42. 別れと、旅立ち
「それで──レイ、この後はどうするつもりなんだ?」
「うーん……鍛練と晩飯とクエストと統治者関連?」
そう考えると、我ながらやる事が盛り沢山だな。
さて、どこから手を付ければいいんだろう。
とりあえずは鍛練でもしようか。
「……おいおい。とりあえず俺達は、一旦アンダルテに戻ってロザリーちゃんのクエストを進めようと思ってるんだ。クランの掲示板と知り合い全部にも声掛けてあるから。すでに何人かは目撃情報もあるし、保護に動いて貰ってるよ。後はリアルに戻って、公式の掲示板とかにも当たってみるつもりさ」
アーサーも、中々行動的な男だな。
そりゃあ大手クランを運営してるくらいだし、そんな物なんだろうか。
俺には……たぶん真似出来ないな。
最優先は、どうしても自分の事になりがちだ。
「アーサーさん! 本当ですか!?」
「ああ、ロザリーちゃん。君は……俺達と一緒に来るかい?」
「……こんな一方的に無茶なお願いばかりして、アーサーさん達には本当に感謝しています。でも……ごめんなさい。こんな私達でも、一つの家族なんです。皆が帰ってくる場所も作っておかなきゃいけないし。だから、とても……これ以上ご迷惑をお掛けする訳にはいきませんから」
「そうだよね……分かった。でも、この街にはいるんだよね? それなら、またいつでも会えるよ。──レイ、頼んだよ?」
《『アーサー』からフレンド申請が届いています》
《承認しますか? ⇒ YES or NO》
突然のアナウンスと共に、アーサーからの友達申請が届いた。
よく分からないけど、これを承認すればいいって事か?
「お、おう。」
《『アーサー』とフレンドになりました》
「それと、勝手だけど、ここのホームポイントも設定させて貰ったから。じゃあ琥珀、よろしく」
「ええ。皆さん、また会いましょう! 【連帯責任】《リターン》」
琥珀の詠唱した魔法の煌めきが、アーサー達四人を包み込んでいく。
手を振り、笑顔で。
重厚で青黒いエフェクトをその身にまといながら。
返すように俺達も手を振り、迫り来る別れの瞬間をいとおしむ。
アーサーも、初めはいけ好かないヤツかとも思ったけど、意外と悪いヤツじゃなかったな。
「色々と助かったし、面白い物も見れたよ。じゃあ──」
その挨拶も終わらぬうちに、アーサー達は消えていった。
黒い輝きの残滓を置き去りにして。
行って、しまった──
「レイさーん、私も一回抜けますね! 落とし前付けて来なきゃ! でも、すぐに済ませて帰ってきますから、安心して待ってて下さいねー!」
《パーティーから『トレイル・エクス』が脱退しました》
《『トレイル・エクス』からフレンド申請が届いています》
《承認しますか? ⇒ YES or NO》
「そうか──、そうだよな」
立て続けに、今度はトレイン君が去ると言う。
たった半日にも満たない時間の共有だったはずなのに、まるで物語の一幕が終わってしまったかのような虚しさが胸に押し寄せる。
寂しく……なんてないさ。
《『トレイル・エクス』とフレンドになりました》
どうせまたすぐに顔を出すつもりなんだろ?
家に帰って寝て起きて、また学校で顔を会わせるのと大して変わらない。
「ああ。そうそう、そう言えばこのゲームってどうやって連絡取るんだ?」
「レイ、そうだったよ。フレンド申請出すから承認して欲しい」
《『麞』からフレンド申請が届いています》
《承認しますか? ⇒ YES or NO》
三度目の、承認依頼。
別に和希はいつだっていいだろ?
《『麞』とフレンドになりました》
「クジカさん、ざんねーん! レイさんの最初の友達はもう頂きましたー!」
「なッ! くッ──」
「うーん……残念だけど、一番最初になったのはアーサーだな」
全員が僅かな差だけれど。
「なぬッ! あああー、あの父っちゃんボウヤッ! 後で誰かに殺させて殺る!」
突然、癇癪を起こした子供のように爆ギレするトレイン君。
なんだ?
アーサーが、なにかをしでかしたのか?
