自己中心男の、トンデモ異世界ライフ プロローグ
俺の名前は宮倉 健斗。
友人0人、恋人いない歴=年齢の、しがない高校二年生。
座右の銘は『自分良ければ全て良し』だ。
そして、俺の目の前にいる白髪ロン毛ジジイの名前は、カミ。
さっき、「わしはカミじゃ」とか言っていたから間違いない。
しかし、変わった名前だよな。
『カミ』って、音だけ聞いたら『神』だろ?
レストランとかで、「〇〇番でお待ちの神様~」とか呼ばれるのかな。
俺だったら羞恥で死にたくなる。
学校とかでも、絶対ネタにされそうだし……
ってことは、このジジイはこの歳までそれに耐えてきたのか?
そう考えると、もしかしたら凄い奴なのかも。
「おい、聞いておるのか? おい!」
「ん? あ、ごめん。全然聞いてなかった」
どうやら、俺がこいつの名前について考察している間に、なんか話してたらしい。
まあ、聞いて欲しいならもっかい話すだろうし、大丈夫だろう。
なにせその名前に何十年も耐えてきた、心の強い御仁なのだからな!
「はぁ……なら、もう一度だけ言うから、ちゃんと聞いておるのだぞ?」
「おう」
ほら、問題なかった。
流石は鋼鉄ハートジジイ。
「お主は、100年に一度の『神様の、ドキドキラッキーくじ引き』で見事引き当てられたので、お主の願いを一つ、聞いてやろうという話じゃ。何か願いを申してみよ」
おお! なんかラッキーな話っぽい?
でも、イベントのネーミングセンスが、直球過ぎて残念だ。
他が和風な感じなのに、カタカナ使っちゃってるあたりが、かなり安っぽい。
というか、100年に一度とか願いを叶えるとか、何言ってんだこいつ?
人間にそんなことできるわけないじゃん。
まあ確かに、ここは雲の上みたいな風景だし、それっぽい雰囲気は醸し出しているけれどもね?
てか、これいくらかかってるんだろ。こいつ、金持ちなのかな?
……あ、それだ!
使い切れない金の使い道を作るために、こんな謎の企画を趣味でやっては、自分の名前にちなんで神様ごっこをして悦に浸っている物好きだなコイツ。
はは~ん。それで願いを叶える、ね。
あ、ってことは、名前のことも鋼の心で耐えきったのではなく、金の力で黙らせたのか!?
くそう。一瞬でもこいつを尊敬してしまった自分が憎い。
ここはあれだな。金で解決できる願いはあえて避けて、こいつの困り顔を拝んでやるとしよう。
俺からのささやかな復讐ってやつだ。逆恨みだけど、そこは気にしたら負けだ。
しかし……となると何が良いか。
不老不死にしろとか?
ん~……ダメだな。すぐに効果がわからないと、「はい、これでできましたよ」で流されかねないし、もしかしたら莫大な財力で、それに近い何かをすでに開発している可能性もある。
そう考えると、さっき100年ごとにとか言ってたのも、あながち嘘じゃないのかも。
どっちにしろ、これは却下だ。
じゃあ、魔法が使えるように?
……いや、これもダメだ。
進んだ科学技術は魔法と同じ、とか聞いた覚えがある。
相手は超金持ちだ。魔法に見紛うほどの技術を持っていても不思議じゃない。
……あ、ならあれはどうだ? 異世界転移。
神といえば異世界だろう。最近流行ってるし、いいかもしれない。
あ~でも、それっぽい巨大な土地を保有していて、そこに運ばれたり、VRとかでそういう仮想現実を見せられるって可能性もあるな。
……いや、それなら能力もつけさせよう。
それなら、流石にかなり難易度が上がるはずだ。
現実なら全部揃えないといけないし、VRなら、すべての条件が揃っているものがすでに無いと無理だろう。
フハハハ! この老いぼれの苦渋に歪んだ顔が目に浮かぶわ!!
