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魔王様は暇過ぎる 第五話 『』

没の続きの短い奴

 魔界の森を、ただひたすらに歩き続けて3日目。

 後ろを歩くのは、恐怖の代名詞ともされる魔王その人。

 この3日、ろくに会話もなく、ただひたすらに人里へ向かって歩き続けている。

 ……正直、気まずい。


 今の状況に至る経緯は、そう複雑なものではない。

 あの魔王城消失の後、魔王が「人の暮らしというものを見てみたい」と言うので、私もどうせ帰らねばならないし、ついて来たらどうかと言ったら、素直についてきた。ただそれだけだ。

 本来なら、魔王なんて存在は、間違っても人里に連れて行くわけにはいかないのだが……この魔王は、少しは信じてみてもいい気がした。

 あの時の彼の叫びには、少なくともこころがこもっていた。そんな気がするから。


 だがしかし、流石に3日も会話がほとんど無いというのはどうなのだろうか?

 彼との会話なんて、敵が襲ってきたときか、止まって食事にするときくらいしかしていない。

 それも、一言二言の最低限のもので、それ以上は何もなし。

 完全に黙って、何を考えているのかずっとうつむいている。

 そんな空気の中、瘴気に覆われた薄暗い森を歩き続ける……正直、もう限界だった。


 「魔王。あの魔王城跡を発ってすでに3日目になるが、そんなにずっと、何を考え込んでいるのだ? 正直に言わせてもらうと、ずっとこんな重苦しい空気では、流石に身が持たんのだが……」

 「ん? 何か話した方が良かったか? お主は我の同行を許しはしてくれたものの、魔王という存在に対するわだかまりが解けた訳ではあるまい。であれば、あまり話しかけるのもどうかと思って、自粛していたのだが……」


 え、ええ~……

 じゃあなんだ。この魔王は、私に気をつかって今までずっと黙っていたというのか。

 なんという有難迷惑。というか、絶対強者である魔王が、そんな気遣いなんてしてるんじゃない! と言いたくなる。

 まあ、そんな魔王だからこそ、私も信じてみたくなったのかもしれないが。


 「いや、あの……確かに完全に信用しているわけではないが、それなりには信じてみても良いと思っているし、そもそもどうこうできるような相手ではないことは、十二分に理解しているつもりだ。なので、変に過剰な気遣いをされても、逆に困ってしまうのだが……」

 「む? そうであったか。それはすまんな。では、今後は普通に接するとしよう」

 「あ、ああ……そうしてもらえると助かる」


 やはり、この魔王はよくわからん。

 なぜ、これほど絶対的な力を持っていながら、これほど普通なのだ……

 確かにこの魔王の対応は、対等な立場の人間として考えるなら、何もおかしくはないが、それをするのがこれほどの強者ともなると違和感が――――いや、違う。そうじゃない。この魔王は、私如きですら、対等な存在(・・・・・)として接しているのだ。

 


つづかない

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