とりあえず、自分がPKを止めるからって、他人に殺させるのも止めような──と思ったのも束の間、さっと懐から出した石を地面に叩き付けると同時に青黒いエフェクトが発生し、トレイン君はすうっと消えていった。
あまりにも、呆気なくて──
「……とりあえず、フレンド登録が済んだから、メールが送れるようになったよレイ。ゲーム内通貨の課金金額によって送受信速度が変わったりとか、多少の制限もあるけどさ。なんか……一気に静かになったね」
俺と同じように感傷に浸っているのか、和希が小さく溢した。
「ああ、まだ若干一羽うるさいのがいるけどな」
「わ? ──羽ッ!? 失礼ね! ワタクシは稀少な古代幻獣種よ!」
「うん、知らない。召喚獣みたいな物か?」
けど、結局ウサギはウサギだろ。
そもそもこんなの呼び出したところで、なにが出来るというのか。
そういえば、なんかにいたな。
HPをちょっとだけ回復するハズレウサギが。
「あんな従魔たちと、一緒にしないで貰っていいかしらッ!? ワタクシ達は、そこのお嬢ちゃん達みたいな獣人種の祖に当たる、とっても崇高な存在なのよッ!」
「じゃあ、クジカの婆ちゃんみたいなモンって事だ」
いや、ネコ耳とウサ耳の違いだから、血は繋がった遠い親戚くらいかな?
「アナタ、本当に失礼ねッ! ワタクシまだうら若き乙女だわッ!」
「まあまあ二人とも、それで……ミリュイーヌさんは統治者に詳しいんですよね?」
見かねたのか、和希が仲介に入ってくる。
そうだった。
その為の、このウサギだった。
「詳しいも何も、元々ここはワタクシが統治していた街だもの。それくらいお茶の子さいさいよ」
「なんだ。じゃあ、なおさら返すよ」
「ヤダヤダ、ワタクシはもうドミュエーヌ族はコリゴリなのよ! だから、アナタみたいな強い人がちょうどいいわ! それで……とりあえずは、人選よ!!」
「人選……?」
コイツ……自分でやらずに他人にやらせる気だろう。
──あ、って俺もか。
悪い、悪い。
それについては、なにも言うまい。
「アナタ、アンダルシアとシュノブムの封印は解いてあるのよね? 好都合だから、このままクゥアールンのも解きに行きましょう!」
「なぜに?」
「ワタクシが《テレポート》使いたいからに決まってますわ」
「えッ!? ミリュイーヌさん……《テレポート》使える……の?」
「勿論! ワタクシを誰だと思っていらっしゃるんですの?」
「駄ウサギ」
「キーーッ!!」
げしげしと、地団駄を踏む駄ウサギ。
テレポートって事は、移動系の魔法かな。
さっき琥珀も何か《リターン》とかって、あれは帰還の魔法か。
確かに長距離を歩く時間を短縮出来るなら、便利と言えば便利か。
「まあまあ、ミリュイーヌさん。……レイ、話が進まないからちょっとしゃべらないで!」
「悪かったって」
「それで封印を解くって、一体何をすればいいんですか? 特に零は、何も……して……ああッ!! エリアボスッ!」
二体ほど、倒したな。
「そうね。ワタクシ達の言う所の瘴疫獣よ。アノコ達を倒した解放者は、いずれ使える様になるわよ」
「へー。まだ私も覚えられてないけど、いい事聞いた!」
「じゃあ、もういいか? 日も暮れただろうし、とっとと行くぞ? ──カミラ、ロザリー、ちょっと出てくるけど、着いてくるか?」
さっき、アーサーの元を離れたばかりのロザリー。
それにカミラも、今はロザリーにべったりとくっ付いている。
元々、彼女達の安住の地はここだという話だけど──
とりあえず俺からなにかを言うのはよそうか。
いらない事を言いそうだし。
「いえ……私達は──」
「レイお兄さん達の、ごはん作って待ってるのー!」
満面の笑みが、出立は別れではないと告げる。
そしてカミラの年齢にそぐわない、的確な言葉の選択。
将来はきっといいお嫁さんになるだろうな。
勿論、連れてきた男は俺が品定めしてやるけど。
万が一……アーサーみたいなヤツ連れてきたら?
みっちりと根性叩き直してやるから、大丈夫だ。
「そうか。じゃあ、ある物は全部置いとくからな」
ニンジン、キノコ、トリ肉、ドラゴン肉、カニ肉、ヤギ……は止めておこう。
怨念こもってそうだし。
インベントリから次々と、食材を出していく。
置き場がないから、とりあえず椅子の上に。
うず高く、意外と結構な量になった。
「あ、私のも使ってね!」
和希も同様に、食材を積み重ねていく。
……一体、カミラ達に何食分作らせる気だ?
山盛りになった椅子の上を眺めながら、じゅるりと舌舐めずりしている駄ウサギの腕を掴む。
強欲で、暴食までしそうだなコイツ。
「ほら、行くぞ!」
「ちょッ、ウサギ使いが荒いのよー!」
次は、一体どんな敵を狩れるのか。
期待が募って止まない──
(っ≧Д´)っ旦旦旦 ツカッテネ!
これにて、第一章部分が終了となります。
今後は、三日に一度程の更新頻度での投稿を予定中です。




