表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

真の紳士(46)は肉体で愛を語る ~幼女は見るだけ触らない~ 第0話

続きは無い

 ここは、数多の世界を管理する神々の地。

 ここは、死した魂を管理する女神の仕事場。

 そんな場所で、女神の存在に気付くことなく、一人のおっさんが――――――スクワットをしていた。汗だくで。


 ぴちぴちタンクトップに短パン……の上に何故かロングコート"のみ"を羽織った、筋骨隆々のおっさん。身長は2メートル近く、足にはなぜかハイソックスを履いているが靴は無い。髪はボサボサで整っておらず、髭も生やしっぱなし。もはやそれらのせいでほとんど顔が見えなくなってしまっている。誰がどう見ても変質者である。あるいは原人。

 しかし、女神は知っていた。彼に犯罪歴が無いことも、彼が悪人でないことも、彼が――善行の結果としてここにいるという事も。

 なぜなら、彼の魂をここに導いたのは、他ならぬ女神自身なのだから。


 まあ導いたと言っても、別に全人類の中から彼女が精査し選んだとか、そういうのではない。ただ世界と言うシステムが"相応しい"と判断した善人の魂をこの場所へと送り込んでくるだけ。

 そんな世界が選んだ特別な者を、次なる世界へと色々と優遇措置をして送り出す。そういうお仕事をしているのだ。この女神は。

 というよりむしろ、彼女の仕事はこれ以外には存在しない。これだけが最高神様が定めて彼女に与えた仕事であり、これを蔑ろにすると言うのはつまり、彼女の存在意義そのものを否定することと同義なのである。

 流石の女神も、そんなことはできないし、するつもりもない。いや、"無かった"と言う方が正しいかもしれない。つい先ほどまでは、確かに女神は忠実に職務を遂行しようとしていたのだ。いつものように魂が運ばれてきたという知らせを受け、この場所へと足を運び、話を聞いて道案内をする。それは彼女だけに許された、彼女だけの仕事。無論、誇りをもってやってきた大切な役目だ。だが――――


 (さ、流石に『アレ』は……えぇ~……)


 人類すべてに平等なはずの女神も、目の前のおっさんには、流石にドン引きしていた。


 そもそもこの女神、善行を繰り返した末に世界に選ばれるような、そんな出来た人間しか相手にしてこなかった神である。それにいくら「人類皆平等(笑)」などと言ったところで所詮は女神も心持つ存在。それも未婚の、まだ若い(神界基準)女神。そんな彼女では、流石にこの『第一印象が悪い意味で斜め上過ぎるオッサン』に動じずに職務をこなすなど、できるはずもなかったのである。


 女神が事前に、このおっさんのプロフィールを先に確認できたりするのであれば、こんな事態も回避できた可能性が無くも無いが……この空間へ導かれる魂の選別は、全て神の権能と言う名の世界を管理する全自動のシステムで行われていたため、女神はおっさんをその目で直接見るまでは、経歴はおろか、性別や年齢すらも知らなかったのである。


 女神がそんなオッサンにどう対応すべきか頭を悩ませている間にも、おっさんはスクワットを終えて、今度は背筋を始める。その光景は先ほどよりも変態的で、それを見た女神は一歩踏み出すどころか、思わず後ずさりしてしまっていた。


 (いやいやいや! ムリムリムリムリ!! アレに話しかけるとか、流石に無理でしょ!! いやでも、仕事だしなぁ~)


 女神がそんな責任と本能の狭間で格闘していると、女神の存在にようやく気が付いたおっさんが、立ち上がって女神の方へと歩み寄って行く。

 しかし、当の女神はうんうんと頭を抱えて下を向いているため、そんなおっさんの行動に気が付かない。

 そしておっさんは、ついに女神の前まで歩いて行き、


 「そこのお嬢さん、もしやお加減が悪いのかね? 良ければおじさんが力になるよ?」

 「へっ?」


 女神へと声をかけてしまった。変態的な格好で汗だくのまま、その肩に手を置いて。

 声に反応し顔を上げた女神と、おっさんと目が合う。その距離、約30cm。


 「っっ!?!?!?!?」

 「?」

 「キャァァァァアアアアアアアアアアアッッ!!!!?!?」


 










