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自己中心男の、トンデモ異世界ライフ 1-1

「…………マジか」


 真っ白な視界から一転、俺の目の前には、のどかな草原が広がっていた。

 少し奥には、広い森も見える。


 これは……あれだな。

 転移先も、指定しておけばよかった。


 しかし、マジで転移だなこりゃ。

 もしかして、あの爺さんはマジもんの神様だったのか?

 思い返せば、あの謎空間も、部屋にいたはずなのにいきなりだったし……

 ちょっと唐突に現れた非現実を前に、現実逃避気味の思考をしてしまっていたのかもしれない。

 とはいえ、もう言っても遅いか。

 今は、この状況をどうにかすることを、第一に考えるとしよう。


 さて、衣食住の内、『衣』はとりあえず今着ている部屋着という名のジャージがある。

 森とか入ることを考えると不安だけど、まあ優先順位は下で良いだろう。

 次は『食』だが、これはマジで大事だ。

 俺は不老だが不死じゃないからな。

 これは、「流石に不死は、長い目で見たら嫌になるかも」と思ってそうしたのだが、ミスったかもしれない。

 んで最後は『住』だが、これは最悪野宿でいいか。

 獣が出ないか不安はあるが、食事に比べれば重要じゃない。

 とはいえ、食事も数日くらいならなくてもどうにかなる、か……


 「よしっ! それじゃあ、とりあえず、最低でも飲み水は確保しておきつつ、安全な場所と食料を探すぞ!」


 こうして行動方針を決めた俺は、ついに異世界の大地を歩き始めるのであった――――

















 「――――ぜんっぜんわからん!!」


 行動し始めてから、約4時間。

 俺は、「案外どうにかなるだろ」とか思いながら、気軽にこの緑あふれる草原を楽しんでいた……のだが…………ついに俺は、気づいてしまったのだ。

 いや、気づいてはいたが、気づかないふりをしていたという方が正しいかもしれない。

 俺が、『サバイバル知識0』であるという事に。


 流石の俺も、キャンプ場でのキャンプくらいはしたことはあるが、あんなのはサバイバルじゃない。

 買ってきた肉と野菜に、用意された炭と調理器具。

 火種はライター、着火剤ももちろん使う。

 寝るのは持ってきたテントで、毛布や寝袋もちゃんとある。

 獣なんて出るわけないし、万が一怪我や病気になっても、救急箱と119番があれば安心。

 そんなのはただのお遊びだ。


 だが、今の状況はそんな優しくない。

 まず、火を起こすなら、火打石や、木に棒でぐりぐりするヤツをやらなければいけない。

 調理器具もなく、何ならそもそも食料が無い。

 野草も見たことないものばかりで、向こうでも知識のない俺に、判断がつくわけがない。

 寝具なんて何もないし、野生動物は、そもそも何がいるかもわからない。

 人里までの距離もわからず、頼れる人は誰もいない。

 無い無いだらけで、完全に詰んでいやがる。


 一応、ずっと真っすぐ歩いてはいるが、そっちに人里がある保障なんてない。

 はぁ……腹減った。


 一応、近所のコンビニに出かけるところだったから、小さいカバンと腕時計くらいは持っている。

 だが、カバンの中身はスマフォに、イヤフォン。スマフォの充電コードにモバイルバッテリー。財布とティッシュ、それからハンカチ。あとはボールペンとメモ帳くらいだな。あ、あと家の鍵。

 どれも面倒で、いつもカバンに入っている、『基本どこに行くにも持ち歩くものセット』だ。

 もちろん、ハンカチは洗濯済みの綺麗なものだぞ? 入れっぱなしって訳では無い。

 ただ、忘れると困るから、出したらすぐに新しいのを補充しておいているだけだ。

 

 はぁ……誰もいないのに、誰に言い訳してんだよ、俺。

 そもそも俺は、他人の目なんて無駄に気にする人間じゃないだろうに……


 「――――た―――えが――――」

 「――ね――――んが――」


 そうして俺が軽く絶望に浸っていると、遠くから何やら話し声らしき音が聞こえた。


 あっちは……森の方か? いや、その向こうに、微かに道のようなものが見えるな。

 これは僥倖。声の主には感謝しなければ。




 俺は早速道に出ようと、駆け足で声の方へと向かう。もしかしたら、道とか教えてもらえるかもしれないし。

 っと、よし。道に出た……ぜ……?


