7. 逃避行と、フライデー
薄暗い路地裏を和希と二人、手を繋がれ、先導されたまま走る。
後ろを振り返る余裕も無い程に、全力疾走。
人を躱し、木箱を躱し、時折角を曲がる。
今どこに向かっているのかすら、もう分かるハズもない。
……そもそも、なんで俺逃げてんの?
《スキルレベルがアップしました》
「な、なあ……和希っ!」
「はぁ、はぁ、なん……だよ、零……」
和希も振り返る事はなく、その声だけが届く。
「なんで……逃げた? ど……どこ、行くんだ?」
「ん……と、とりあえず、俺の部屋、か、な?」
まあ、隠れるならそれしか無いのか。
やがて大通りに出ると走る足を緩め、ゆっくりと足並みを揃えて数軒先の建物に入った。
いやここ、入口に『♡男子禁制Ally ’sハウス♡』って書いてあるんだけど……
「本当に入っていいのか、これ?」
「いいよいいよ。早く来なって」
「マジか……」
なんだここは……
エントランスをくぐり抜け、二人で廊下を早足で歩く。
周りを見れば、壁紙も、装飾品も、全体的にピンク色ばっかりだ。
和希に連れられていなかったら、絶対に入る事はなかっただろう。
っていうか、普通に恥ずかしい。
だってここ、女子寮みたいなもんだろ?
早いとこ和希の部屋に逃げ込みたい。
しばらく歩いて、目的の部屋まで辿り着いたのか、曲がり角の手前で和希はゆっくりと立ち止まった。
「ここだよ」
和希がドアノブに手を掛け、まさに開けようとした瞬間──
「あ、クジカさん、おつ──ッ!」
ちょうど角を曲がってきた女の子に声を掛けられ──和希と、そして後ろに並ぶ俺と目線が合ってしまった。
「おっ、おうっ!」
和希が返事をするも、その場で固まった女の子の視線が俺と和希、交互に移り、そして徐々に下がっていく。
釣られるように、俺と和希の目線も徐々に下がって……繋がったままの二人の手が──
「────」
おうッ!
どっちが先かは分からない。
和希と二人、その場から飛び退く程の勢いで、揃って手を離した。
いや、完全に、忘れていたよ。
「アハハ──」
俺が乾いた笑いを出すも、和希の顔がみるみる赤く染まって──
勢いよく開けられた扉の中に、和希の手によって引き込まれた。
そのままバタンッ、と閉じられた室内で、互いに顔を見合わせる。
なんだろう。
とても、気まずい。
「じ、事故だよ、事故! 零は気にすんなって!」
いや、コレ事故ってんのかよ……
せめて嘘でも、なんでもないとか言えっての。
狼狽えてる和希は放っといて、とりあえず俺だけソファーに腰掛ける。
「……そっか、まあいいや。とりあえず、この後はどうすりゃいいんだ? お前に教えて貰う気だったから、ロクにこのゲームの事知らないんだけどな」
「ああ……そうだッ! それよりお前、さっきレイドボス一人で倒してただろ?」
「レイドボスだかなんだか知らないが、変なドラゴンならさっき撃ち落としたぞ。なあ、解放クエストって何なんだよ?」
「やっぱりお前か……」
やっぱりって……失礼な。
立ちっぱなしだった和希もいい加減気持ちが落ち着いてきたのか、ベッドに腰掛けるとなおも言葉を続けた。
「解放クエストってのは、この世界の趨勢に関わってくる重要な特殊クエストで、一言で言えば、激レアイベントだ。お前──多分、これからしばらくの間、色んなのに狙われ続けるぞ?」
あー……アレか。
全員参加系の激レアイベントを、俺が一人でぶっ潰しちまった訳か。
そりゃあ、追われるわ。
「俺の事狙ってんのって、さっきのヤツらだけか? 和希と一緒にいた二人もそっち系なのか?」
「とりあえず、絶対狙って来そうなのは、二クランだな。一つは、無頼天涯が率いるランキング二位【天涯旅団】。もう一つは、ウリエル☆ミが率いるランキング五位【Angels.】」
残念。
凄いんだろうけど、全く伝わらない。
なんだよ、☆ミって。
さっきの世紀末のとこも大概だったけど、こいつも絶対に近付きたくないわ。
「ちなみに、さっきの隣にいた小さい方は、俺んとこのクランリーダーな。ランキングは四位だ」
「って、さっきの子が和希のクランのリーダーかよ! なんかおっかない、ちっちゃい子!」
「ちっちゃい子って……ああ見えて、アリーは個人ランキングでも八位だからな?」
「……だから、そのランキングが分かんないんだけどな」
「身体よりもデカイ戦斧を、軽々と扱うんだ。二つ名は【戦姫】【斬殺幼女】【笑顔でキリングマシーン】とか。キレると恐ろしいぞ?」
……まともなの、最初のだけじゃん。
あの身長で斧使いとか、どんなキャラメイクだよ。
「ただの殺人狂じゃねぇかよ、ソレ。何となく危険そうなのは、さっきの流れで分かったけどさ」
「まあ、明日はランキングの更新日だし、後で見に行こうぜ。そん時に説明してやるよ」
「明日? それ、毎日?」
「いや、週ごとで、毎週月曜の朝八時に更新。暫定番だけどな。毎月一日の朝八時が確定番で、こっちは上位ランカーには多少の報酬もあるぞ」
「へー。まあ、俺には関係無さそうだな」
そもそも、俺の興味は弓だけだ。
「今はβの連中が幅効かせてるけど、零ならすぐにランカー入り出来るって」
「はいはい」
「それで、この後だけどさ、この街はしばらく出て、隣の街まで行かないか?」
「ん、身を隠す的な? そこまでする必要あんの?」
「あ、あ、ちょっとな……。本当はここに隠そうと思ったけど、見られちまったし。ほ、ほら、お前も早く弓で撃ちたいだろ? 一緒に行こうぜ!」
そう言い終わるなり、和希は俺の手を取って、
「お、おい、忙しいヤツだな──」
再び外の世界に飛び出した──
(( * >Д<*)) ドキドキ




