6. 招かれざる、闖入者達
煉瓦造りの西洋風な街並みを通り抜け、俺は噴水広場のそばまで辿り着いた。
本来なら、ゆっくりと観光を楽しみたいところだったんだけど……
実際はまるで忍者か、張り込み中の探偵か。
こそこそと物陰に身を潜めながら、何とかここまでやって来れた。
《スキルレベルがアップしました》
「けど、一体この後はどうしたらいいんだ? 和希を探そうにも……こんなんじゃ、おちおち外も歩けないし──」
さっきから、走り回って何かを探す四、五人ほどの一団を数回見掛けている。
時折叫び声を上げながら、レイ、レイ──と。
世紀末のザコじゃ無いんだから、ホント勘弁してくれ。
また、通りの向こう側にも──
「おいッ! そっちはいたかッ!?」
「いや、分からねぇ……大体、顔も知られてねぇのに、どうやって探すんだよッ!」
「とりあえず、知らねぇ顔、怪しい動きしてるヤツに手当たり次第声掛けちまえッ!」
「おい、レイってヤツ、出て来いよッ! 俺らから逃げ切れるとか、思ってんじゃねぇぞッ!」
いつの時代のヤンキーだよ──
しかも、俺の名前を何度も、何度も。
こんなん呼ばれて出ていくヤツなんて、いないだろ。
っていうか、何で俺がこそこそと逃げ回らなきゃいけないんだ?
考えるほど、無性に馬鹿馬鹿しくなってきた。
俺は隠れていた物陰からさっと姿を現して、通りに向かって整然と歩き出す。
どうせ向こうに顔を知られて無いんだから、正々堂々胸を張って──
「あ、いたいたっ! レイきゅんはっけーんっ!」
「は──、えッ!?」
「「なにぃ!?」」
歩き出して、僅かに数歩。
陽の当たる表通りに出た瞬間、左側から俺の名前を呼ばれて思わず振り向いてしまった。
そこにいたのは、腕を組んで歩く──もとい、真ん中のかなり小柄な女の子に、両サイドの二人が腕を掴まれて引きずられている異様な光景の、三人の女の子達。
だ──、あれ?
引きずられている女の子。
必死に顔を背けようとしているが、横顔でも分かってしまった。
日頃から慣れ親しんだ顔が、そこにはいた。
「なあ、もしかして……和希?」
名前を呼ばれた途端、その女の子はビクッと身体を震わせて、横向く顔が錆び付いたようにギギギ──とゆっくり正面を向くと、目が合った。
「よ、ようっ!」
普段とは違って、ちょっとドレッシーな、フリル付きのチュニックを着てはいるけれど。
更には、隠しようがない猫耳と尻尾がはっきりと見えているけれど。
栗色のミディアムショートに、ほとんど調整の入っていないその顔立ちは、紛れもなく見知った相手だった。
俺の悪友で、幼なじみの湯川和希──
「クジやん、レイきゅんと──知り合い、なの?」
「おうおうおう、テメェがあのレイか──って、戦姫ィッ!」
「うわぁ……アレ、天涯んトコの奴らっすよ」
感動の対面も、それぞれが複雑に三竦みでごちゃごちゃなこの現場。
更に世紀末達の闖入に合わせて、周囲には野次馬達がガヤガヤと、遠巻きに大勢寄ってきた。
すぐに囲まれて、逃げ道は元来た裏路地のみ。
……こんな予定じゃあ無かったのに。
「レイがいた、だァ? よしテメェ、ツラ貸せよ。天涯サンがお呼びだぜ!」
「おうおう、どけどけオメェら。俺ら泣く子も黙る天涯旅団様だぞ?」
騒ぎを聞き付けて、さらに世紀末達は増えていく。
野次馬達を掻き分けて、類は友を呼ぶ。
「ば──ヤメ」
「へー。先にレイきゅんに声掛けたの、わたし達なんだけど……殺る気なのね?」
ぞくりと、急に背筋が寒くなった気がする。
和希を掴む小柄な女の子から発せられた、中々ドスの効いた可愛らしい声のせいで。
っていうか、満面の笑顔を引きつらせて、こめかみの辺りがピクピクしてるんだけど。
いや、怖いわ普通に。
「いやッ、違ッ!」
「ま、待ってくれッ!」
「大丈夫よ。ここじゃあ殺らないから。よかったわねー、街中でのPvPは規制があって。ほら、早く街の外に行きましょう?」
「ヒ、ヒィィ!」
女の子は両手に抱えていた二人を手放して、世紀末達にじわじわとにじり寄って行った。
次の瞬間、解放された和希は駆け出し、俺の右腕を掴んで──
「零、逃げるぞッ!」
「お、おぅ……」
二人で路地裏へと逃げ出した──
ε=ε=ε=((( ´・Д・`)-oo-(。>Д<) ニゲルヨ