 「おい商人さんよ~。護衛は皆死んじまったぜぇ? 後はあんただけだな! ギャハハハハ!」

 「くっ! この下種共め」


 あーね。そういうね。定番だけどね確かに。でもなぁ~

 あ、商人と目が合った。

 何も考えずに飛び出したのは失敗だったな。つい人を見つけた喜びで冷静さを欠いてしまった。反省。


 「お、おい! そこのお前!! この盗賊どもを追い払ったら、金をやるぞ! 10万ギル、いや20万ギル払ってやる! それもこの場でだ!! どうだ、助ける気になっただろう? こんな儲け話なかなかないからな。だから早く、俺を助けろ!!」


 商人が馬車の上から喚き散らしてくるが……何だアイツ。ムカつくなぁ~

 なんていうか、俺様はえらいんだぞ感があるというか、見下されている感が凄い。

 助けたくね~


 「おいお前。どうするんだ? 邪魔するなら容赦はしないぞ?」

 「いやいや、荒事は苦手でね。どうぞお好きに」


 盗賊の中の、ちょっといい装備してるやつが聞いて来たので、即返答する。

 盗賊は全部で7人。

 こんなやつのために体張るのなんて御免だ。

 それに――――


 「だとよ。残念だったな商人。へっへっへ」

 「な、なぜだ貴様ーー!! このバーガン様が助けろと言っているんだぞ!? 無償でも助けようとするのが当然であろう!! それを貴様は――――」

 「うるせぇよ。もう黙れ」


 なおも喚く商人の首を、さっき声をかけてきた盗賊が刎ね、その息の根を止めた。


 「さてと……それじゃあ、にいちゃんよ。見逃してもらったとこ悪いが、あんたも有り金全部置いて行ってもらうぜ?」

 「ま、そうなるわな」


 盗賊は、商人の首を刎ねると、そのままこちらに向き直り、その手に握る剣の先を向けてくる。

 まあ、こんな見たこともない素材の服着てて、助けにも応じなかった弱そうなやつなんて、盗賊からすればいいカモだろうし。

 そばに突っ立ってたら、そりゃついでに襲いもするだろう。

 だが、そんなことは予想済み。というより、むしろそう来てくれなくては困る。


 「んじゃ、ちゃちゃっとやりますかね」

 「は? てめぇ何言って――――」


 俺は盗賊の言葉の終わりを待たず、神から貰った膂力強化のスキルで強化された身体能力をふんだんに利用し、一番近くにいた男の懐に一瞬で踏み込み、その腹に拳をめり込ませる。そしてそのままそいつの体を蹴り飛ばして、後ろに突っ立っていた2人を巻き込む。

 そこでようやく盗賊も交戦の姿勢をとるが、もう遅い。

 すぐ左の男の顎を左の拳で揺らし、右の男の顔面に裏拳をぶち込む。それをそのまま後ろから斬りかかってきた男にぶつけ、馬車の荷台から飛び降りてきたリーダーの男の金的を蹴り潰す。そして最後に、仲間の体を押し退け立ち上がってきた二人の顔面を鷲掴みにし、地面に後頭部を叩きつけるっと。

 はい、終了。


  

 こんな盗賊程度、ナイフを持ったチンピラへの対処と大して変わらんし、この身体能力があれば、怪我をするなどあり得ない。


 さて、俺の人外じみた力を食らった盗賊どもは、仲良く皆でおねんねしている。

 顔が砕けて鼻血ブーしてるやつとか、内股で泡吹いてるやつとかいるけど、生きているからモーマンタイ……生きてるよね?

 商人のおっさんは死んじゃったけど、別に俺が殺したわけじゃないし。

 んじゃ、まぁ――――


 「あ~、盗賊怖かったな~。でも無事倒せてよかった~。それじゃあ、盗賊の持ち物をもらって行こうかな。持ってたらまた悪さするかもしれないし、別にいいよね?」


 はい、言い訳終了。

 俺は、馬車に積まれていた荷の中からロープを探し出すと、それを使って盗賊を全員拘束。

 その後、商人……バーガンとか言ったか? の死体を馬車から降ろすと、盗賊の荷物(・・・・・)である馬車から金目の小物を回収し、カバンにしまう。

 更に、皆の腰から財布を全て回収し、一つにまとめてそれもカバンにしまう。


 まあ、最初からこれが目的だったわけですね。

 だから、俺は商人を助けなかったし、そのまま逃げずに突っ立っていたというわけだ。

 でも、盗賊が襲ってこなければそのままスルーのつもりだったし、俺悪くないよね?

 一応戦闘は避けたかったけど、襲われたから仕方なく倒して、ついでに持ち物をもらった。ただそれだけだ。うん。


 俺は馬車に繋がれた馬を野に放った後、商人の護衛役らしき4人の亡骸を道の脇に並べ、荷台にあった布を被せてその場を後にするのであった。

 商人と違って、彼らには何の悪印象も持っていないし、それに万が一俺がこれをやったとバレても、これだけでかなり印象も変わるだろう。

つづく

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