8. 聖女と、女の子
抜き足、差し足、忍び足。
人目につかないように注意を払って、街の裏側を和希と二人で慎重に進んでいる。
「【カモフラージュ】」
時折、固有スキルを織り混ぜながら。
……これじゃあまるで、悪い事したみたいじゃないか。
《スキルレベルがアップしました》
「なぁ和希、いい加減に隠れるのはヤメにしないか?」
「ど、どうしたんだよ、急に……」
「こう言うの、好きじゃないわ俺」
心暗い事なんて、何もないんだから。
「零……、分かったよ。けど、もうすぐ西門に着くからさ。ちゃんと、慎重に進もうな!」
「大丈夫だって。心配性だな、和希は。いつもと見た目が違うせいか、なんかキャラも違うし」
「ばッ──、そ、そんな事ないぞ? いつも通りだって……」
とか言いつつ、和希の猫耳がパタパタしてるんだけど。
アレ、どういった仕組みなんだろうな?
面白そうだから、しばらくは黙っておくけど。
「はいはい。じゃあ……ん? おい、和希、アレっ!」
「なんだ?」
「あそこ……人が倒れてる」
俺達との距離は、およそ百メートル。
猥雑とした路地裏の隅に、一人横たわる小さな人影を見付けた。
反対側を向いているその顔は窺えないが、身体はピクリとも動いていない。
「なあッ!? それはマズいだろ! 零、急ぐぞッ!」
「お、おい、和希ッ!」
慌てて走り出した和希の後ろを追うように、俺も全力で駆け出した。
「なあ、どうすんだよッ!? 病院みたいなとこ知ってんのか!?」
「多分……俺なら大丈夫だと思う」
すぐに辿り着き、様子を窺うと──
灰色のローブに全身を包まれ、そこから僅かに覗き見える身体の一部分が、まるで石のような鈍色に変色している小さな女の子の姿があった。
見るからに、痛々しい姿。
稚い顔を苦痛に歪め、目は固く閉ざされたままで。
息は浅く、消え入りそうな程にか細く小さな呻き声をあげている。
「──ッ、和希……これは」
「任せろ──《リムーブ》」
和希の身体から魔法発動のエフェクトが発生し、次の瞬間には柔らかい光が女の子を包み込んだ。
それは、状態異常回復の魔法なんだろう。
しかし、そこにある女の子の姿は何一つ変わらないまま。
「クソッ、駄目なのか!? それなら……【女神の施し】《リムーブ》」
和希はなにかのスキルを使用して、緑色のエフェクトを伴いながら再度魔法を唱えた。
それは、さっきよりも強い輝きを伴って──
「おおお……」
みるみる女の子の肌は元の艶と弾力が蘇り、次第に呼吸も落ち着きを取り戻し始めた。
「和希……どうなったんだ?」
「多分、もう大丈夫だろ。一応念の為に《ヒール》」
「治ったのか?」
「石化のデバフは解除出来たよ。固有スキルを使っちまったけどな」
「──さっきの緑色の光か?」
「ああ。お前になら教えてもいい……かな? 俺のクラス『聖女』の固有スキルの一つ【女神の施し】は、次にキャストする魔法の効果を、一段階底上げするんだ」
和希……『聖女』って、お前。
「す、すげぇな」
普段の姿を知っている俺からすれば、余りにも現実とはかけ離れたそのユニーククラスに、少し言葉に詰まる。
けど、考えてみれば俺だって『気象予報士』だからな。
意味の分からなさ具合を見れば、いい勝負なのかも知れない。
「ぅ……ん……」
「お、おい、零! 起きるぞッ!」
「ああ、君……大丈夫か?」
薄く目を開け始めた女の子は、左手を地面につきながら慎重に上体を起こして、俺と和希、交互に目を配る。
一瞬の間が空いて、やがてそのいたいけな唇がゆっくりと開いて──
「……ん……ぁ、あなた……達は……?」
《限定条件クエスト【カミラのお願い】が、発生しました》
《受領しますか? ⇒ YES or NO》
*。:゜(´っω<*)゜・。+ セイジョダヨ