 ――――それから数分後。


 「ふむ……つまり、貴方は女神で、私に転生の説明をするためにここに招いたは良いが、どう話しかけるか迷っているうちに逆に話しかけられて、パニクッてしまったと。そういう訳ですな?」

 「は、はい……そうです」


 実は変態にしか見えなくて声をかけたくなかったなどとは言えず、色々誤魔化した女神。というか女神的には今現在も変態にしか見えていない。


 「それはなんとも、申し訳ない」

 「え? あ、いえ……お、お気になさらず」


 しかしいざ話してみると、おっさんの対応は実に常識的かつ紳士的で、嘘を吐いていることを含めて罪悪感が込み上げて来る。

 女神はこれでも善人なのだ。ちょっと耐性が無かっただけで。なのでそんな対応をされては、流石に申し訳なく思ってしまう。

 しかし、謝るには正直に自分がどう思っていたかを白状しなければならず、そんな勇気はこの女神には無かった。


 「それで、具体的にはどのような内容なのでしょうかね? 転生というのはよくわかりませんが、色々あるのでしょう?」


 そんな女神の内心を知ってか知らずか、おっさんが話をリードすることで、罪悪感から口を噤んでしまっていた女神を助ける。

 ここまでされてなお「おっさんキモイ」などと言うほど女神も捻くれてはおらず、むしろ今までと同じように善人であったおっさんを、外見だけで信じることが出来なかった自身の浅はかさを悔い、今後の反省として心に刻みながら職務に励む。

 お詫びも兼ねて、多少おっさんに優遇措置をとってもいいかな? などと考えながら。


 「はい。えっとですね……まず、転生するにあたり、転生先の世界を選択することができる……の、ですが…………え?」

 「? どうかなさいましたか?」


 女神は、説明のためにと、おっさんの転生可能世界リストを開いたところで、思わず言葉を失ってしまった。何故なら、そこには世界の名が一つしか書かれていなかったからだ。それも、飛び切り危険な、最も文明が遅れている世界が。

 その世界は、『魔獣』と呼ばれる超常の力を持つ怪物が闊歩し、『悪魔』と呼ばれる狡猾な種族が人間を虐げる場所。魔法はあるが基本の文明は中世ほどで、色々と不便が多く、弱くて手を取り合わねば生きていけぬ種であるはずの人間ですら『スキル』でその優劣を判断し、他者を虐げる。そんな最も人気の無い世界。

 更に言えばこの世界、罪深き魂の廃棄所となっており、魔獣は全て、救いのない劣悪な魂から作られているのである。それを殺し、処分するのがこの世界の役目。本来なら神が行うべきその処理を、神の怠慢により押し付けられた不遇な世界。

 そんな、どう考えても善行の末に転生を果たす者の行先ではない世界、なのだが……


 「い、いえ。貴方は適性のある世界が一つだけのようで、この過程は飛ばしますね」

 「ふむ、そうですか。わかりました」


 (なんでここだけなのよっ!? こんな罪人の流刑地みたいな世界……え、ホントにここしかないの? ウソでしょ!?)


 罪悪感から、本当は自粛すべきアドバイスをしまくって、次の生をなるべく幸せに! と考えていた女神だが、一発目からこれである。しかも、もっとも重要な世界選択で。

 流石にこんなの嘘だろうと何度もリストを閉じては開いて見直すが、やはりそこに書かれているのはその世界ただ一つだけ。女神、冷や汗ダラダラである。


 (私、さっき説明で「善行の末にここへ導かれた貴方には、次の人生での幸福が約束されていますっ☆」とか言っちゃったんだけど~っ!? こんなん不幸しかないじゃないのよっ!! ……いや待て、落ち着け私。確かにこの世界はアレだけど、別に全員が不幸なわけじゃない。優れたスキルを持つ人間は特権階級の裕福な人が多い。転生者は強力なスキルを選択できるし、きっと大丈夫。うん。この後のポイント振りで、それとなくこの世界で優遇されやすいスキルを習得するよう誘導しよう)


