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自己中心男の、トンデモ異世界ライフ 1-3

 「――――ボクの名前はレヴィエル・クレディルゼート。君は?」


 俺の目の前で、俺が今しがた助けた女性が、可愛らしい声でそう俺に問いかけてくる。

 痛みから解放されて、晴れやかになった彼女の顔は、先ほどより一層可愛らしく、俺はすぐにその問いに答えることができなかった。


 「……えっと、やっぱりボクなんかと話すのは嫌だよね? 助けてくれただけでも感謝しきれないほどなのに、図々しかったよね。ゴメンね」


 すると、何を勘違いしたのか、彼女は途端に申し訳なさそうな顔をして俺の謝罪すると、立ち去るような素振りを見せた。

 俺はそこでようやく我に返ると、慌てて彼女を引き留める。


 「ウェイウェイウェイ! 待て! ちょい待った!! 大丈夫だ、問題ない。というより、むしろ歓迎だ。是非話そう。話すから、まだここに居てくれ!」

 「ほえ? あ、そ、そうかい? えと、ありがと」


 俺の必死の言葉に、驚いた顔をした後、少しはにかんでその場に腰を下ろすレヴィエル。

 その笑顔に、思わず顔を赤くしてしまい、下を向く俺。

 くそぅ……我ながら情けないぜ。

 昔から異性を意識した相手と話すのは苦手なんだ……


 「……俺は、宮倉 健斗だ……です。えっと、よろしく、お願いします」


 くぅ! 情けないぞ俺! もっと声を張れ!


 「えっと、無理はしなくていいんだよ? 君がボクの命を救うだけでなく、その手を優しく差し伸べてくれたことは嬉しく思うし、とても感謝しているけれど、君がそれで嫌な思いをするならボクは――――」


 しかし、俺のそんな態度を見て、彼女はまたしても俺から離れようとする。

 ……彼女は言動からして、何かしらよくない事情を抱えているのかもしれない。

 だが、俺には随分好意的に接してくれているようだし、こんな美少女と知り合う機会を逃すわけにはいかない。

 それに何より、まだ人里の場所を聞いていないからな。

 今晩の身の安全のためにも、それだけは何があっても聞かなければ。

 俺はそこまで一瞬のうちに思考すると、羞恥を振り切り顔を上げる。


 「待った待った!! 確かに俺の態度は紛らわしいのかもしれないし、そこに関しては悪いと思うけど、別に嫌とかないから! ちょい待って!! そう慌てなさんなって!!」

 「ホ、ホントに、嫌なわけじゃないの? 無理してない?」

 「ないない。と、言うかだな……こほん。ぶっちゃけて言うと、レヴィエルがあんまり可愛いもんだから、ちょっと直視できなかっただけなんだ。スマン……」


 このレベルの美少女は、基本自分の容姿が優れていることを自覚している。

 なので少し恥ずかしいが、こうして本音を言えば、納得してくれるだろう。うん。


 「ほえ? ……え!? ボ、ボクが可愛いって、そんな……えと……その…………ぁぅ」


 しかし、俺のそんな思惑とは裏腹に、目の前の美少女様は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 さっきとは完全に立場が逆である。

 てか、なんだその反応は。可愛すぎるだろう! 反則だ!!




 そんなわけで、レヴィエルの反応の可愛さに、再び顔が熱くなってしまった俺と、俺に可愛いと言われて照れちゃったレヴィエルが、お互い顔を赤くしながら、黙って俯いているという奇妙で少し気まずい時間が3分ほど続いた。

 正確に言えば、俺は1分ほどで一度回復したのだが、レヴィエルの相変わらずの態度や、服の腹の部分に開いたままの穴から覗く白いお肌を見て、再びノックアウトされていたのだが……


 「えっと、ああそうだ。それで、助けた礼といっては何なんだけど、一つ頼みがあってだな……」


 このままではラチが明かんと、俺は顔を上げて本題を切り出す。

 とりあえず、さっさと人里の場所くらいは聞いておかねば、下手をすると助け損になりかねない。


 「ん? なんだい? ボクにできることなら、何でも言ってよ!」


 なっ……なんでも、ですと!?

 それは言ってはいけない言葉ですぞレヴィエル氏。それもそんな眩しい笑顔で。

 ま、まあ俺は紳士なので? 別に変なお願いとかは? しないけど?

 というか、このタイミングでそんなお願いをして関係を壊すリスクを負うよりは、良好な関係を築いていった方がメリットが大きそうなので、ここは自重するべきだ。

 どうでもよくて、もう会わないであろう相手なら遠慮なく言うかもしれないがな! ……ああいや、そういう相手ならそもそもそんなお願いはしないか。


 「えっと、人里の場所を知りたくてな。俺はあんまこの辺詳しくなくて……」

 「うん? そんなことで良いの? 命を救ってもらったんだし、もっと色々言ってくれてもいいんだよ?」


 い、色々!? 色々って何ですかねぇ!!? まさか、あんなことやこんな――いや待て待て。誘惑に抗うんだ俺! 彼女はきっと天然なだけだ。そんな意図は無いんだ。冷静になれ。

 …………ふぅ。よし。


 「そ、それなら、もうちょい色々聞きたいかな。一般常識とか、そういうの。俺って田舎出身で、世事に疎いから……普通知ってるでしょってことも知らなかったりするんだよね」

 「あ、それで……えっと、うん。いいよ! それくらいならお安い御用だよ。ただ、ボクの知ってる範囲で良ければだけど」

 「ああ、もちろんだ!」


 よっしゃ! これである程度この世界の常識がわかるぞ!

 世界観すらわからんのが現状だ。この早い段階で情報が手に入るのはデカい。




 それから俺は、レヴィエルから色々な話を聞いた。様々な種族や、魔物。宗教や法律など……

 どうやらレヴィエルは魔族のようで、人間は魔族と仲が悪いらしい。さっきの態度は、それが原因のようだ。


 「――――しかし、その怪我も人間にやられたんだろう? 俺が嫌だったりしないのか? 俺も一応、人間なんだけど」

 「うん。えっとね、多くの人間や魔族は、魔族だから人間だからって、その全てを敵視しようとするけど、ボクはそういう、種族単位で相手を評価するのは好きじゃないんだ。ボクたち魔族は人間に差別されてるけど、ボクらまで人間だからって言って相手を拒絶してたんじゃ、結局は同じことだからね。だから、僕は種族がどうとかじゃなくて、あくまで個人として相手を見て、評価するようにしてるんだ。まあ、僕一人がそうしたところで、結局多くの魔族が人間という種を嫌っている現状が変わる訳じゃないし、どうなる訳でもないんだけどね」


 そう言って少し悲しそうな顔で笑うレヴィエル。


 「いや、そうでもないさ。少なくとも俺は今の話を聞いて、魔族って種族に対して差別や偏見を抱かず、きちんと個人を見て接してみようと思えた。お前のその考えは、たった一人かもしれないが、確かにお前の理想と同じ考えを抱く者を生み出したのだ。それはきっと、意味のある事だろう?」


 ふっ、決まったな。これで俺の好感度爆上げ間違いなしよ。

 ほら見ろ。さっきまでの悲しそうな顔だったのに、今はめっちゃいい笑顔を浮かべてやがる。

 ……てか、そんなキラキラした目で見つめるな。なんか知らんが罪悪感が――いやいや、俺はこの少女の夢を守ったんだ。理由は少々利己的かもしれんが、別に悪いことはしてないんだ。素直に喜ぼうじゃないか。うん。

 

 


おわり

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