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魔王様は暇過ぎる 第三話 『女性の気持ちは難しい』

 「なに? 勇者ではないのか?」


 魔王は私が名乗りを上げると、何を思ったのか意外そうな声と共に肩の力を抜く。

 お茶の用意をしてたり、私を治療したり……先ほどから私には、この魔王が何を考えているのかさっぱりわからん。

 最初はこちらを舐めて、バカにしているのかと思ったが、それにしたって妙だ。いったいどういう――――


 「じゃあ、戦う必要ないね。だから戸惑ってたんだな! いや~てっきり勇者だと思ってて……スマンな!」


 …………は?

 こいつは何を言っているんだ? 戦う必要が無い? 勇者でなければ、相手をする価値も無いとでも言うつもりか!? 私を――――舐めるな!!





 ~~~~~~~~~~





 いや、まさか勇者じゃなかったとは。完全に予想外だった。

 この500年、客なんて一人も来なかったものだから、てっきりここに来るのは勇者だけとばかり思ってしまっていた。

 だが、勇者で無いというのであれば戦う必要はない。俺の役目は、やってきた勇者を倒すことだけだからな。

 それなら、彼女が起こる理由にも納得がいく。

 戦いに来たのではないのに、戦おうなどと言われれば、戸惑うし焦りもする。

 いや~、悪いことしちゃったかな?

 怖くないよ~? 魔王怖くないよ~? だから帰らないでね~?


 「ふ……ふざっけるな!! 私は誇り高きメリスティア王国の第三王女にして、勇者パーティーの一員!! 貴様を討ち滅ぼすべく、この命の全てを賭すと! 貴様を倒すまで帰還はあり得ぬと!! 愛する民に誓ってここまで来た!! それを貴様は……相手をする価値も無しと、そう言うのか!!」


 え、ええ!? なんか怒り出しちゃったんですけど!? なんで? もう訳がわからないよ~


 「確かに私は貴様には敵わぬかもしれない。きっとここで戦いを挑んだところで、この命を無為に散らすだけなのだろう……だが!! それでも私は!! ここで貴様と戦わなければ、死んでいった仲間たちに顔向けできぬのだ!! ここで逃げかえれば、私は私の誇りを裏切ることになる!! それだけは、それだけは死んでも御免だ! さあ、構えろ魔王!! 正々堂々、私と戦え!!」


 あれ? 結局戦いたいの? あ、あれかな? 勇者ごっこみたいな? 勇者にあこがれて、それを演じてるみたいな。

 それなら、勇者ではないのに魔王に戦いを挑むのも納得がいく。

 よし、それなら俺も一肌脱ごうではないか!

 なるべく怪我しないようにすれば大丈夫だよね?


 「ふっ……ふははははははっ! 良かろう。貴様を勇者と認め、一度だけ我と戦う事を許そうではないか!!」

 「そうか……こんなことを言うのはおかしいかもしれんが、感謝する。あと、私は魔法使いだ。勇者ではない」


 お、感謝された。どうやらこれで合っていたようだ。

 勇者ごっこではなかったようだけど、まあいいや。

 とにかく、これで帰らないでいてくれる!!

 あーでも、倒したら帰っちゃうのかな? それはやだな~。

 でも真面目に戦わないと、それはそれで文句言われそうだし……

 そもそもこの人、どのくらい強いんだろう?

 他人と戦ったことなんてないから、どれくらいで戦えばいいのかよくわからないな。

 保有する魔力や生命力的は、俺に比べてずっと低いみたいだけど、何か特殊な力とかあるかもしれないし……う~ん。


 「聖なる槍よ! 悪しきを貫け!! ホーリージャベリン!!」


 俺が悩んでいると、目の前の……システィアさん、だったか? は、俺に向かって魔法を放ってくる。

 でもホーリージャベリンか……そんな弱っちい魔法じゃ、防御しなくてもちくっとするくらいだろうし……でも一応、何かしておいた方が良いのかな?


 「ふんっ!!」


 俺はなんか力んだっぽい掛け声と共に、体から魔力波を放ち、ホーリージャベリンを完全に打ち消す。


 「馬鹿なっ!? 超級魔法をそんな簡単に!?」

 「その程度か? 魔法使い」


 俺はそれっぽく偉そうな感じで場を盛り上げてみる。

 きっと初弾は様子見の弱攻撃だろうし、ここからが本番よ! みないな熱い展開になるに違いない。

 相手もこれには文句は言わないだろう。いいぞ、俺!





 ~~~~~~~~~~





 「その程度か? 魔法使い」


 魔王は私の必殺の一撃を軽く消し飛ばし、私を嗤う。


 今のは私にとっての最強の一撃だった。

 油断している初撃で決めねば勝機は無いと、全魔力を乗せて放った、最強の一撃。

 だが、それすらもこの魔王にとっては、軽く消し飛ばせるような、そよ風のようなものでしかないのだろう。

 ……わかっていた。初めから分かっていたんだ。こうなるって。

 確かに少しは期待もしたが、それでも、きっと敵わないって分かってた。

 でもっ! それでもせめて、一撃くらい……傷の一つくらいは、与えてやろうと思ってたのに……なのに、こんな……

 …………私は、無力だな。悔しいほどに、無力だ。

 魔王は――――――強過ぎた。


 「ああ……こんなものだ、私は。貴様にとっての"こんなもの"が、私にとっての全力なのだ。悔しいがな。私の負けだ。好きにするがいい。敗者である私には、もはや何の権利も無いのだろう? わかっているさ。それが貴様ら魔人のやり方だとな」


 これから私は、良いように弄ばれて、穢されて、そして最後にはゴミのように捨てられるのだろう。

 ああ……無意味な人生だった――――


 「む? それはあれか? 負けたからなんでも一ついう事を聞いてあげる、とかいう奴か? ふむ……」


 ……私が諦観と絶望の中にいるというのに、何をこの魔王はうきうきとした表情を――――ああいや、そうか。これから私に行う非道なあれこれを想像して浮かれているのか。この……外道めがっ!!


 「そうだ! その通りだ!! どうせ抗ったり嫌がったりしたところで、貴様らにそれを聞く耳など無いのだからな!! 好きにするがいいさ!! 魔力の枯渇した私など、所詮はただの無力な小娘! 抵抗などできはしないのだから!!」


 そうだ。好きにするがいい。

 私の方はもう、とっくの昔から覚悟はできている。

 魔王と戦うのだ。命を捨てる覚悟も、苦しみと恥辱の限りを与えられるのも、当然のように覚悟してきた。

 女であることも……とっくの昔に捨てた。

 何をされようと、私の心は折れない。

 何をされようと、貴様好みの悲鳴など上げてやるものか!!

 さあこい魔王!! こんな私でも、せめて最後に貴様をがっかりさせることくらいはできると思い知らせてやろう!!


 「う~む。お前の言う事はよくわからぬが、そうだな……それなら、お茶に付き合ってはくれぬか?」


 「…………はぁ?」

つづく

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