「……まだ、決まらんのか? 確かに悩むのもわかるが、そろそろ決めて欲しいのじゃが」
お? 痺れを切らせて向こうから催促してきたな。
こんなあたりも、実に人間らしい。
神なら、そんなこと気にするはずないしな。
「ちょうど今決まったところだ。俺を異世界に転移させてくれ」
「……ほう」
お、なんか凄い神妙な顔になった。
ちょっと意地悪過ぎたかにゃ~? ごめんね~。
できませんって正直に言って謝ってくれれば、俺も妥協案を――――
「構わぬが、向こうの神にも承諾を得ねばならぬので、どこでもというわけにはゆかぬぞ?」
っと? できちゃうんですか。そうですか。
でも、ちょっと選択肢を狭めてきたという事は、やはり手札にも限界があるという事か。
なら、条件を提示してやろうじゃないか。
「こちらの希望は、まずは魔法がある程度普通に存在すること。それから、最低限生きていけるような、まともな環境であること。人間がいること。異世界の存在が知られていないこと」
「うむ。それなら大丈夫じゃ。うってつけの場所があるでの」
ほう……だが、まだ終わりじゃないぞ?
すぐにその自信満々な顔を、歪めてやろうじゃないか!
「それから! 俺に特殊な能力をくれ。異世界転移で神といえば、ギフトをくれるのが定番だろう?」
「む? まあ、あまり向こうの世界に悪い意味で大きな影響を与えかねんものならば良いが……」
「ん? それはどういう意味だ?」
「いや、例えば、『大陸を一撃で消し飛ばす力』とか、『星を砕く力』とか、『生きとし生ける者全てを屍に変える』とか、そういう出過ぎた力は与えられぬという事じゃ」
「なんだ、それなら安心だな。俺の要求する力は――――まず、『不老』だ。世界を見て回るのに、人間程度の寿命じゃ足りんからな。満足するまで見て回りたい。それから『膂力強化』。平和な国で生まれ育った俺には、異世界は辛いだろう? だから、理不尽に打ち勝つことのできる力が欲しい。それに、徒歩での旅は今のままじゃきついしな。そして最後に……あ、いや、その前にもう一個あったわ。言葉通じないだろうし、そこのところが快適になるようなのも頼むわ。んで、今度こそ最後のが、『物質操作』だ。これはあれだな。手を触れている物を構成する物質を、好きに操作できるってやつだな。木に触れて小屋を作ったり、鉄に触れて剣を作ったり、そういう奴だ。こっちの世界の快適さを知っている俺じゃ、向こうの生活は苦痛に感じてしまうかもしれないし、仕事にも困るかもしれない。だから、それの回避のための策だな」
ふっふっふ……これだけあれば流石に厳しかろう。
前二つはまだしも、後の二つは流石に少し進んだ程度の科学では難しいはずだ。
それに、不老以外はすぐに効果を確かめられるものだから、誤魔化しもきかない。
理由付けは、一応拒否しにくいようにしておいただけで、ぶっちゃけテキトーだ。
だって、別にホントにいくわけじゃないしな。
しかし、マジでぶっ飛んでる系を先に封じてくるあたり、こいつもかなり限界が近いのだろう。
さて、どうだ? 今度こそ無理だろう?
今なら泣き土下座で許してやらんことも――――
「ふむ……まあ、大丈夫じゃろう。多少希望と差異はあるかもしれんが、悪いようにはせんから安心してくれ。それでは、早速――――」
「ま、待ったーーーー!!」
一瞬考えるようなそぶりを見せただけで、直ぐに大丈夫だとか言いだしたジジイを、俺は慌てて止める。
マジで叶えられたら、たまったもんじゃない!
だが、結構余裕そうに見えるが、今少し悩んだな!?
それなら、この条件を付け加えさせてもらおう!
「転移の際、俺の意識が飛ぶのは無しな!! 目が覚めたら~とかいうのは無しだ!!」
冷凍保存で目が覚めたら〇年後とかなら、割とあり得そうな近未来技術だ。
それで時間稼ぎをして、準備をすれば大丈夫とか思ったんだろうが、そうはいかない!
どうだ! これでお前のその自信満々のどや顔も、今に歪んで――――
「まあ、確かに寝ている間に襲われたら危険じゃしな」
「そ、そうだ! だから――――」
「じゃが安心せい。元々意識が飛んだりはせぬよ。ほんの数秒、視界が真っ白になるだけで、直ぐに向こうについておる」
な、なに!?
マジか。これはマズい。非常にマズい。
俺は別に、異世界とかホントはそんな興味な――――
「では、異世界ライフを楽しんでくれたまえよ」
ジジイのこの言葉を最後に、俺の視界が白い光で埋め尽くされた。
つづく




