろうか? 物好きな奴もいたもんだ。

 いや、この時間にここに来るのなんて、アイツくらいのものだろう――――


 「あー! 龍司りゅうじいた~! もう……探したんだよ?」 

 「む……スマン」


 ――――やっぱりお前だったか。

 今屋上に上がってきた黒髪女子の名前は、佐倉さくら かえで

 いわゆる、幼馴染ってやつだ。

 学校で孤立している俺に、何故だかやたらと構ってくる。

 こいつは美人で成績も良く、コミュ力が高くて人気があるから、別に友人には困っていないはずなのだが。

 俺としてはありがたいが、何かと俺を優先したがるのでちょっと心配だ。

 友達付き合いとか、ちゃんとできているのだろうか。

 まぁ、こいつのことだから大丈夫なのだろうが。


 「それで? 龍司はまた生徒指導室に呼ばれてたの?」

 「ん? ……あぁ」

 「理由は?」

 「……他校の男子生徒3人への暴行」

 「で、実際のところは?」

 「…………店のでたむろしてて、迷惑だったから注意したら襲ってきたから、テキトーに避けながら相手が諦めるのを待ってた」

 「で、そのまま悪者にされたの? また?」

 「……まあな」

 「はぁ~……一応、言い訳くらいはしたんだよね?」

 「無論、全て説明した。まあ、相手にはされなかったが」

 「処分は?」

 「相手に大したケガもなかったので、3日間の停学と、反省文」

 「……そっか。大変だったね」

 「はぁ……もう慣れたよ」


 俺は、見た目が悪っぽくて口数が少ないせいで、昔からこういう事がよくある。

 犯人を捕まえたら、俺が犯人扱いされたり、困ってる人に声をかけたら、怯えられて通報されたり。

 他にも色々……顔は生まれつきで変えられないのだから、外見だけで判断するのはやめて欲しいものだ。


 「まあ、その……ね。私は、龍司がホントは優しい良い奴だってこと、ちゃんとわかってるから」

 「……ぉぅ」

 「…………プッ! 声が小さいぞ、強面のくせに! 照れちゃってるのかな? ん?」

 「う、うるせぇよ! そうだよ照れてんだよ!! 悪いか!? ……いつもお前だけは、絶対に俺の味方でいてくれるから、スゲェ救われてんだ。だから、その……サンキューな」

 「は、はぁ!? な、何いきなり言っちゃってんだし!? ま、まぁ、長い付き合いだし? 当然って言うか……それに、そんな理不尽な扱いされてんの、見てらんないって言うか…………ねぇ、本当に私が口挟まなくていいの? 昔はアレだったけどさ、今なら――――」

 「大丈夫だ。お前がこうして側にいてくれる限り、俺は大丈夫だから。だから、いいんだ」


 高校1年の頃に一度、こいつが俺の理不尽な扱いに不満を抱いて、教師に突っかかって行ったことがあった。

 そん時のはかなり酷くて、俺は何も悪いことしてないはずなのに、退学処分を食らいそうになってたんだ。

 そこに楓が乗り込んできて、教師陣に食って掛かったんだ。

 結局、ある程度は認められて、俺は停学一週間で済んだんだが、それのせいで、アイツもかなりきつく注意されて、しばらく一部の教員から、何かと目の敵にされていた。

 今でこそ、品行方正成績優秀な優等生として教師からの信頼も厚いが、当時は正直、見ていて罪悪感が凄かった。

 だからその時に、もう楓には迷惑を掛けないって決めたんだ。

 俺のことに口を挟まないようにって約束をさせたのも、その頃のことだ。


 「……まあ、龍司がそういうなら、私は何も言わないけど……辛かったら、直ぐに言ってね? 私は、龍司の味方した結果、どんな目に遭ったとしても、迷惑だなんて思わないから」

 「……ああ、わかった」


 ウソだ。

 俺はきっと、最後の最後になっても、こいつにだけは頼らないだろう。

 だから、どんなに辛くても、助けてとは言わない。

 ただ、側にいて一緒に笑うだけ。ただ、それだけ。

 だって……好きな女が自分のせいで傷つくところなんて、見たくないからな。


 「それじゃ、帰ろっか!」

 「ふっ……そうだな」

 「あ、帰りにあそこ寄って行こうよ。先週オープンしたばっかのカフェ。あそこのパフェが凄い美味しいって、友達が言ってて――――」


 こいつはいつもそうだ。

 俺が辛い目に遭った日は、必ずどこかに誘ってきて、俺を連れ出してくれる。

 一緒にいて、一緒に笑ってくれる。

 ホント……楓には敵わない。

 いつでも、俺に笑顔と勇気をくれる。

 俺が今でも、お前の言う『優しい奴』でいられているのは、お前のお陰なんだって、気づいているのか?

 いや、きっと気付いていないのだろうな。

 だってお前は――――俺以上に、優しい人間だから。

 当たり前のように、皆を笑顔にできる奴だから。


 「? 何やってんの? 早く来ないと、全部奢らせちゃうぞ~」

 「ははは……一つくらいなら構わないよ」

 「え、ウソ!? いいの!!? やった~!! 流石龍司! お人好しマスター!!」

 「ったく、なんだよそれ」


 そんな風に何でもない話をしながら、今日も俺達は、いつもの通学路を、いつもより少しだけ楽しい気分で歩く。

 今日は嫌なこともあったが、それ以上に、良い一日になりそうだ。


やはり続かない。

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