 女神は、頭の中で理屈を並べてどうにか自分を納得させると、早速今しがた立てた計画を実行すべく、次の説明へと移行する。


 「え~……それで、ですね。えっと……次に、貴方には一定量のポイントが付与されますので、それでスキルやステータスを習得・成長させることが出来ます! このポイントは生前の善行の量によって変わるのですが、これを使う事で、貴方は次の人生を他人より優れた能力を持ってスタートさせられるのです!!」

 「ふむ。なにやら目の前に画面が出てきましたが、これでできるのですかな?」

 「あ、はいっ! それでですね、私のオススメは――」

 「ん? もう終わったのですが、何かまだ説明があったのですかな?」

 「……え? あ、あの~、ちなみにどういった感じに――」

 「もちろんっ! 肉体能力に全てを注ぎ込んだのであるっ! 吾輩は紳士でありますからして、『すきる』などという卑劣なものには頼らず、やはり己が肉体のみで数々の苦難を打ち払わねばなりませぬ。数値は基準が良くわからぬので適当に振りましたが、まあ細かいことはどうでも良いのである」


 (ぎゃああぁあぁあああ!! 何やってくれてんのこのおっさんっ!? スキル無しなんて、完全に差別の対象じゃないの!! 絶対幸せになれない奴じゃないの!? もう嫌ぁ~)


 こうして女神の計画は、おっさんの紳士的即断即決の前に容赦なく打ち砕かれたのであった。


 (い、いや! まだよ!! まだ最後の選択が残っているわっ!! これでありったけ優遇すれば、あるいは……少しくらいは……人生も良く、なる? かも? しれなくもないというか……いや、なります!! もうそうじゃなきゃやってられないわよ!! 私のこの罪悪感はどこに持って行けば良いのよ!! むしろこのおっさんの条件が悪い方悪い方へと転がって行くせいで、増しに増してるんですけどぉお!?!?)


 女神は、もはやオッサンを最初に見た時よりもパニくっていた。


 「最後にっ!! 最後に、もう一つだけ決めてもらわ無くてはいけないことがあります」

 「うむ。何であるか?」

 「それは、貴方が新たな命として次の世界に誕生するか、今のままの姿で次の世界に降り立つかと、記憶を受け継ぐか否かです。これには色々とメリットデメリットがあって――」


 (ここでせめて0歳からにしてもらって、超絶イケメンとかにしとけば、仮にスキルが無くても欲しがる女が――)


 「それならばこのままで、記憶はアリでお願いするのである!!」


 (何でよーーーーーーーー!?!?)


 「いやいやいや!! でもですね!? 0歳から始めることでのメリットも色々――」

 「む? 地面が光り出したのであるが、これは何ですかな?」


 (ぇぇぇえええええ!?!? なんで転生始まっちゃってるの~!?!? え? まさか今のおっさんの発言で決定しちゃったの!? 確かに今まで本人宣言後のやっぱなしなんて無かったけどさ!! えぇ!?)


 「いや、あの! え、えっと…………」


 焦った頭でいくら考えても、もはや女神に始まってしまった転生を止めることはできず、おっさんの、女神的にとびっきり悪条件での転生は、既に決定してしまっている。更にはこの時点で介入する権限も力も女神には無く、できることなど皆無であった。


 「ど、どうか……貴方の歩む道の先に、幸多からんことを、それはそれは切に願っております。いやホントに……お願いします神様。どうか彼をお救い下さい」


 もはや彼女にできることは、神の身でありながら神に祈ることだけであった。もうヤケである。

 そんな彼女の様子を、何も知らぬおっさんは、ただただ自分の幸福を願ってくれる心優しき女神として受け止め、それに感謝をする。


 「ありがたいのである。女神などと言う高貴な存在でありながら、一人間でしかない吾輩のためにそこまで……吾輩、必ずその思いに応えてみせるのであるっ!」


 そうしておっさんは白い光の中へと消えて行き、そこには行き場のない罪悪感やら贖罪の念や、職務を無事遂行できたのか怪しいこの状況への不安などを抱えた、哀れな女神だけが残されたのであった――――

続きは無い

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